反怖謙一の「ABC」通信 上司と部下

ABC通信は、日々の気づきや学びを基に、物事の根本や本質について忘備録的に書き綴ったものです。ABCは、A(あたりまえのことを)、B(ぼんやりせずに)、C(ちゃんとやる)の略で、私自身の座右としているものです。



上下関係のハッキリした、厳格な秩序立てをもって運営される組織において、その構成員たる個人には、職務分掌規程に基づく役職や職務ごとの地位・役割、権限や責任が明確化されています。

組織内における上下関係やヒエラルキーは、本来複雑な組織を管理運営するために設けられているものであり、当然ながら、地位や権限は本人の仕事上の頑張りに対するご褒美ではありません。役職や肩書はあくまで仕事上での呼称であり、役割分担を明確にするためのもので、個人の人格面での価値とはまったく関わりがありません。それゆえ、役職や肩書にあぐらをかいたり、権限を盾に威張ったり、理不尽な部下の扱いをしたりするなどは言語道断です。役職や肩書は、組織や仕事を発展させるためのもので、言うなれば組織からの一時的な借りものです。経営トップでさえも、組織のためにある存在、機能に過ぎません。組織内で主役を命じられたなら主役を演じ、脇役を命じられたなら名脇役を演じる。それができる人こそが、地位の上下にかかわらず、組織内で尊敬される人なのです。

これらを前提に、組織内における上司と部下の関係性の本質を掘り下げてみたいと思います。そもそも、自分自身が経営トップあるいは個人事業主として仕事を行う場合はいざ知らず、いずれかの組織に所属して仕事をする場合には、必然的かつ否応なく、上司と部下の関係性をもつこととなります。

上司とは、部下となる人たちをつき従え、その処遇はもとより目に見えない人間としてのありように至るまで、さまざまなものを背負い託される立場です。それゆえに責任相応の権限が与えられ、部下にとっては、組織内の生殺与奪の権限を有する畏怖(ふ)すべき存在であるとともに、自分たちの成長を促してくれる頼もしい存在でもあります。

そのため、上司たる立場にある人の生き方や仕事の仕方は、部下に大きな影響を与え、かつ組織に与える影響も大です。そもそも、上司の立場、部下の立場ともに、組織の能率的な運営のための手立て、システムとして設けられているものであり、上司も部下も本質的には同じ人間同士、まったく公平・平等・対等な関係にあります。上司も部下も、あくまで公の関係であり、同じ職場で働く仲間として互いに敬意を払い、支え合い、補い合う感謝の気持ちをもち、労(ねぎら)いの気持ちを共有し、共通の目標達成に向けて協力し合う関係です。また、互いに切磋琢磨し、互いの人間的な成長を託し合う関係にもあります。

上司にとって部下は戦力そのものであり、部下を人間的かつ職業人としてパワーアップさせるとともに、これを有為に組み合わせ、相乗効果を発揮させるのが腕の見せ所です。そのためにも、普段から部下個々人についての得手・不得手を含めた特質の把握は重要です。

部下にとっても、上司に自分を知ってもらうための努力は、上司の戦力向上を有効にするものであり、ある意味、部下にとっての上司対応の手腕発揮も、また求められています。上司と部下の関係性、皆さまの参考となれば幸甚です。


◎「SMBCマネジメント+」2022年12月号掲載記事



プロフィール

三井住友銀行 人事部研修所 顧問(元・陸上自衛隊 陸将 第1師団長) 反怖 謙一

(たんぷ・けんいち)1979年、陸上自衛隊幹部候補生として入校。東部方面総監部防衛部長、陸上自衛隊研究本部総合研究部長、北部方面総監部幕僚長 兼 札幌駐屯地司令、陸将 第1師団長等を歴任。2014年に陸上自衛隊退官後、現職。

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