Netpress 第2253号 旧来モデルからの脱却が必要 若年層採用を意識した人事処遇制度の整備
1.昇給・賞与、昇進などに格差を設け、競争を煽る人事制度を売りにしても、残念ながら現代の若者はあまり魅力を感じてくれません。
2.ここでは、採用政策上、若年層に「刺さる」人事制度を構築するためのポイントを解説します。
株式会社グローディア
代表取締役 各務 晶久
1.熾烈な採用環境を意識した人事戦略を
文部科学省のデータによれば、少子化の影響により、新規学卒者は毎年110万人前後しか労働市場に供給されません。これは、平成4年(1992年)に18歳を迎えた学年(205万人)の半数強の水準であり、今後一層減少することが予想されています。
若年層の獲得競争は一層熾烈になっており、企業が存続するためには、若年層を惹きつける魅力的な人事制度を整備することが急務となっています。
では、採用政策上、若年層に「刺さる」人事制度とは、いったいどのようなものなのでしょうか?
2.「上昇志向」「実力主義」よりも「安定」「やりたい仕事」
マイナビキャリアリサーチLabが実施した「2023年卒大学生就職意識調査」(有効回答数35,543名)から、最近の学生の意識を探ってみましょう。
同調査によれば、学生の安定志向は年々高くなっているものの、「絶対に大手企業がよい」「自分のやりたい仕事ができるのであれば大手企業がよい」という大手企業志向の学生は全体の半数を割り込み、48.5%しかいません。
これに対し、「やりがいのある仕事であれば中堅・中小企業でもよい」「中堅・中小企業がよい」と答えた中堅・中小企業志向の学生は47.8%にのぼり、両者の割合はほぼ拮抗しています。
また、同調査によると、学生の企業選びのポイント第1位が「安定している会社」、第2位が「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社」で、第3位以下を大きく引き離しています。
これらのことから見えてくるのは、従来型の上昇志向を刺激するような人事制度は、現代の若年層には「刺さらない」ということです。
現代の若年層は、「興味関心のある仕事に安定的に就きたい」という志向が強いのであって、必ずしも熾烈な競争を勝ち抜いて高いポジションを得たいわけではないのです。
しかし、多くの経営者や人事担当者は、「若手が活躍できる会社」という組織風土を実力主義(≒成果主義)でアピールしがちです。
ところが、昇給・賞与、昇進などに格差を設け、競争を煽る人事制度を売りにしても、残念ながら現代の若者は魅力を感じないのです。
3.「選択」を社員に移す人事制度を
これまでの人事管理では、キャリア形成上、極めて重要な「選択」はすべて企業が決定してきました。しかし、本来キャリアは社員個々人が主体的に選択し、その結果に責任を持つべきものです。
この重要な「選択」を社員自身に極力委ねる人事制度への転換が、若年層がイメージする「やりがいのある仕事」「やりたい仕事」を実現するファーストステップです。
近年、採用後に職種を決定する総合職採用を取りやめ、職種別採用に切り替える企業が増えています。これは社員に「選択」を委ねる人事制度として非常にわかりやすい例です。
自ら職種を主体的に選択した社員と、希望しない職種に配属された社員とでは、どちらのモチベーションが高いかは自明でしょう。
経営者や人事担当者から「管理職になりたがらない人が増えている」という愚痴を聞くことが増えていますが、これこそ社員に選択を委ねる仕組みに改めるべきです。
「管理職のなり手が少なければ組織が持たない」という反論を耳にしますが、嫌がる人を無理に管理職にしても、メンタルを病んでしまうケースが少なくありません。
それよりも、社内外(特に社内の若手)から空いたポジションへのチャレンジを自由に募る仕組み(社内公募制など)を導入したほうが組織は活気づきます(なり手がないのですから、若手を抜擢しても問題になりません)。
近年、副業を解禁する企業が増えています。開かれた社風をアピールできるため、若年層にも受けがよく、企業が副業を奨励するかどうかは、採用政策上も非常に重要なポイントとなっています。
しかし、本来、副業は企業が奨励することではなく、社員がどのようなパラレルキャリアを切り拓くかは、社員自身が主体的に考え、選択すべきものでしょう。
「副業を許可する」と会社を主語にしている時点で、若年層からは古い社風とみなされているのです。
4.製造業の人事制度モデルからの脱却を
日本では、高度経済成長を支えた大規模製造業の人事制度モデルをモディファイして導入している企業が少なくありません。
製造業では、突出した数名のパフォーマンスが企業業績を大きく左右するようなことはありませんので、人事処遇にも極端な格差を設けていません。
一方、グローバル環境で戦う最先端テクノロジー企業では、少数の天才(スタープレイヤー)が企業業績を左右したり、世界的にも希少なスキルを持った人材を獲得できるか否かで、事業の成否が分かれたりします。
このような業種では、極端な処遇格差がつくのは当然ですし、プロジェクト単位で企業へ出入りすることも多く、年功処遇はマッチしません。
しかし、日系企業、なかでも大手メーカー関連企業などでは、親会社の人事制度からの逸脱を嫌うので、グローバル人材の獲得に苦戦しがちです。
最先端テクノロジー企業ではなくとも、サービス業では個々人のパフォーマンスの差やスキルの希少性などが明確であることが多く、製造業に比べて平均勤続年数も短い傾向にあることから、製造業の人事制度モデルからの脱却を図るべきでしょう。
現代の若年層は、自らのキャリア形成に関心が高い反面、一つの企業で長く勤めあげることを前提としていません。
そうであれば、企業側も人材の自由な出入りを前提としたオープンな組織形態への転換と、それを実現する人事処遇制度の整備を視野に入れてみてはいかがでしょうか。
そうした人事処遇制度を整備することができれば、優秀な若年層を惹きつける魅力的な企業に映るはずです。
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