マネプラ・オピニオン 偉大な米大統領、その三要件とは

本コラム「マネプラ・オピニオン」は、6名の識者の方々に輪番制でご担当頂きます。それぞれがご自身の視点で経営者の方々へのメッセージをまとめた連載コラムです。



アメリカの大統領権力が年を追って衰えつつあるように思う。大統領の執務室や連邦議事堂で歴代の大統領を追い続けてきた者としてそう思う。


クリントンは、レーガンとパパ・ブッシュ、二代にわたる共和党政権から民主党に政権を奪還したが、21世紀に入ると息子・ブッシュが共和党にホワイトハウスを取り戻した。その後は、非白人系のオバマ、異形の指導者トランプと続き、一年前にはバイデン政権が誕生した。 


レーガンとバイデン──ふたりを並べてみると、指導力の衰弱ぶりはどうにも覆い難い。


ホワイトハウスを石もて追われたニクソンが失意のなかで筆を執った不朽の名著『指導者とは』※。ニクソンはこのなかで米国大統領を敢えて取りあげていない。だが共和党のライバルだったレーガンの影が行間に見え隠れしている。


「指導者を偉大ならしめるのに必須の条件は、三つある。偉大な人物、偉大な国家、そして偉大な機会である」


米ソの冷戦に終止符を打った「レーガンの時代」こそ三つの要素をすべて備えていた。クレムリンとの戦いでは一歩も引かず、SDI・戦略防衛構想を推し進め、ソ連経済を破綻させていく。あの頃の超大国アメリカは、冷たい戦争に勝つ力量を内に湛(たた)えていた。アメリカはまさしく「偉大な国家」だった。黄昏ゆく東西冷戦は、「偉大な機会」をこの人に与えたのである。


レーガンは「ハリウッドの俳優あがりが」と蔑まれていたが、この国の民主主義に誰よりも揺るぎない信を置いていた。名だたる歴史家がリンカーンと並ぶ名リーダーと評価するのは、まさしくそのゆえだった。


日本が半世紀を超えて同盟の誼(よしみ)を結んできたアメリカはいま落日のなかにある。それは国力のゆえだけではない。デモクラシーの旗を燦然と輝かせてきた理念が喪(うしな)われつつあるからだろう。アメリカは、力のゆえに偉大なのではない。力を正しく使うがゆえに偉大なのである。


※ リチャード・ニクソン著、徳岡孝夫訳、文春学藝ライブラリー、2013年

◎「SMBCマネジメント+」2022年3月号掲載記事

プロフィール

外交ジャーナリスト 作家 手嶋龍一

NHK政治部記者を経て、1987年からワシントン特派員としてホワイトハウス・国防総省を担当し、東西冷戦の終焉に立ち会う。湾岸戦争では最前線で従軍取材。ドイツ支局長を経て、ワシントン支局長を8年間にわたって務める。この間、9.11同時多発テロ事件に遭遇し、11日間の昼夜連続の中継放送を担った。2005年にNHKから独立後は、慶應義塾大学教授としてインテリジェンス戦略論を担当。著書に『ウルトラ・ダラー』、『スギハラ・ダラー』、『鳴かずのカッコウ』など多数。

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