Netpress 第2182号 埋もれた人材を発掘! データ活用による科学的人事の取り組み

Point
1.これまでのように勘と経験に頼るのではなく、データを活用した科学的人事が重要な課題となっています。
2.人材を複数の目でみて、エビデンスを残し、適材適所や人材開発など戦略的な人事に活かす仕組み=HRテックと呼ばれる人事システムの活用を加速させる必要があります。


株式会社セレブレイン
代表取締役社長 高城 幸司


1.勘と経験からデータ活用へ

企業を取り巻くビジネス環境が、ウクライナ情勢・新型コロナウイルス感染症等の影響により、急速に変化する時代になりました。


変化は、人事の世界でも同様です。人手不足に頭を抱える状況は継続中ですが、ワークスタイルを工夫して課題を解決しつつある会社もあれば、逆に人手不足から事業の縮小を余儀なくされるほど危機的な状況に陥る会社もあるなど、影響は二極化してきているように思えます。


人手不足が危機的な状況にならないようにするには、どうしたらよいのでしょうか?


その答えは、人事が適材適所に向けた取り組みに向き合うことだと思います。たとえば、上司と部下の相性も考えて配属することや、本人の希望を考慮しつつ、能力を踏まえて人事異動を行うことです。


こうした取り組みをすることで、社員のモチベーション向上や離職の防止につなげていくのです。


そのために重要となるのが、勘と経験に頼るのではなく、データを活用することです。それこそが、科学的人事の取り組みといえます。

2.「埋もれた人材」とは

適材適所に向き合うに際して重要なテーマの1つに、「埋もれた人材の発掘」があります。


経験則に頼った人事をしてきたために、専門性が高く市場価値が高いにもかかわらず、「人付き合いが苦手」「アピールが不得手」といった理由で、周囲が見出せていない人材が職場に少なからずいる、ということがあります。


そうした人材は、失った後でその価値に気づくケースが大半です。この喪失を極力減らすためには、人材の持つ能力や可能性をデータとして蓄積し、複数の目を通して人事を行うことで、埋もれた人材を極力減らすようにする努力が求められるでしょう。


あなたの会社には、「埋もれた人材」はいないでしょうか? 


埋もれた人材とは、具体的には、能力があるのに活躍の機会が十分に与えられていない人材のことです。


たとえば、管理職としてマネジメントを任せれば期待以上の成果を出せる能力があるにもかかわらず、「あいつに任せても無理」「それなら、○○さんが適任じゃないか」と、任用される機会を得ることができない、過小評価をされている人や、存在感を示すことが苦手または嫌いで、周囲から忘れられた存在の人です。

3.なぜ「埋もれた人材」が生じるのか

管理職といえども、マネジメントスタイルはまちまちです。


放任主義の人もいれば、事細かに指導するタイプの人もいます。そのスタイルにより、部下に対する見方も変わって、埋もれた人材が生まれてしまうことがあるようです。


たとえば、ある管理職は、部下とのコミュニケーションが大好きです。趣味や将来の夢など、幅広く部下のことを知る努力を怠らない人です。それゆえ、部下が仕事のための学習に多くの時間を費やしていたことも、その蓄えた知見も理解しています。


ところが、その情報は、後任となった次の上司には引き継がれないケースが大半です。時間をかけて理解をした部下の情報は、人事異動で消えてなくなってしまうのです。


一方で、部下に歩み寄らず、部下からの積極的なアピールを期待する上司もいます。無口で無愛想な部下と上司の距離は広がり、わずかな接触機会の印象で評価が行われ、積極的にアピールしていないという誤解から、埋もれた人材になってしまうケースがよくあります。


実際、同じような状況で、埋もれた人材になってしまったと認識している人にしばしば遭遇します。


埋もれた人材は、社内で高い評価を得ていないことがわかるので、おそらく、いずれ退職していく可能性が高いと思われます。


このような経験と勘に頼った評価で、本来の仕事ぶりや能力を見逃すことは避けていきたいものですが、具体的にどうしたらよいのでしょうか?

4.HRテックを活用した科学的人事

解決策の1つは、人材を複数の目でみて、エビデンスを残し、適材適所や人材開発など戦略的な人事に活かす仕組み=HRテックと呼ばれる人事システムの活用を加速させることではないかと思います。


これまで人事システムは、給与の支払いに必要な情報を優先的に押さえておくことに力点を置きすぎて、それ以外の目的で活用するための情報の蓄積を怠ってきました。


ところが、クラウドで「タレントマネジメント」と呼ばれる人材のさまざまな情報を蓄積できる人事システムが登場して、経験と勘に頼りすぎない人事の実現が可能な状況になってきました。


まずは、社員のさまざまな情報、たとえば過去の職務経歴に加えて、将来的に希望している仕事内容、受講した研修の履歴、取得した資格やスキルといった情報を蓄積することが必要です。


さらに、日々の業務を報告する日報なども蓄積しておくことで、社員たちの可能性を見逃すリスクを下げることができるでしょう。


また、歴代の上司からみた人物評価や能力を時系列で残しておくと、職場への適応力や相性もみえてくるはずです。


筆者もかつて、異動してきた部下に関して、前任の上司の評価は相当に低かったが、それより前の上司に聞くとむしろ評価が高かった、という経験をしたことがあります。


前任の上司によるマネジメントに合わなかったがゆえに低い評価を受けており、本人の本来のポテンシャルはもっと高いと認識することができたのです。もし、さかのぼって確認をしていなかったら、その部下に対して間違った印象を刷り込んだ状態で接していたかもしれません。


そのとき、こうした歴代上司の評価を履歴として残しておく必要性を痛感しましたが、当時は手軽な人事システムもなく、諦めていたように記憶しています。


しかし、環境は変わりました。複数の目でみた人事情報を蓄積し、仕事ぶりを見逃さないようにすることについて、実現の可能性が高まっているのです。


人材難に悩む時代、HRテックを活用した科学的人事で、埋もれた人材を増やさないようにしていきましょう。



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