オンボーディングとは?意味や目的、具体的な施策のポイントを解説
又、中途採用した幹部人材が企業文化になじめず、期待されたパフォーマンスを上げるまでに時間がかかるということが多く見られます。
そんな時に必要となるのが、企業に新しく参加してきた個人を企業の一員として定着させ、戦力化するまでのサポートである「オンボーディング」です。
本記事では、離職率を減少し、即戦力化を促す、「オンボーディング」について、解説していきたいと思います。
1.オンボーディングとは
オンボーディングとは、「船や飛行機に乗っている」という意味の「on-board」から派生した言葉で、船や飛行機に新しく乗り込んできたクルーや乗客に対して、必要なサポートを行い、慣れてもらうプロセスのことを指します。
人事用語としてのオンボーディングは、企業が新たに採用した人材を職場に配置し、組織の一員として定着させ、戦力化させるまでの一連の受け入れプロセスを意味します。
新卒社員を対象とした、研修をイメージされた方もいると思いますが、オンボーディングの取り組み範囲は広く、対象は中途採用を含み、OJT・OFF-JTや1on1ミーティングなど公式なものだけでなく、ランチや歓迎会など非公式な取り組みも含みます。
つまり、新しく組織に参加してきた個人の組織への円滑な適応をサポートするものすべてが、オンボーディングなのです。
リテンションとの違い
オンボーディングと似た言葉に「リテンション」があります。「リテンション」は、企業が優秀な人材を企業内に留めるため行う施策等を指し、近い考え方ですが、対象がある程度勤務期間の長い人を対象にしている点が異なります。
SaaSビジネスにおけるオンボーディングとの違い
マーケティング用語としてのオンボーディングは、「サービス・商品を利用し始めたユーザーに対して、いち早く使い方や機能に慣れてもらうためにサポートするプロセス」を指します。サービスの理解不足による解約を防ぐため、ユーザーをフォローし、継続して利用してもらうのが目的です。
2.オンボーディングの目的
オンボーディングの目的は、大きくは「新しく入社した人の戦力化のスピードアップ」と「早期離職を防ぐ」ことです。ここでは、これらについてより具体的に解説します。
(1)戦力化のスピードを上げ、生産性を高める
新しく入社した人は、組織のルールや職場のシステムなど、知るべきことが多くあります。また、人間関係や社風など、適応しなければならないことも少なくありません。オンボーディングを行うことで、組織への順応がスムーズになり、早い段階で戦力として企業の業績に貢献するうえ、指導役の社員も本来の仕事に集中できることから、総合的に生産性を高められます。
(2)早期離職を防止し、採用コストを削減する
早期離職の原因は、仕事内容や人間関係のミスマッチが多くの割合を占めています。オンボーディングを行うことで、職場の人間とのコミュニケーションが活発化し、理想と現実のギャップを調整することができ、適切な目標の設定によるモチベーションの向上が図られることで組織への帰属意識が高まり、早期離職率が減少します。
早期離職となれば、最低でも採用にかかった時間と費用が無駄になります。逆にいえば、オンボーディングによって離職率を低下させることで、大きなコストダウンが可能になるのです。
(3)部署によって教育格差を防ぎ、従業員満足度を高める
OJTを現場任せにすると、指導員の人材育成のバラツキ、格差が生じることがよくあります。そのため、人事部が体系立ったオンボーディングを行うことも重要です。
オンボーディングに配慮した教育の実施は、従業員満足度の向上にも役立ちます。結果として人材が定着しやすく、業績面でも長期的な効果が期待できます。
3.早期離職の原因とオンボーディング
効果的なオンボーディングの施策を考える前に、早期離職の理由について見ていきたいと思います。
(1)新卒者の離職理由
少し古い資料ですが、内閣府が発行している「平成30年版 子供・若者白書」から、新卒者の離職理由見ていきましょう。
離職理由のトップ3(複数回答可)
①「仕事が自分に合わなかったため」 :43.4%
②「人間関係がよくなかったため」 :23.7%
③「労働時間、休日、休暇の条件がよくなかったため」 :23.4%
(2)中途採用者の離職理由
また、中途採用者が前職を辞めた理由は、厚生労働省が発表している「令和2年度雇用動向調査」に記載されていますので、ご紹介します。
離職理由(男性)のトップ3
①「給料等収入が少なかった」 :9.4%
②「職場の人間関係が好ましくなかった」 :8.8%
③「労働時間、休日などの労働条件が悪かった」 :8.3%
離職理由(女性)のトップ3
①「職場の人間関係が好ましくなかった」 :13.3%
②「労働時間、休日などの労働条件が悪かった」 :11.6%
③「給料等収入が少なかった」 :8.8%
以上の結果から、人間関係、労働条件は初職・中途採用を問わず多い離職理由といえます。
(3)リアリティー・ショック
「リアリティー・ショック」とは、新たに職に就いた人材が、事前に思い描いていた仕事や職場環境のイメージと、実際に現場で経験したこととの違いを消化しきれず、現実と理想のギャップに衝撃を受けることです。
新卒社員だけでなく、ベテランも大きな環境変化に直面すると、リアリティー・ショックに陥ることがあるといわれます。
新しく組織に所属する人に、組織内で必要な知識やスキルを習得させつつ、組織に順応させるプロセスを「組織社会化」といいます。
その過程で程度の差はあれ、リアリティー・ショックを感じる人は少なくありません。
先に見ていただいた離職理由である「仕事が自分に合わなかったため」「職場の人間関係が好ましくなかった」「労働時間、休日などの労働条件が悪かった」「給料等収入が少なかった」などは、リアリティー・ショックを消化しきれず、不安や幻滅、喪失感などを強め離職に至ったと考えられます。
4.新入社員へのオンボーディング施策
(1)入社前に行うオンボーディング施策
①採用選考時の情報提供によるオンボーディング施策
就職前に考えていた仕事と違うことや労働条件などの理由で、早期離職を選択していることから、採用時に相互理解を深めておくことが重要であることが分かります。
確かに、日本の新卒一括採用のように、配属先や詳細な業務を具体的に示せない場合には、リアリティー・ショックが起こりやすいと考えられます。
そのような場合でも、過剰な期待を抱かせることは避け、現実的な職務情報を提供する姿勢が企業側には求められます。
又、選考を進める中で、求職者の求める仕事内容を提供できる可能性や自社の企業文化と本人の求める環境が適合するかを見極める必要もあります。
具体的には、求職者に仕事の良い面だけではなく厳しさも伝えておくことは必要です。
例えば、希望の手取り額を支給できたとしても、残業や休日出勤の実態を伝えていなければ、嘘をついているわけではありませんが、「そんなことは聞いていなかった」と大きなリアリティー・ショックとなる可能性があります。
又、若手に重要な仕事を任せる社風であれば、責任が伴うことも伝えておけばそれなりの覚悟をもって入社に望んでくれるはずです。
②インターンシップの実施によるオンボーディング施策
インターンシップとは学生が就業前に企業などで「就業体験」をすることです。日本の就活では大学3年生の夏〜冬に行われることが多いとされています。
企業で実際の仕事をしている人から直接話を聞いたり、仕事を体験してみたりすることで、業種や職種、企業による仕事内容の違いや働いている人たちの雰囲気、企業風土の違いを知ることができます。
これまでは企業のオフィスなどでの対面による実施が大半でしたが、2020年の新型コロナウィルスの流行に伴い、オンラインでインターンシップを行う企業が増加しました。
入社までの期間が長い場合など、学校の状況などを確認し、インターンシップとして迎え入れることや、入社前に会社に来れるようなイベントに招待することも、社員と顔を合わせることで入社前から仲間意識を醸成することに役立つはずです。
中途採用の場合は、前職での仕事を続けながら求職活動を行っている場合も多く、現実的ではありません。
一方で、中途採用者の場合は、具体的な配置部署が決まっているケースが多いことから、配置部署のメンバーと会わせる機会を増やすことで、現場の空気を肌で感じとってもらうように努めましょう。
(2)入社後に行うオンボーディング施策
内定を出してから入社日までが入社準備期間です。期間中に人事部が主導し、配置部署や関連部署と協力し、役割分担を決め、新たに入社する従業員のために、遺漏なく準備を行いましょう。
①指導員やメンターの設置によるオンボーディング施策
配属部署が決定した段階で、部署での仕事の指導や相談事に対応する指導員を設置します。
指導員には上司と相談し、教育スケジュールをベースとしたオンボーディングプランを作成してもらいましょう。
「新入社員は入社後90日が定着のカギ」となりますので、この期間でしっかりと計画を立て育てることが、会社にとっても従業員にとっても重要です。
そのために、人事部でフォーマットを準備し、配属部署でカスタマイズできる仕組みを作ってください。
メンターは、日頃の業務に関係しない他部署の先輩などを任命し、精神的なサポートを行ってもらいましょう。
リアリティー・ショックで苦しんでいる際に、職場の上司や同僚がともに克服してくれることが理想的ですが、内容によっては難しいこともありますので、メンターを設置することは、重要な組織サポートとなります。
②効果的な研修によるオンボーディング施策
新卒採用者については、4月に研修を実施している企業は多く、人事部としても十分に準備している企業が多いと思います。
新入社員研修に対する人事部の真摯な対応は、企業側の人材に対する思いとして、ダイレクトに伝わりますので、新入社員の成長を最優先し、効果的な研修を作り上げてください。
オンボーディングの観点からは、同期意識を醸成させる機会とすることも重要です。
新入社員は、抱えている問題や不安の類似性が高く、同期同士で不満を言い合うことでストレス発散となることや、時には良き相談相手となることもあります。
又、将来、他部署との連携が求められるような場面が出てきた場合でも、同期によって助けられることがあるはずです。
③配置時のオンボーディング施策
部署への配置1日目は、新入社員にとって、様々な不安を抱えて迎える日です。
配置部署のメンバーの歓迎の気持ちが伝わることで、安心感と仲間意識が高まりますので、ウエルカムボードやウエルカムランチ・歓迎会などを準備し、歓迎の気持ちを伝えるとともに、コミュニケーションを図ることを行ってください。
又、部署毎に行うオリエンテーションは、資料を事前に準備し、理解度に合わせて臨機応変に進めることが重要です。
配属初日は、採用段階で伝えたメッセージの正当性を立証する機会でもあります。
新入社員がどのような印象を持ったかを注意をもってヒアリングし、何か気が付いたことがあれば、人事部も含めて報告を受け、問題があれば解決しなければなりません。
④継続的なオンボーディング施策
1)1on1ミーティングの実施
オンボーディングは、時間をかけて継続的に行うものです。
入社1週間後、1か月後、2か月後、3か月後と節目には、面談などで確認を行うことが必要です。
面談にあたっては、1on1ミーティングを行うことが効果的です。1on1ミーティングとは上司と部下が1対1で行う定期的な面談のことで、評価や目標管理などが目的ではなく部下の成長を促すために行うものです。
面談内容も部下が主導で決めることが原則ですので、日々の不満や迷いを新入社員側から伝えやすいはずです。
2) 期待値を合わせる
新しく組織に入った人には、チームが求めることを伝え、期待値を合わせましょう。
また、チームから求めていることを伝えるだけでなく、新しく入ったメンバーが求めていること、期待していることをすり合わせておくことも重要です。
●事前に準備した、オンボーディングプランを利用して、本人にゴールを明示する
●身に付けるべきスキルを洗い出した習得管理表などを作成し、進捗状況に承認を与えることで、本人に成長感を与えることも大切です。
5.中途採用者へのオンボーディング施策
中途採用者については、新卒者のように、新入社員研修を行う企業が少ないのが現実です。そのため、新卒者とは異なるオンボーディング施策が必要となってきます。
(1)製品・サービス情報等を計画的に習得する機会を設ける
新入社員研修には力を入れる人事部も、中途採用者については配属部署に任せることが多く、教育制度やサポートが乏しくなりがちです。
一方、中途採用者は一刻も早く成果を出さなければならないと考えていることから、十分なサポートがない場合、大きなリアリティー・ショックを生じる可能性があります。
既存社員側からすれば、「お手並み拝見」的意識もあることから、求められればサポートはするものの、積極的にサポートを行う意識が乏しいこともよくあります。
たとえ、ベテランの域にある中途採用者であっても、商品情報や使用するシステム等の知識は必要です。
まず、中途採用者に対する意識を変え、新卒者同様、企業側・配属部署側から、積極的に教育の機会を作ることを行ってください。
(2)社内における人的ネットワークを構築する機会を設ける
プロパー社員(長く勤務している社員)と中途採用者の決定的な違いは、社内の人的ネットワークです。
中途採用者が抱える仕事上の課題を解決するために必要な情報は誰が持っているのか、社内で意見を調整する上で誰がキーパーソンなのかを知らずに、一刻も早く成果を上げることなど土台無理な話なのです。
●配置部署と異なる部署との研修を企画し参加させる
●メンター的な役割の人を設置する
●他部署のメンバーとランチに行く機会を制度的に設ける
などして、人的ネットワークを構築する機会を設けましょう。
(3)目標を細かく設定する
いきなり大きなミッションを掲げてしまうと、最終的な成果がでるまでに時間がかかります。
一刻も早い成果を望む中途採用者には、むしろ入社後3か月間は、スキルの習得・企業文化の理解・人的ネットワークの構築を優先する準備期間とし、精神的プレッシャーから解放させる必要があります。
3か月経過後は、ミッションを細かく分け、小さな目標を達成する体験を積み重ねながら、最終目標を目指していくなど工夫しましょう。
成功体験は、本人の自信と周囲の信頼を生み、周囲の「お手並み拝見」的意識や本人の「疎外感」を解消し、高いパフォーマンスにつながっていくはずです。
6.まとめ
オンボーディングは、手間も時間もかかる取り組みです。
しかし、会社としてオンボーディングに取り組むことは、単に早期離職率を下げるだけではなく、職場の心理的安全性が高まることから創造性も豊かになり、やがて従業員全体が会社を盛り上げていく環境づくりにもつながっていきます。
オンボーディングの実施方法は、企業ごとの環境により異なります。
是非自社に適した方法を見つけ、仕組み化し、PDCAを回し続けてください。
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