反怖謙一の「ABC」通信 企業のたどる運命を考える
会社経営は、会社を100年、200年と永続させていかねばなりません。会社の売り上げも利益も、すべては永続のための条件です。会社の価値は“永続”です。なぜなら、永続だけが会社を取り巻くすべての人たちを幸せにするからです。日本は、長寿企業大国と言われ、創業してから100年を超える企業が約3万3,000社あるそうです(世界の100年企業の約4割を占めます)。しかしながらその日本でも、企業の平均寿命は30年であり、永続することがいかに難しいかがうかがわれます。東洋思想家の安岡正篤氏によれば、組織には栄枯盛衰の過程というものがあり、洋の東西を問わず、軌を一にしているとのことです。
それは、「創業垂統※1、継体守文※2、因循姑息(いんじゅんこそく)※3、衰乱滅亡」の4過程※4です。まずは創業垂統。何もないところから仕事を始めて、それを線香花火のように終わらせず、後々まで永続するようにもっていくことです。ここでは後継者への継承が重要となりますが、これがなかなかうまくいかないものです。
例えば、日本電産株式会社の創業者である永守重信氏は、10年間で200人の後継候補者に会ってきたことを振り返り、「社内に優秀な人材がいたのに、もっといい人材が外部にいると錯覚していた」(2022年9月2日オンライン会見)として、三顧の礼で迎えたはずの外部からの後継者を退任させ、今後は次期社長候補となる5人の副社長を選定し、その中から後継者を選ぶとしています。素晴らしい後継者に恵まれることが期待されます。
次が継体守文です。古今東西を問わず、事業承継は会社の命運を直接左右する大問題です。先代が遺した組織体を継承して、既成の業を保ち、成果を守って完成していきます(これが“保守”という意味です)。創業という踏み出しに成功したとき、それを維持・発展させていくことも、相応に難しいものです。
次が因循姑息です。自然現象も人に関すること(人事)も、変化に富むのが難しく、惰性的、因襲的になります。自然と生命力が乏しくなり、はつらつたる趣がなくなり、型にはまってくるのです。2代目になると堅実ではあるものの、生き生きとした力の変化の妙味がなくなります。さらに先例・しきたりに倣って、安全第一主義や事なかれ主義が蔓延します。意気地がなくなり、眠たくなり、面白くなくなってきて、組織の動脈硬化や心臓障害を起こします。そして衰乱滅亡、衰亡していくわけです。
このように、創業垂統して、これをせっかく継体守文しても、ある時期になると、それがマンネリズムに陥り、因循姑息、いわゆるその場しのぎとなって、意気地なく型にはまり、やがて不平不満が起こり、ごたごたした挙句に無力となってしまいます。そして、それに対する反動、いわゆる自家崩壊が始まり、衰乱滅亡するのです。
そうならないようにするのが、まさに経営者の皆さんの腕の見せどころ、手腕の発揮どころだと思います。皆さんのご活躍を心より祈念いたします。
※1 垂統:よい伝統を後世の子孫に伝えること
◎「SMBCマネジメント+」2022年11月号掲載記事
プロフィール
三井住友銀行 人事部研修所 顧問(元・陸上自衛隊 陸将 第1師団長) 反怖 謙一
(たんぷ・けんいち)1979年、陸上自衛隊幹部候補生として入校。東部方面総監部防衛部長、陸上自衛隊研究本部総合研究部長、北部方面総監部幕僚長 兼 札幌駐屯地司令、陸将 第1師団長等を歴任。2014年に陸上自衛隊退官後、現職。