マネプラ・オピニオン パラダイムシフトにどう向き合うか

本コラム「マネプラ・オピニオン」は、6名の識者の方々に輪番制でご担当頂きます。それぞれがご自身の視点で経営者の方々へのメッセージをまとめた連載コラムです。



デジタル化、脱炭素や米中対立といった動きが、コロナ禍のもとで一気に拡大、加速し、世界経済はパラダイムシフトとも言うべき、大きな構造変化に直面している。


また、コロナの急拡大による景気の急激な悪化のもとで、各国政府は企業や家計を救済すべく大規模な財政出動に踏み切ったが、リスクに直面したときだけでなく平時においても、政府がより積極的な役割を果たすべきという考え方も広がっている。1980年代から続いてきた小さな政府とは逆行する動きである。


日本では岸田政権が「新しい資本主義」を標榜(ひょうぼう)している。その根底にあるのは、市場任せにすることで生じた所得格差の拡大や地球温暖化などの課題の解決に、政府がより積極的な役割を果たすべきという考え方である。


今年2月のロシアによるウクライナ侵攻も世界経済の構造を大きく変えつつある。欧州は対ロシア制裁に加え、ロシア産天然ガスからの脱却を目指すなど、ロシア経済とのデカップリングを進めようとしている。これは短期的には資源価格の高騰などを通じて欧州の痛手となるが、中期的には欧州市場を失うロシア経済への打撃が大きい。苦境に陥ったロシアが中国への依存を高めることになれば、世界経済はますます分断傾向を強めることになる。


米中の戦略的競争の時代に入り、両国が友好国を囲い込みながら互いをデカップリングするなど、政治外交関係の緊張が世界経済に影響を及ぼしている。そればかりか、政治外交的な狙いを達成するために経済的手段を利用するようになっている。こうした地経学的な分断リスクが高まるもとで、第2次世界大戦後から続いたグローバリゼーションが終わり、世界経済は取引コストの上昇によるインフレや成長鈍化に直面している。企業もサプライチェーンの再構築を迫られている。


日本は、こうしたパラダイムシフトにどう向き合うのか。地経学的リスクに対処するため、経済安全保障をどう強化していくのか。改めてその進路が問われている。



◎「SMBCマネジメント+」2022年11月号掲載記事

プロフィール

株式会社日本総合研究所 チェアマン・エメリタス 高橋 進

(たかはし・すすむ)1953年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、住友銀行(現・三井住友銀行)に入行。ロンドン駐在などを経て、株式会社日本総合研究所に転じ、調査部長等を経て2011年6月より理事長。18年4月にチェアマン・エメリタス(名誉理事長)に就任し、現在に至る。内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(05年~07年)、内閣府経済財政諮問会議 民間議員(13年~19年)、内閣府規制改革推進会議 委員兼議長代理(19 年~)等、公職を多数歴任。

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