Netpress 第2185号 持続的な成長のために 「事業の柱を増やす」事業ポートフォリオ構築の進め方とは?

Point
1.持続的成長(サステナビリティ)実現のため、複数の事業を組み合わせて付加価値を生み出します。
2.ポートフォリオ戦略の有効な手段の一つとして、M&Aがあります。


株式会社タナベ経営
M&A本部 本部長
丹尾 渉


1.事業ポートフォリオの構築と持続的成長(サステナビリティ)の実現

新型コロナウイルスの影響により、価値観やライフスタイルの変化は一時的なものにとどまらず、生活に定着しています。新たなサービスが生まれる一方で、一度減った顧客や売上高は、以前のようには戻りません。


コロナとの共存を求められる現在において、成長分野へ経営資源を配分する際には、一つの事業だけで勝負するのではなく、複数の事業の組み合わせでシナジー効果を得て、より大きな付加価値を創造し、成長していく戦略が必要となります。すなわち、「事業ポートフォリオの構築」です。


事業ポートフォリオの構築は、以下のようなフレームで検討がすることが可能です。


まず、自社の事業ポートフォリオを評価・分析し、限られた経営資源を有効に活用するため、投資すべきコア事業(主力事業)については、M&A等を活用して事業を強化します。同時に、撤退すべきノンコア事業(非主力事業)については、同様にM&Aで事業を売却することを検討します。これにより、今までの事業の立ち上げを全て自社の内部で行っていた企業も、外部と組むことによって、早期の対応が可能となります。


また、併せて、事業ポートフォリオを構築する際には、次の2点を検討するようにしてください。


(1)自社独自の経営資源(強み)を活用する

自社らしさや強みが何かを明確に定義し、それ以外は無理にやろうとしないことが重要です。


ポイントは、自社の強みを「決める」ことです。そのうえで、コアとなる技術を違う分野に応用したり、自社が築いた顧客資産に向けて新たな商品を提供したり、もしくは保有していた固定資産を貸し出したり、別の用途に展開したりします。


事業ポートフォリオの構築は、既存事業を捨てるわけではありません。既存事業と新たな事業の組み合わせでイノベーションを創出するという発想が必要になります。


(2)事業ポートフォリオを組み込んだ中長期ビジョンを基礎とする

事業ポートフォリオ構築の目的は、持続的成長の実現にあります。そのためには、目標設定が不可欠です。


タナベ経営では、「数年先ではなく、その先の未来に実現したいビジョンを設定し、それに向かって今から何をすべきなのか」という「バックキャスティング方式」でのビジョンの策定を提言しています。


業界によって環境の違いはあるものの、長期ビジョンを設定することで中期ビジョンが明確になります。長期ビジョンを3~5年の期間で、より詳細にしたものが中期ビジョンです。たとえば、3年後を想像してみましょう。会社の規模が大きくなればなるほど、事業構造を転換することは容易ではありません。3年はあっという間に過ぎるでしょう。


その間に構造変化を起こそうとすると、短期間で大きな効果を上げる手法を活用しなければなりません。


そこで、中期ビジョンと現実とのギャップを埋めるために、「時間を買うための選択肢」ともいわれるM&Aを組み込んだ事業戦略を検討する必要が出てくるのです。

2.事業ポートフォリオ構築の手段としてのM&Aの活用

複数の事業を展開するパターン(事業ポートフォリオの構築)を考える場合、中長期ビジョンの構築によるギャップの明確化と短期で実現するための手法としてのM&Aが有効であることは前述のとおりです。


もう一つ大きなポイントは、事業戦略と「M&A戦略」の整合性が取れているかです。たとえば、主力事業とまったく関係のない事業を買収する場合、それらはいわゆる「飛び地」の買収となります。単に財務状態がよいという理由や、含み益のある資産を保有している状態で安く買収できるという理由でM&Aを実行する場合は、慎重な検討が必要になります。事業戦略に寄与するM&Aでなければ、成長につながりにくいからです。


事業戦略との整合性を取ると、具体的なターゲット(対象企業)の選定基準も見えてきます。対象企業に求める規模・エリア・保有する技術などを明確にすることで、自ら対象企業にアプローチすることが可能となり、他社からの持ち込み案件においても結論を早期に出すことができます。


(1)M&A実行の判断基準の設定

M&Aの実行の際には、投資判断基準と意思決定ルールを決めておく必要があります。これは、M&Aの撤退基準にもつながります。


経営資源は無限にあるわけではないので、事前に投資判断基準を設定し、ある一定のラインを超えた場合は、交渉から降りるという決断をしなければなりません。投資判断基準は、自社の保有キャッシュや資金調達可能額、また、投資の回収期間を勘案して設定される場合が多いです。


また、意思決定ルールとして、買収に至る意思決定のプロセスを事前に決めておくことが必要です。案件情報を最初に受け、交渉を担当する部署を明確にするのです。重要事項をどの機関で決定するのかをあらかじめ定めておくことによって、交渉時の意思決定を迅速に進めることができます。


意思決定に時間がかかる企業は、交渉の相手方から信用を失う可能性があるため、注意が必要です。


(2)A社の事例

売上高1,000億円のA社(ロジスティクス企業)の事例を紹介しましょう。


A社は、ある企業のグループ会社で、グループ中期経営計画のなかでも成長分野と位置付けられていました。


自社の固有技術を基礎として成長していくビジョンを持っていましたが、中期経営計画を推進していくなかで、求められる売上高と利益率を実現するためには、このままのペースでは難しいという結論に至りました。そこで、M&Aを用いることを考えたのです。


A社の事業ドメインを選定する際に重視したポイントは、次の2点です。


①自社の固有技術(強み)が活かせる事業ドメインはどこか
②親会社や他のグループ会社とバッティングしない事業ドメインはどこか


A社は、この2つの条件を満たす事業ドメインをターゲットと位置付けました。結果として、5つの事業ドメインを選定し、ドメインごとに対象企業を具体化していったのです。


各ドメインの対象企業を決める際には、事業内容・規模・利益率などを整理し、リストを作成してアプローチを実施しました。5つの事業ドメインは、単純に業種で絞ったわけではないため、1ドメインごとの対象企業は少なかったのですが、5つのドメインを設定することで対象企業の数を確保し、アプローチを実行しました。


事業ポートフォリオの構築は、自社の事業構成を大きく変えるプロジェクトです。その場しのぎではなく、ビジョンに沿った形で実行されなければなりません。



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