マネプラ・オピニオン 新しい資本主義とは何か

本コラム「マネプラ・オピニオン」は、6名の識者の方々に輪番制でご担当頂きます。それぞれがご自身の視点で経営者の方々へのメッセージをまとめた連載コラムです。



岸田政権は「新しい資本主義」を看板施策として掲げている。新しい資本主義の定義は必ずしも明確ではないが、要約すれば、以下の通りである。


1980年代以降の政府の市場への介入を最小限にするという新自由主義は、世界経済の原動力となったが、一方で短期の株主価値重視の傾向が強まり、中間所得層の伸び悩み、格差の拡大や貧困の増大、自然環境等への悪影響などの弊害を引き起こしている。


新しい資本主義は、政府が適切に市場を補完することで、市場の失敗を是正する仕組みを資本主義の中に埋め込み、資本主義の便益を最大化しようというものである。


民間企業において中長期的に稼ぐ力を高める鍵は、人的資本や知的資本など無形資産への投資であり、無形資産は日本企業が投資を怠っていた分野でもある。


そして、企業の稼ぎを賃上げや、さらなる投資に向けることで好循環を生み出すというものである。政府も人的資本への投資を抜本的に強化するとしている。


こうした考え方に基づいて掲げられた政策メニューをみると、分配面では最低賃金の引き上げ、非正規労働者やフリーランスの待遇改善、キャリアアップの促進、子ども・子育て支援、勤労者皆保険の実現、全世代型社会保障の構築といった項目があがっている。


施策は、どれももっともなものであるが、あまり目新しさは感じられない。安倍、菅両政権の政策との重複が多いのは、課題が長年持ち越されてきたからである。政策の多くは、多額の財源を必要とし、踏み込んだ改革なしには実行できない、難易度の高いものである。


そもそも、新自由主義の弊害を是正するというが、80年代以降、日本ではむしろ、新自由主義的な構造改革や企業改革が不徹底だった。それが、今日の日本経済の停滞を招いている要因ではないか。


今年の参議院選に向けて、岸田政権がどれだけの覚悟をもって、新しい資本主義と呼ぶにふさわしい具体策を打ち出してくるのか、政権の真価が問われることになる。



◎「SMBCマネジメント+」2022年5月号掲載記事

プロフィール

株式会社日本総合研究所 チェアマン・エメリタス 高橋 進

(たかはし・すすむ)1953年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、住友銀行(現・三井住友銀行)に入行。ロンドン駐在などを経て、株式会社日本総合研究所に転じ、調査部長等を経て2011年6月より理事長。18年4月にチェアマン・エメリタス(名誉理事長)に就任し、現在に至る。内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(05年~07年)、内閣府経済財政諮問会議 民間議員(13年~19年)、内閣府規制改革推進会議 委員兼議長代理(19 年~)等、公職を多数歴任。