Netpress 第2234号 いつでも、どこでも起こり得る! 中小企業のための「社内不正」の予防と対処策

Point
1.社員の不正行為が発生すれば、一社員の問題にとどまらず、深刻な経営問題にまで発展することもあります。
2.会社として「不正行為を許さない」という姿勢を明確にし、あらかじめ防止対策を講じておくことが重要です。


企業調査専門調査機関
スプラッシュ代表
今野 裕幸


「社内不正」と聞くと、「うちの会社では、そんな大それたことは起こるはずがない」と考えてしまいがちです。しかし、社内不正の手口は多岐にわたり、交通費の不正申請、会社備品(文房具など)の持ち出しのような不正であれば、「どこの会社でも、毎日のように起きている」といっても過言ではないでしょう。


あらかじめ社内不正を防止するための対策を講じるとともに、社内不正が起きていることが発覚した場合には、できる限り迅速に対処し、放置しないことが重要です。

1.危ない社員と部署の特徴

どのような社員(人物)が社内不正を起こしやすいのか、また、どの部署で社内不正が起こりやすいのかを把握しておけば、不正の防止対策を考えやすくなり、発見もしやすくなるはずです。


社内不正を起こしやすい社員、社内不正が起こりやすい部署の特徴を挙げると、次のようになります。


(1)社内不正を起こしやすい社員の特徴

社内不正を起こしやすい社員の特徴を考える際、非常に参考になるのが「不正のトライアングル」の理論です。


この理論は、アメリカの犯罪学者であるドナルド・R・クレッシーが導き出したもので、「動機」「機会」「正当化」の3つがそろったときに、組織内で不正行為が起こりやすいとされています。



①動機
職場や上司への不平不満、仕事(業績)に対するプレッシャーなど、不正行為を行う動機(きっかけ)を持っている
②機会
いつでも社内不正を行うことができ、不正行為をしてもなかなか発覚しない状況にあるなど、社内不正を行う機会(チャンス)が多い環境に身を置いている
③正当化
「不正=悪いこと」と考える倫理観が欠如していて、社内不正を行うことを自ら積極的に正当化してしまうような価値観を持っている


この3つの要素を兼ね備えている社員が、より社内不正を起こしやすい傾向にあるといえます。


(2)社内不正が起こりやすい部署

上記の社内不正を起こしやすい社員の特徴とも関連しますが、動機、機会を突き詰めていけば、社内不正が起こりやすい部署も見えてきます。それは、「営業部門」と「経理部門」です。


営業部門は、勤務形態にもよりますが、ストレスの溜まりやすい部署であることは間違いありません。常日頃からノルマを意識しなければなりませんし、お客様に頭を下げる毎日を過ごしています。ストレスに見合う給料をもらっていないと感じている営業部門の社員は少なくありません。営業成績が悪ければ、社内でのプレッシャーも大きくなるでしょう。


営業部門の不正としては、お客様と直接やり取りをすることが多いため、売上金を着服したり、お客様に贈り物をするという名目でお金を不正に引き出したりすることなどが考えられます。


一方、経理部門に関しては、中小企業では経理業務を数人あるいは1人に任せているケースが多いがゆえに、相互牽制が働きにくく、お金の処理がブラックボックス化してしまいがちです。


また、経理部門は会社のお金の動きを細部まで把握できるため、「どのタイミングで、どのくらいの金額を着服したらバレないか」「どういう時期(繁忙期など)に横領すれば、他の出金に紛れ込ませることができるか」など、発覚しにくい(巧妙な)手口を思いつきやすい環境にあるともいえます。

2.社内不正を防ぐために講じるべき対策

どんなに対策を講じても、不正を完全に防ぐことは不可能かもしれませんが、有効な対策を施すことによって、不正が発生するリスクを小さくすることは可能です。具体的には、次のような対策が効果的と考えられます。


・社内不正に関する規定を整備するなど、内部統制を見直し、社員に周知する
・特定の社員に業務・権限が集中しないようにする
・社内のセキュリティ対策を強化する
・定期的に第三者機関に調査を依頼する
・不正を通告・通報できる窓口を設置する


当然ながら、社内不正を未然に防ぐ体制は、一朝一夕には完成しません。不正を行いにくい社内環境や制度を地道につくり上げていくことが重要です。

3.社内不正が発覚した場合の対処法

被害を拡大させないために、また、再発を防止するために、適切かつ迅速に対処しなければなりません。


(1)事実確認の調査

社内不正が発覚するのは、経営者や管理者が異変に気付く場合と、社員から告発を受ける場合がほとんどです。いずれの場合も、社内不正の疑いが浮上したら、すぐに事実確認の調査を行う必要があります。


その際、いきなり疑惑を持たれている社員を問いただすのではなく、まずは本当に不正が行われているのか、証拠はあるのかを調べましょう。内部告発の場合は、告発した社員への聞き取り調査を丁寧に行うようにしてください。


(2)証拠保全

事実確認の調査を行う際には、証拠保全も欠かせません。伝票や領収書、本人が作成した書類などは証拠となり得ますので、早急に入手して適切に保全します。証拠となり得るメールやSNSでの書き込み、インターネットや社内データへのアクセスログなども、早期に保全しておくようにします。


本人が業務に使っているパソコンにも、多くの証拠が隠されている可能性があります。ある程度の証拠が揃い、不正行為がほぼ確実であると確信できたタイミングで、業務用のパソコンも回収して証拠として保全しましょう。


(3)処分の検討・実施

社員に対する処分としては、主に「会社での責任追及(懲戒処分)」と「法的措置(損害賠償請求や刑事告訴)」の2つがあります。多額の資金の横領など、会社が被る被害が甚大な場合には、法的措置の検討が必要になるでしょう。法的措置は、法律のプロである弁護士に相談しながら手続を進めることになります。



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