Netpress 第2240号 経産省の「手引き」を読み解く 中小企業等が実践すべきデジタルガバナンス・コード

Point
1.経済産業省では、中堅・中小企業等に向けて、DXの推進に向けた手引きを取りまとめています。
2.この手引きの内容を確認するとともに、中堅・中小企業等がDXを推進する際のポイントを解説します。


辻・本郷ITコンサルティング株式会社
DXバックオフィス事業部
コンサルタント 佐藤 大樹



1.「デジタルガバナンス・コード」とは

経済産業省は、あらゆる産業でデジタル技術の活用が加速する時代変化のなかで、持続的な企業価値の向上を図っていくために経営者が実践すべき事柄を「デジタルガバナンス・コード」として2020年11月に取りまとめました。


その後、同コードの策定から2年が経過したことを受けて、2022年9月には改訂版の「デジタルガバナンス・コード2.0」が出されています。


経済産業省としては、企業がDXの取り組みを自主的・自発的に進めることを促すとともに、特に経営者の主要な役割として、企業のあらゆる利害関係者との対話を捉え、対話に積極的に取り組んでいる企業に対して、資金や人材、ビジネス機会が集まる環境を整備していく方針です。


ただし、デジタルガバナンス・コードは大企業に向けられたものであり、中小企業等がDXに向けたアプローチを考える際には参考にしにくいと考えられます。


そこで、中小企業等がデジタルガバナンス・コードに沿ってDX推進の取り組みを実践する際、その手助けとなるよう作成されたのが、昨年4月に経済産業省から発表された「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」(以下、「実践の手引き」といいます)です。

2.中小企業等のDXの進め方

「実践の手引き」では、中小企業等のDXの推進について、以下の4つのプロセスを紹介しています。


(1)意思決定

大企業とは異なり、中小企業等は、経営者の一声で企業全体の業務プロセスを大きく変化させることができます。DXを推進するうえで重要な要素となる現場の従業員との距離も近いのが中小企業等の特徴です。


しかしその反面、明確なビジョンや経営理念がなければ、あらぬ方向にそれてしまう可能性もあります。


デジタルガバナンス・コードにあるように、経営者自らがあらゆる利害関係者と対話をし、積極的に各種セミナーへ参加するなどして、情報収集を行う必要があります。


自社の経営理念を見直し、DXに向けたビジョンをより明確にすることが、経営者の最も重要な仕事です。


(2)全体構想・意識改革

DXと聞くと、社内全体が一気にデジタル化するイメージを抱きがちですが、そうはならないことのほうが多いでしょう。


経営者がDXに向けてビジョンを明確にしても「笛吹けど踊らず」で、周りの社員がついてこなければ、まさに机上の空論に過ぎなくなります。


経営者がシステム刷新の知識を得たうえで、担当者に対して時間をかけて自らの言葉でビジョンとDX推進の必要性を伝え、社内全体に変革を受け入れる空気を醸成し、社員全員の意識を改革することが重要です。


(3)本格推進

社内全体がDXの実現に向かって進み出したら、現在の業務のプロセスを見直し、新たなシステムの構築を目指します。しかし、DXの専門部署を設けるのは中小企業等にはハードルが高く、経営者自身がすべてを理解することや、その道に精通している人材を確保することも容易ではないでしょう。DXを継続させるには、社内人材の育成が必要不可欠となるため、その教育にも時間や労力を要することになります。


そのため、本格的にDXを推進する際には、外部機関のサポートを受けることで、不足するスキルやノウハウを補いつつ、迅速に社内体制を構築することができるようになります。


また、プロセス(1)の意思決定で明確化したビジョンや集約した情報をもとに、より具体的なDX構想を作成しましょう。


(4)DX拡大・実現

DXの真髄は、顧客への価値提供にあります。自社のDXを成し遂げられたなら、その成功体験を自社だけのものとしてはなりません。自社のDXの過程で得られたデジタルツールを提供し、サプライチェーン全体の変革、さらには自社業界、他業界にまでDXを展開していきましょう。

3.DXの5つの成功ポイント

「実践の手引き」には、事例調査を通じて得られた「5つの成功ポイント」が挙げられています。


(1)気づき・きっかけと経営者のリーダーシップ

DXの推進に取り組む「きっかけ」や「気づき」を得る機会をいかにして得られるかが重要です。


施行が近づく「インボイス制度」や「電子帳簿保存法」をDX推進のきっかけにするのもよいのではないでしょうか。そして、きっかけを得たなら、中小企業等においては、経営者のリーダーシップが大きな役割を果たします。中小規模だからこそのフットワーク、風通しのよさがDXに活きるはずです。


(2)まずは身近なところから

まずは、身近な業務のデジタル化や、既存データの収集・活用から着手しましょう。


その推進過程で成功体験を得るとともに、ノウハウを蓄積し、DXに必要な人材の確保・育成を手掛けましょう。1つの成功体験が、組織全体に拡大していくことはよくあることです。まずは始めることが重要です。


(3)外部の視点、デジタル人材の確保

日々進化するデジタル技術を経営の力にするためには、専門的な知見が必須です。


DXの取り組みを迅速に推進するため、ITコーディネータなど外部の人材の力も活用しながら、足りないスキルやノウハウを補うことが重要です。


(4)DXのプロセスを通じたビジネスモデル・組織文化の変革

データやデジタル技術の活用を進めるなかで、ビジネスモデルや組織の変革を進め、企業文化自体を変革に強い体質にしていくことが重要です。


DXを進めるなかで、従来どおりの勘と経験に頼った商習慣からの脱却を図ることが、企業の成長につながります。


(5)中長期的な取り組みの推進

クラウドサービスやAIツールを活用したからといって、短期間でDXを実現することは難しいでしょう。


5年後あるいは10年後のビジョンの実現に向けて、戦略的に投資を行いながら、試行錯誤しつつ地道に取り組む覚悟が重要です。



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