Netpress 第2214号 改正育児・介護休業法が段階的に施行 「男性育休元年」に進めたい管理職の意識改革

Point
1.男性の育児休業の取得を促す改正育児・介護休業法が、4月から段階的に施行されていることから、2022年は「男性育休元年」ともいわれます。
2.企業は、制度面だけではなく、管理職の意識面についても変革を働きかけるタイミングといえます。ここでは、育児休業等の制度・運用について管理職が押さえておきたいポイントを解説します。


社会保険労務士
寺島 有紀


1.知識・価値観をアップデートする

今回の育児・介護休業法の主な改正内容は、次のとおりです。



【2022年4月施行】

育児休業を取得しやすい雇用環境の整備、個別の制度周知、休業の取得意向確認の措置の義務付け

有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
【2022年10月施行】

「産後パパ育休」(男性版産休制度)の新設

育児休業の分割取得
【2023年4月施行】

育児休業取得率の公表義務付け(従業員1,000人超の企業限定)


このようにさまざまな改正がありますが、ことし10月以降、管理職は男性を含めた部下から「育児休業を取得したい」と相談される機会が増えることが予想されます。


育児休業等の制度の整備・運用フローの構築等は、人事・労務部門が主導するとしても、育児休業等の取得について初めに相談されるのは、現場の管理職です。その際、「そんな制度あったかな?」「どうして育児休業を取るの?」といった対応をした場合、育児に関連したハラスメントとして問題となる可能性があります。


企業のハラスメント事案を見ると、管理職が一次対応を誤ったために発生するケースが少なくありません。旧来の価値観のままでは、ハラスメントのリスクを内包しているといえ、これを機に知識・価値観をアップデートする必要があります。

2.管理職が押さえておきたいこと

(1)妊娠・出産・育児関連の法制度を理解する

今後、管理職には、従業員の妊娠・出産・育児に関する制度への一層の理解が求められます。


男女雇用機会均等法、育児・介護休業法においては、ハラスメントと同様に、妊娠、出産、産前産後休業、育児休業等を理由とした解雇、不利益な異動、減給、降格等を行うことが禁止されています。


育休等は、いわゆる「福利厚生」ではなく、法律で認められた従業員の当然の権利であることを再認識しましょう。


(2)男女を問わない育児中の従業員への配慮

育児中には、女性従業員だけではなく、男性従業員も利用できる制度があります。育児中の配慮というと、女性だけに行うものという固定観念を持つ人も少なくないですが、男性も同様に時短勤務等の措置を利用することが可能です。


そのため、男性従業員から請求があった場合には、原則として利用を認めなければなりません(労働基準法上の管理監督者の場合には、一部を対象外とすることができます)。


現場の管理職レベルで、その権利を阻害するような言動がないか気を配る必要があります。


(3)妊娠・出産の報告を受けた際の留意点

男性の部下から、配偶者の妊娠・出産の報告があった場合には、間違っても「この忙しい時期に困るな」といったネガティブな反応をしてはいけません。まずは、心から「おめでとう」の一言をかけることが第一です。


そのうえで、ことし4月から義務付けられた制度の個別周知・休業の取得意向確認の措置を念頭に、育児休業制度についてまとめたリーフレット等を用いながら制度を周知し、取得の意向確認を行います。


ただ、すべての管理職が制度の細かな部分まで十分に理解して説明することは、実際には難しいでしょう。


そのため、本人同意のもと、管理職から人事部門に情報提供を行い、人事部門が制度周知・意向確認を行うというように、人事部門に一元化するフローを導入するのが現実的ではないかと考えられます。


周知・確認後は、管理職が主導して定期的な面談を実施し、休業までの引き継ぎや今後の働き方のすり合わせを行います。チームメンバーに妊娠・出産・育児の情報をどこまで公開するかは、本人と相談のうえ決めましょう。


なお、妊娠・育児に関するハラスメントは、同僚同士や部下から上司に対しても起こり得るものです。管理職は、メンバー間で不適切な言動がなされないようにマネジメントしていく必要があります。



【妊娠・出産報告を受けた際の管理職の留意点】

1.
まずは心からの「おめでとう」の気持ちを伝える
2.
育児休業等に関する制度周知・休業の取得意向確認を行う(管理職が自ら行わない場合は、本人同意のうえ、人事部門に情報提供を行う)
3.
定期的な面談を実施する(現在の働き方、復職後の働き方などについて)
4.
チームメンバーへの事情の公開の範囲・伝え方を本人と相談する
5.
言動がハラスメントに該当しないか、十分に気をつける
6.
不明な点があれば人事等に相談する(独断で対応しない)


(4)相談窓口を活用する

ことし4月から、「育児休業を取得しやすい雇用環境の整備」が義務化されたことに伴い、相談窓口を設置した企業も多いでしょう。この相談窓口を、現場の管理職の疑問や懸念を解消するホットラインとして機能させることが考えられます。部下の育児休業等の取得に際して、「疑問や対応に困ることがあればすぐに連絡を」と周知しておくことで、現場レベルで発生するハラスメント事案等を防ぐことに寄与するはずです。


実際のところ、相談窓口がうまく機能していない企業は多いようです。制度が複雑化し、男性を含めてより多くの従業員が育児休業等を取得する可能性が高まるなか、人事部門と現場の密なコミュニケーションが求められます。相談窓口の対応範囲を広げ、管理職をきめ細かくサポートできるような体制を構築するとよいでしょう。


法律上、当然に取得可能な制度が適切に運用されない場合、従業員のエンゲージメントの低下や人材の流出等につながります。妊娠・出産という従業員のライフステージの一大イベントに対して、会社がどういう対応を取るかは、従業員との信頼関係の構築に大きな影響を与えます。


「法律の定めだから対応する」という受け身の姿勢ではなく、自社の制度・体制が十分なものか見直すとともに、従業員のエンゲージメントを高めるチャンスと捉えて、全社で意識をアップデートする機会としたいものです。



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