Netpress 第2171号 会社も個人も要チェック! 2022年度以降の年金制度の改正ポイント

Point
1.2020年6月に公布された年金制度改正法が、2022年4月1日より順次、施行されています。
2.社会保険の適用拡大、在職老齢年金制度の見直しなど、今回の主な改正内容を確認します。


社会保険労務士法人マイツ
藤田 隆宏


「人生100年時代」といわれる昨今、より長く、多様な生き方ができる社会へと変化していくことに合わせて、2022年度からさまざまな年金制度の改正が行われます。


以下では、会社と年金受給者に影響のあるものを中心に、主な改正を紹介します。


1.社会保険の適用拡大 【2022年10月1日、2024年10月1日実施】

一般的に、労働時間と労働日数が正社員の4分の3以上であるパート・アルバイト等は、社会保険(健康保険と厚生年金保険を指します。以下同じ)の被保険者(社会保険への加入が義務)となります。


そのうえで、労働時間と労働日数が正社員の4分の3未満であっても、社会保険の適用対象とすべき企業規模と労働者の要件が定められています。具体的には、社会保険の加入対象となる労働者数が501人以上の会社では、以下の要件をすべて満たすパート・アルバイト等についても、社会保険の被保険者となります。


①1週間の所定労働時間が20時間以上であること
②1か月の賃金が8.8万円以上であること
③勤続期間が1年以上見込まれること
④学生でないこと


上記のとおり、現状の企業規模は501人以上ですが、今回の改正により、2022年10月1日から「101人以上」、2024年10月1日から「51人以上」に変更され、社会保険の適用が拡大されていきます。


また、③の勤続期間についても、2022年10月1日から「2か月超」の見込みに変更されます。


2022年10月1日〜
・企業規模が「101人以上」(改正前501人以上)
・勤続期間が「2か月超」見込まれること(改正前1年以上)
2024年10月1日〜
・企業規模が「51人以上」(改正前101人以上)


今後、新たに適用対象となる会社は、対象者の確認や保険料の負担増などに留意してください。

2.60歳から65歳未満の在職老齢年金制度の見直し 【2022年4月1日実施】

会社の社会保険に加入しながら年金を受給する人については、老齢厚生年金が一定の基準額を超えた場合に減額される仕組み(いわゆる在職老齢年金制度)があります。


これまでの基準額は、60歳から65歳未満は28万円、65歳以上は47万円とされていました。今回の改正により、60歳から65歳未満の基準額が47万円に引き上げられ、65歳以上の基準額と同じになりました。


60歳から65歳未満の人は、老齢厚生年金の減額を気にせずに働ける可能性が広がったことになります。

3.老齢厚生年金額の毎年定時改定 【2022年4月1日実施】

従来、在職中の65歳以上の人に対する老齢厚生年金額は、退職または70歳到達時に、それまでに加入していた厚生年金保険分を再計算し、改定される仕組みでした。


今回の改正では、毎年10月分からそれまでに加入していた厚生年金保険分を再計算し、老齢厚生年金額に反映させることになりました。これにより、退職を待たずに早期に老齢厚生年金額が改定されることで、65歳以上の人が年金を受給しながら働く場合の経済基盤の充実が見込まれます。

4.老齢年金の受給開始時期の柔軟化 【2022年4月1日実施】

原則として、老齢年金(老齢厚生年金と老齢基礎年金を指します。以下同じ)の受給開始は65歳からですが、個々人のライフスタイルに合わせて、60歳からの一定の範囲内で、受給開始時期を自由に選ぶことができます。


従来、65歳より早く受給(いわゆる繰り上げ受給)する場合には、繰り上げた月数に応じて、1か月につき0.5%(60歳で最大30%)の減額、65歳より後に受給(いわゆる繰り下げ受給)する場合には、繰り下げた月数に応じて、1か月につき0.7%(70歳で最大42%)の増額でした。


今回の改正では、今後も高齢者の就労が拡大することを踏まえて、以下の改正が実施されました。


①繰り下げ受給の上限年齢の引き上げ

従来の繰り下げ受給の上限年齢は70歳でしたが、75歳に引き上げられました。これにより、75歳から受給した場合の年金額は84%の増額となります。


②繰り上げ受給の減額率の見直し

従来の1か月につき0.5%の減額が、1か月につき0.4%(60歳で最大24%)の減額に変更されました。


参考までに、改正後の繰り上げ・繰り下げ時の減額率と増額率を表にまとめると、以下のとおりです。


<繰り上げ受給の場合>

受給開始年齢
60歳
61歳
62歳
63歳
64歳
65歳
減額率
24%19.2%
14.4%
9.6%
4.8%


<繰り下げ受給の場合>

受給開始年齢
65歳
66歳
67歳
68歳
69歳
70歳
増額率

8.4%
16.8%
25.2%
33.6%
42.0%
受給開始年齢
71歳
72歳
73歳74歳
75歳

増額率
50.4%
58.8%
67.2%
75.6%
84.0%


なお、今回の改正とは関係ありませんが、しばしば「在職老齢年金の制度で年金が減額されるのであれば、受給開始時期を繰り下げたらよいのでは?」という質問をいただくことがあります。


あくまでも、繰り下げた増額率の対象となるのは、減額される前の老齢年金の総額ではなく、減額された後に実際にその人が受給できる老齢年金のみであることに注意する必要があります。



今回の年金制度の改正は、会社と年金受給者の双方に影響のある内容となっています。改めて改正内容を確認し、実際の適用の可否、メリットやデメリットなどについては、慎重に判断するようにしてください。



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