Netpress 第2229号 件数・額ともに増加中! 「企業版ふるさと納税」による寄附を考えてみませんか?

Point
1.企業版ふるさと納税は、節税効果に加えて地域創生に貢献する企業というPR効果なども期待できます。
2.ここでは、企業版ふるさと納税の仕組みやメリット、実際に活用する際の留意点について解説します。


税理士・中小企業診断士
服部 大



1.「企業版ふるさと納税」とは

企業版ふるさと納税(正式名称は「地方創生応援税制」)は、国が認定した地方公共団体による地方創生プロジェクトに対し、令和7年3月31日までに寄附を行った企業が税制優遇措置を受けられる制度です。


地方創生プロジェクトは、まちづくりや人材育成、関係人口の創出、SDGsへの取り組みなど多岐にわたり、賛同する企業からの寄附で事業計画を推進します。


一方で、個人版のふるさと納税と同様に、企業版にも税制優遇措置が設けられています。


もともと、国や自治体に対する寄附は、全額損金算入によって約3割の税負担が減少します。それに加えて当制度では、最大で寄附額の約6割に相当する税額控除が可能となり、結果的に企業側の実質負担割合を1割程度に収めることができます(下図参照)。




実際の寄附額に比べて企業側の金銭的負担が大きく減少することから、寄附を通じて地方創生を支援することへの動機づけを期待した制度設計といえるでしょう。


ただし、税額控除には上限があり、課税所得に比べて寄附額が過大である場合には、企業側の負担割合が増加することに注意が必要です。

2.企業にとってのメリット

企業版ふるさと納税の最大のメリットは税制優遇措置ですが、少なくとも寄附額の約1割は企業側の負担となるため、税制面以外にも何らかのメリットを期待するケースが大半です。


企業によって寄附の目的は異なりますが、一般的には次のようなメリットが考えられるでしょう。


(1)イメージアップやPR効果

企業版ふるさと納税を通じて、地域の環境保全や人材育成、まちづくりなどの課題解決を支援することで、企業としての社会貢献が可能となります。


また、関心の高まるSDGs達成への取り組みを発信することで、イメージアップやPR効果も期待できます。


近年では、ホームページはもとよりSNSを活用する自治体も増加しているため、寄附を行うことで地方公共団体側から企業名が発信され、社会的信用力の向上にもつながるでしょう。


(2)地方公共団体との連携強化

企業版ふるさと納税は、寄附をきっかけとした「官民連携」の側面が非常に強い制度といえます。


実際に寄附をした後にも、寄附先の地方公共団体と定期的に勉強会やミーティングの機会を設け、プロジェクト推進のために伴走するケースも少なくありません。なかには自治体によるプロジェクトの立案の段階から企業が参画するケースもあり、「官民連携」の形態も多様化しています。


また、地域創生プロジェクトの財源を確保したい地方公共団体と、自社のノウハウを活用して地域を支援したい企業とのマッチングを促進すべく、双方によるプレゼンテーションなどの交流が積極的に行われています。


企業にとっても、地方公共団体との強固なパートナーシップを構築することで地域との交流が促進され、行政の現場を知ることによって社内の人材育成が加速することも期待されます。


さらには、地方創生プロジェクトへの協力を通じて社会貢献活動やSDGs達成への取り組みを実感でき、社員のモチベーションアップにもつながるでしょう。


(3)新事業展開

寄附を行うことで地方公共団体とのコミュニケーションの機会が増え、そこから新たなビジネスチャンスが生まれるケースもあります。


自社の保有するノウハウと関連性の高いプロジェクトを支援することで技術開発が促進され、ニーズの掘り起こしや新事業展開の足掛かりへとつながる可能性も高まるでしょう。地方公共団体と連携し、自社の推進する事業活動を強化するために、企業側から寄附先の自治体を公募するケースもあります。

3.寄附に際して考慮すべき留意点

企業版ふるさと納税には、さまざまなメリットが期待できますが、制度の詳細を正しく理解していなければ、それらの恩恵を最大限に享受することはできません。


特に、次に挙げる点について誤解しているケースも多いため、制度を利用する際には必ず押さえておきましょう。


(1)寄附に対する経済的な見返りは受けられない

制度の仕組みは個人版のふるさと納税と類似していますが、個人版とは異なり、寄附をした企業が自治体から返礼品を受け取ることはできません。


また、寄附の見返りとして、公共事業の入札や許認可に対する便宜を図ってもらうことや、補助金を受け取るといった行為も禁止されています。


(2)寄附額や寄附先の制限がある

企業版ふるさと納税には寄附額の下限があり、1回あたり10万円以上の寄附が必要となります。また、制度の対象は国の認定を受けた事業に限定されるため、それ以外のプロジェクトに寄附をしても税額控除の適用はありません。


さらに、企業の本社が所在する地方公共団体への寄附は制度の対象外となることや、地方創生を後押しする制度であるため、東京都や23特別区などの自治体は対象の寄附先から除外されていることにも注意が必要です。


(3)赤字企業は税額軽減効果がない

企業版ふるさと納税の最大のポイントともいえる税額控除については、企業が負担する法人税等があることが前提です。したがって、赤字企業は税額控除の恩恵を受けられず、結果的に寄附額に対する会社負担割合が増加します。


また、法人税等が発生するケースでも、税額控除額の計算においては上限が設けられているため、上限を超える寄附をした場合には、同じく会社の持ち出し分が増加します。したがって、利益状況が不透明な段階ではなく、当期利益の見通しが立ち、納税額の予測が可能となった段階で寄附額の上限をシミュレートするとよいでしょう。



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