Netpress 第2078号 いま注目の目標管理手法 「OKR」(Objectives and Key Results)を知っていますか?

■Point
1.目標の達成度を測る「目標管理」では、コロナショックのような激変に対応することは困難です。そこで、変化に対応できる柔軟な評価のしくみとして、いま「OKR」が注目されています。
2.OKRの本質は、「必達思考」から「ストレッチ思考」への変革。報酬とのつなげ方にも一工夫が必要です。


セレクションアンドバリエーション株式会社
代表取締役 平康 慶浩


1.変化に対応しきれないMBO

コロナショックによってリモートワークが広がるなか、目標管理制度(Management by Objectives:MBO)をうまく運用できないという課題が浮き彫りになりました。まず全社の計画を立てることができないという課題や、個人への目標の落とし込みができない、立てた目標も何度も修正しなくてはいけなくなる、という課題などでした。

「立てた目標の達成度を評価して報酬に反映する」。誰もがあたりまえと思っていた人事評価の手法が機能しなくなったため、他の手法はないのか、という議論が広がったのです。

そこで、いま注目されているのが、「OKR」(Objectives and Key Results)と呼ばれる目標管理手法です。Googleで採用されていることで有名になりましたが、もとはインテルで導入されたしくみです。アメリカだけではなく、日本のベンチャー企業などでも積極的に取り入れられています。

2.OKRとはどういうしくみなのか

目標管理制度という意味では、OKRもその範疇に含められます。そのため、MBOとOKRとで共通する部分もあります。その一方で、根本的に異なっている点もあるので、その違いに注意して導入しなくてはいけません。

MBOとOKRで共通するのは、「目標を連動させる」という点です。どちらのしくみでも、上司の目標と部下の目標は連動させなければいけません。一般的に、上司の目標は組織の目標であり、部下の目標は組織目標を達成するための一部となります。

その一方で、MBOとOKRとで異なる点はいくつもあります。表で比較してみましょう。




MBOというしくみの本質は、「確実に勝つための計画化」だといえます。必達目標を定め、その進捗を着実に測り、結果を出すよう全力を尽くすためのしくみがMBOです。MBOはその特性から、マーケット規模が大きく、ある程度ルーチン化されたビジネスを確実に機能させるのに向いています。だからこそ、コロナショックのような状況が起きなければ、MBOはしっかり通用していたのです。

一方で、OKRは「理想にたどりつくために臨機応変に対応するしくみ」です。OKRは、「Objectives」と「Key Results」という、2種類の目標によって構成されます。これらはいずれも目標ですが、あえて定義をするなら、「Objectives=実現したい理想の状態」、「Key Results=理想の状態を定量化した条件」となります。

具体的に比較してみましょう。ある会社の営業部で、MBOとして売上目標達成を目指したとします。この場合の目標水準は、対前年比5%~20%増くらいが多いでしょう。仮に前年売上が10億円なら、次のような状態です。




一方、OKRを用いる場合には、ObjectivesとKey Resultsは次のように設定します。




いずれも同じ目標指標を用いているのですが、目標水準がまったく異なっています。仮に順調に推移して、売上13億円を達成した場合にはどうなるでしょう。




これまでの常識で考えるなら、目標達成度が100%を超えているMBOのほうがしっくりくるはずです。その一方で、OKRの達成度である65%というのは、達成感も感じられないし、そもそも目標水準が無茶だったのでは、とも感じられるでしょう。結果で見ればその通りですが、MBOとOKRでは、期中の意識と行動が大きく異なります。

3.「ストレッチ」で飛躍的成長を実現

OKRを用いる組織は、必達目標を掲げません。理想の状態をまず高いレベルで掲げ、その状態について全社で合意を図ります。一人ひとりが組織のObjectivesに強くコミットすることを目指すのです。そして、それが実現した状態を具体的に定義します。昨年数値に積み増すのではなく、ゴールから逆算してKey Resultsを設定するのです。この時、達成度が100%を超えることを目指すのではなく、50%~60%になるようなストレッチ(背伸び)した目標を設定するように示されることで、一人ひとりがストレッチをあたりまえに感じるようになります。

それこそが、まさにOKRの効果です。一人ひとりの日々の意識と行動をストレッチし続けることで、会社としての飛躍的成長を実現できるようになるのです。OKRにおいて上司と部下の面談をフィードバック形式で頻繁に行う理由は、変化に対応しながら、時としてKey Resultsを臨機応変に修正するためでもあります。仮に期中に当初目標を達成できてしまったとしたら、さらに高い目標を設定することもあるのです。

4.OKR導入の注意点

OKR導入の詳細については、ぜひ個別にセレクションアンドバリエーション株式会社にご相談いただければと思いますが、本稿ではOKR導入の注意点を2つ示しておきます。

1つ目の注意点は、Objectivesを全社員が「そうなりたい」と思える会社の状態に設定することです。経営者だけが思い描く理想だと、それは無茶ぶりのノルマ主義と変わらなくなってしまいます。

2つ目の注意点は、給与改定や賞与額決定には別の方法を用いることです。決してOKRの結果と連動させてはいけません。この場合、別途年間査定などを行うことが一般的です。


これらの注意点を守り、Objectives実現に向けたKey Results達成のためのストレッチで、ぜひあなたの会社の飛躍的な成長を実現してください。



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