マネプラ・オピニオン 国際舞台で活躍するために

本コラム「マネプラ・オピニオン」は、6名の識者の方々に輪番制でご担当頂きます。それぞれがご自身の視点で経営者の方々へのメッセージをまとめた連載コラムです。



最近、国際舞台に進出する日本人が増えている。科学界でも、昨年、東北大学副学長の小谷元子先生が国際学術会議の次期会長に選出された。日本の科学界にとって、まことに喜ばしいことである。


ただ、日本では国際舞台での振る舞いについて学ぶ機会が少なく、戸惑うことも多いだろうと思う。私自身も国際的な学術団体の会長に選任されたときは、何を準備すればよいのかと、悩んだことを覚えている。


会食しながらの文化談議では、日本文化や日本人のメンタリティーについて語ることを期待されるときもある。専門分野の知識だけではなく、日本文化などの素養を身につけ、それを英語で表現することが必要だ。私が所長をしている国際高等研究所では、若手研究者が幅広い素養や技術を身につける修練の場を提供したいと考えている。


国際舞台で海外の人たちと伍(ご)していくためには、ほかにもいくつか必要なことがある。まずは英語表現のスキル、つまり発音、発声である。英語のスピーチがそれらしく聞こえるためには、「L」と「R」の発音の違いを明確にすることや、日本語とは違う「N」と「W」の発音が重要だ。多くの日本人は「N」を「ん」のように舌を口腔内に触れずに発音する癖がある。また、発声は大声を出すのではなく、声を響かせるために、口元から30cm先に声を届かせることを意識することも、普段から練習しなければならない。


議長役を務めるときは、参加者全員に目配りした司会進行を求められるし、学会のトップになれば、日本人が苦手な各種のネゴシエーションやロビー活動の手腕が必要なときもある。もちろん、専門分野を磨き、その分野のディベート力をつけることも大切だ。


今まで述べたことは、個人が努力して身につけていくものだが、国際的な団体の会長に選出された場合、企業や研究機関、政府機関などの出身組織のバックアップも重要になる。日本は残念ながら、この点は十分とは言えない。


日本人が世界でより活躍できるように、組織的なバックアップ体制の充実や若手の訓練の場が増えることを期待している。



◎「SMBCマネジメント+」2022年8月号掲載記事

プロフィール

公益財団法人国際高等研究所 所長 松本 紘

京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、同大学助手、助教授等を経て1987年教授。宙空電波科学研究センター長、生存圏研究所長、理事・副学長などを歴任し、2008年10月総長(~14年9月)。15年4月より国立研究開発法人理化学研究所理事長、18年4月より現職。文部科学大臣表彰 科学技術賞、紫綬褒章、仏政府レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエ、名誉大英勲章OBE、瑞宝大綬章 等、国内外での受賞多数。

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