Netpress 第2079号 リアルからバーチャルへ 株主総会や取締役会をリモートで行う場合の実務

■Point
1.株主総会や取締役会において、オンラインによるリモートで運営を行う場合には、情報伝達の「双方向性」と「即時性」の確保が重要です。
2.株主総会については、実際の会場とリモート参加を併用する「ハイブリッド型」での開催を検討・実施する企業が増えています。
3.取締役会については、事実上、「ハイブリッド型」、「完全オンライン型」の方法のいずれでも開催が可能です。


梅田総合法律事務所 弁護士 沢田 篤志


1.はじめに

株主総会や取締役会の運営において、WEB会議システム等によるリモート参加の方法を取り入れる企業が増えています。


リモート参加の利便性のメリットは大きく、新型コロナウイルス感染症対策としてだけでなく、今後、長期的に利用が増加していくと思われます。本稿では、その留意点についてご説明します。

2.株主総会へのリモート参加


(1) 実際の会場とリモート参加を併用する方法

会社法は、株主総会を開催するにあたっては「場所」を定める必要があると規定しています(会社法298条1項1号)。そのため、実際の会場では開催せず株主がリモートのみで参加する「完全オンライン型」の株主総会は、今のところ、実施されていません(2021年4月現在。ただし、一定の条件のもとで「完全オンライン型」の株主総会を可能とする法改正が準備中であり、近く改正される可能性があります)。


しかし、現行法のもとでも、実際の会場とリモート参加を併用する「ハイブリッド型」であれば、株主総会を有効に開催することができます。


経済産業省は、2020年2月、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を公表しています。この「実施ガイド」では、実際の会場での参加とリモート参加を併用する株主総会を「ハイブリッド型バーチャル株主総会」と呼んでいます。
「ハイブリッド型」には、大別すると次の2種類があります。




(2) 「ハイブリッド型」の株主総会の留意点

「出席型」の株主総会を開催する場合には、多数の株主がリモートで「出席」して株主としての権利を行使できるようにする必要があります。


そのため、「出席型」の株主総会を実施する場合には、オンラインで、株主総会の開催場所と株主との間で情報伝達の「双方向性」と「即時性」が確保されている環境があること(相互にリアルタイムでやりとりができること)が必要です。また、通信障害対策、株主の本人確認、質問・動議の取り扱い、議決権行使の方法等について、周到な準備作業が必要になります。


このように周到な準備作業を要することから、上場企業の動向としては、今のところ、株主のリモート参加を導入する場合でも、「出席型」で実施する割合はまだ少なく、「参加型」で実施する割合が多いようです。


もっとも、非上場企業・中小企業の場合には、上場企業のように多数の株主が参加して権利行使するわけではありません。とりわけ、限られた顔ぶれの株主のみの参加が想定されるような企業の場合には、総会準備における作業のハードルはそれほど高くないと思われます。準備段階で専門家に相談し、アドバイスを受けたうえで、実施を検討されてはどうかと考えます。


(3) 株主総会の運営

議長は、株主がリモート参加する株主総会の場合には、議事の進行にあたって、従来型の株主総会よりも、さらにわかりやすく丁寧な進行を心がけることが重要です。


また、「出席型」「参加型」のいずれの場合にも、通信障害対策は重要です。事前にテスト通信をしておくこと、万一当日に通信障害が起きた場合には、いったん休憩を入れて復旧を図る等の対応を想定しておくこと等が望まれます。

3.取締役会へのリモート参加


(1) リモートによる取締役会の有効性を確保するための条件

取締役会への出席の方法に関し、会社法は規定していません。実際の会場とリモート参加の併用の方法による開催が可能であることはもちろん、事実上、全員がWEB会議や電話会議等でリモート参加する方法でも開催が可能です。後者の場合、議事録には、議長がいる場所(自宅でも可)等を開催場所として記載します。


ただし、リモート参加による取締役会を法的に有効に実施するためには、「取締役間の協議と意見交換が自由にでき、相手方の反応がよくわかるようになっている」こと、「各取締役の音声や画像が即時にほかの取締役に伝わり、適時的確な意見表明が互いにできる仕組み」があること、すなわち、情報伝達の「双方向性」と「即時性」が確保されている状況が必要です。


たとえば、通信状態、マイク、スピーカー等に問題があり、音声が途切れるなどして、双方向かつ即時のやりとりができない場合には、取締役会の有効性に疑義が生じかねませんので、注意が必要です。


(2) 取締役会の運営

WEB会議等は便利なツールですが、参加者の反応の把握や、同時に複数人が発言した場合等の場面において、実際の会場で行う会議と全く同じというわけにはいきません。リモートによる取締役会を機能させるためには、資料の事前共有を行うこと、会議の場で議長がWEB会議等の特性を踏まえた適切で丁寧な議事進行を心がけること等によって、双方向の活発な議論を促す工夫が重要です。

4.まとめ

現在、WEB会議等のシステムが広く普及しており、技術的な環境はかなり整っているといえます。株主総会や取締役会について、リモート参加による方法の活用を検討されてはいかがでしょうか。



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