Netpress 第2244号 未精算で放置は危険! 税務調査で問題になりがちな「仮払金」の適切な処理方法

Point
1.仮払金を精算せずに放置していると、税務調査や金融機関からの融資時に会社にとってリスクとなります。
2.ここでは、仮払金を適正に処理する方法や、精算を失念しない・させないための工夫を紹介します。


税理士 松澤 智也


仮払金は、支出時に経費の内容や金額が明らかになっていない場合に使用される勘定科目です。仮払金として処理される代表的なものとして、交通費や出張旅費、取引先との飲食を伴う交際接待費などが挙げられます。


支出時においては経費の内容や金額が明らかになっていなかった仮払金でも、内容や金額が決定したタイミングで精算され、適切な勘定科目へ振替がされていれば税務調査で問題になることはありません。


一方、税務調査で目を付けられ、問題になる仮払金とは、「相当な理由なく未精算となっている仮払金」です。このような仮払金が決算書に記載されていれば、「使途不明金があります」と言っているようなものです。


さらには、融資を受けている金融機関に対しても、ネガティブなイメージを与えてしまいます。

1.未精算の仮払金が増える原因

多くの場合、当事者が精算を失念するたびに未精算の仮払金が増えるわけですが、その当事者は、役員と従業員に分けられます。


たとえば、当事者が役員のケースでは、過去に精算をしなくても経理担当者や税理士に処理してもらった経験から、「精算する必要はない(経理担当者や税理士がなんとかしてくれる)」という意識がどこかにあるのかもしれません。


一方、従業員のケースでは、旧態依然の煩わしい経費精算ルールがネックとなっていることや、会社の経費規程が周知されていないことなどが原因として考えられます。


また、経理担当者において、仮払金全体が管理できていないケースも考えられます。管理できていたとしても、日常的な経費精算の催促は心理的負担もあり、億劫で面倒なものです。

2.仮払金を適正に処理するには

未精算の仮払金の発生を未然に防ぐためのポイントを確認してみましょう。


(1)原因の解明とリスクの周知

まず、仮払金が増える原因を解明することが必要です。


そのうえで、たとえば、その原因が役員にあるのなら、精算が滞りがちな役員に対して、会社にとってのリスク(使途秘匿金課税や金融機関の融資への悪影響など)を正確に理解してもらうことが必要です。


その際、会社にとってのリスクに加えて、役員自身にも課税リスク(役員報酬とみなされて課税される)が及ぶ可能性についても言及するべきでしょう。


(2)精算ルールの見直し

手間のかかる経費精算ルールが原因で未精算の仮払金が増える場合は、精算しやすい仕組みを整えましょう。


後述する「3.精算を失念しない・させないための工夫」を参考にしてください。


(3)会社として毅然と対応する

期末時点で精算が見込めない仮払金がある場合、貸付金として処理し、返済は毎月の給与から天引きすることが考えられます。当然、この貸付金に対する利息も適正に計上しなければなりません。


会社として、未精算の仮払金をこれ以上発生させないという毅然とした対応をとり、「仮払いとして支出したお金は会社の財産である」ことを再認識させることで、未精算の仮払金の発生を未然に防ぐことができるのではないでしょうか。


相当な理由なく精算が見込めない仮払金の取り扱いを経費規程に盛り込むなど、未精算の仮払金を放置せず、不明なものは返済を求めるという経理処理を継続することが重要です。

3.精算を失念しない・させないための工夫

どれだけ精算のしやすい経費精算ルールや厳格な規程を設けても、精算を失念してしまえば元も子もありませんし、上述した方法はすでに実行している会社も多いでしょう。


そうしたことから、「仮払い」自体をやめてしまうということも考えられます。


(1)仮払金の取り扱いをなくす

内容や金額が不明な金銭の支出はしないという工夫です。交通系ICカードやクレジットカード等を利用し、キャッシュレスでの経費の支払いに統一してしまいます。キャッシュレス決済が不可能な場合は、立替金精算で対応します。


また、出張旅費などについては、出張旅費規程の作成や見直しにより、精算が不要な仕組みに変更します。


ちなみに、2023年10月1日から導入される消費税のインボイス制度においても、出張旅費、宿泊費、日当等の取り扱いは変わりません。仮払金の取り扱いをなくす際には、各規程の見直しもセットで検討するべきでしょう。


(2)立替金精算への転換

仮払金とは異なり、立替金の精算は領収書ありきですので、内容と金額が明確になります。


しかし、立替金精算のデメリットもいくつか考えられます。たとえば、ある経費について、立替者と経費承認者の間で経費性の判断が異なった場合、立替金の精算が行われないこともあり得ます。


そのような事態が起きないよう、経費規程などで、精算できる経費の内容をあらかじめ決めておき、当該規程を常に閲覧可能な状態にするなど、周知しておくことが重要です。


(3)渡切交際費の活用

キャッシュレス決済が普及したといっても、まだまだ現金を取り扱う場面はあるものです。また、立替金精算も難しいという状況であれば、最終手段として、渡切交際費の活用を検討する方法があります。


渡切交際費は、仮払金として支給するのではなく、はじめから給与として支給するため、会社からすると通常の給与の取り扱いとすることで課税関係が完結します。


一方、受給者は上乗せ支給された給与から会社の経費を負担することになります。基本的な取り扱いは給与ですので、使途を明らかにする必要はありません。


上記で「最終手段」といった理由として、会社と個人の税負担の問題が挙げられます。


正当な経費であれば、会社はその経費に係る消費税の仕入税額控除が可能ですが、給与は仕入税額控除ができないので、会社の消費税負担は増加します。また、過大役員給与の判定は、この渡切交際費を加味して判定される点にも注意が必要です。


さらに、受給者については、渡切交際費に係る所得税と住民税の負担を強いられます。そして、いったん個人の懐に入ったものが、渡切交際費本来の使われ方を期待できるのかという疑問も残るので、慎重な対応が望まれます。



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