反怖謙一の「ABC通信」 上機嫌なリーダー

ABC通信は、日々の気づきや学びを基に、物事の根本や本質について忘備録的に書き綴ったものです。ABCは、A(あたりまえのことを)、B(ぼんやりせずに)、C(ちゃんとやる)の略で、私自身の座右としているものです。



経営者の皆さんにおかれましては、会社の永続と繁栄を念じつつ、日々、骨身を削ってさまざまな経営努力をなさっていることと拝察します。会社は経営者の器以上にはならず、会社の成長は経営者の器次第と言われます。


皆さんは、いろいろな心の痛みや葛藤、悩みに翻弄されながら、何とか身を保ちつつ、己自身の人格的成長と仕事の出来をひそかな喜びとしながら頑張っておられることでしょう。


ところで、この世は人と人とのつながりで成り立っている以上、その実体は「人の営み」です。社会貢献を錦の御旗として掲げ、社会や人のお役に立つことを尊い志とする皆さんにとって、仕事は生きがい、やりがい、張り合いの源泉であり、まず仕事が嫌いな人はいないでしょう。


しかしながら皆さんの心の痛みや葛藤、悩みとなるそのほとんどは、ご縁を得て関わる相手の人柄や人間性、その人たちとの人間関係によるのではないでしょうか。 


私たちの平素の仕事や生活の中でも、ご縁を得て関わる相手の人柄や人間性、その人たちとの人間関係次第で、その際の心象風景には、天と地ほどの差が生まれます。


電話での問い合わせや対面販売員の接客、仕事相手との会議や電話でのやり取りなど、さまざまな場面で、相手の対応次第で、嬉しく天にも昇る気持ちにもなれば、不快でうつうつとした地獄の気分となったりもします。


確かに、電話口で対応した相手にもさまざまな事情があるのは想像できます。もし仮に、不快な思いをしたその背景を相手に問うて事情を理解すれば、共感や納得を得て、腹の虫が収まるかもしれません。


しかしながら、そうできないところに、自分自身の現実を受け入れる器量や度量、人間としての懐の深さを養う必要性が出てきます。


事の大小を問わず、相手に対する不快感や理不尽な思いをいつまでももち続け、誤解や認識のずれ、相手側の思惑のごり押しへの憤りなどを抱えていては、自らが不機嫌になることを免れません。結果として、経営者たる自分を支え、会社のために粉骨砕身してくれている大切な周囲の人たちにまで不機嫌さを伝染させ、その場の空気を壊し、皆を不機嫌の渦へと引きずり込んでしまいます。


人は、その場の空気から逃れることはできません。その場の空気には絶大な力(影響力)があります。人間はつかみどころのない空気の働きに大きな影響を受けるのです。私たちは、雲か霧のような空気感に包まれながら、心を開いたり閉じたりして、一定に方向づけられるのです。


その空気の最たるものが、トップたるリーダーの「上機嫌」と「不機嫌」です。上機嫌さは人間の最高の美徳であり、上機嫌なリーダーに人は集まります。反対に、リーダーの不機嫌さは純粋な悪であり、組織構成員のモチベーションや士気をおとしめ、組織の活力を奪います。


経営者の皆さんにおかれましては、自らの不機嫌さがもつ影響力に想いを致し、会社に顔を出す際には、事前に鏡に映る自分の表情をぜひとも点検していただきたいと思います。「眉宇(びう、眉のあたり)を開き、口角を上げましょう!」。あなたの上機嫌さは、皆を救う強力な武器です。

◎「SMBCマネジメント+」2022年2月号掲載記事

プロフィール

三井住友銀行 人事部研修所 顧問(元・陸上自衛隊 陸将 第1師団長) 反怖 謙一

(たんぷ・けんいち)1979年、陸上自衛隊幹部候補生として入校。東部方面総監部防衛部長、陸上自衛隊研究本部総合研究部長、北部方面総監部幕僚長 兼 札幌駐屯地司令、陸将 第1師団長等を歴任。2014年に陸上自衛隊退官後、現職。

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