反怖謙一の「ABC通信」 大切な道場仲間

ABC通信は、日々の気づきや学びを基に、物事の根本や本質について忘備録的に書き綴ったものです。ABCは、A(あたりまえのことを)、B(ぼんやりせずに)、C(ちゃんとやる)の略で、私自身の座右としているものです。



上下関係のハッキリした厳格な秩序立てをもって運営される会社という組織において、誰もが上司と部下という関係性を免れることはできません。


となれば、組織構成員の誰もが、まずは“上司と部下との本質的関係性”について、共通の理解と認識をもつ必要があります。


「根無し草に花は咲かない」と言われるように、この共通土台の弱さが、さまざまな上司・部下間のずれや温度差の源となっているように思えてなりません。

教えざるの罪というべきか、知らないものはほしがれないというべきか、何とかこの共通土台の共有を通じて、健全で心地良い上司・部下間の関係性を育んでもらいたく、私見ながら、以下に述べさせていただく次第です。

個人事業主として仕事を行う場合はいざ知らず、いずれかの組織に所属して仕事を行う場合には、必然的かつ否応なく、組織内の他者との間で上司・部下という関係性をもつことになります。

上司とは、部下となる人を従わせて、その具体的な処遇はもとより、目に見えない人間的なあり様に至るまで、さまざまに背負い託される立場です。職位相応の責任と権限が与えられ、部下となる人たちにとっては、組織内の生殺与奪の権を有する畏怖すべき存在であると同時に、己の成長発展を促してくれる有難くも頼もしい存在でもあります。

それゆえに、上司となる人の生きざま、仕事の仕方、身の処し方、言動は、部下におよぼす影響は大きく、また、組織運営におよぼす影響も甚大です。

そもそも組織における役職(肩書)、権限などは、組織運営を能率的に進めるための方便(便利な方法)、手立て、ツールとしてあるものであり、上司も部下も本質的には、同じ人間同士、まったく公平・平等・対等な関係にあります。

すなわち、上司も部下もあくまで公の関係であり、同じ職場で働く仲間として、互いに敬意を払い、支え合い補い合うことに感謝しなければなりません。

互いに職業人としての円満な関係を築き、保っていくための行動規範たる礼儀を正しくして、共通の職務目標達成のために協力し合う関係にあります。

また当然、互いに切磋琢磨して人間的成長を託し合う関係でもあります。仕事が人を鍛え、人を育て、人間が成長しないと仕事も成長しないと言われるように、人格的成長と仕事の出来は表裏一体です。

それゆえ、上司も部下も本質的には仕事を通じてあらゆる分野にわたって“互いに高め合い、深め合い、広げ合う、かけがえのない仲間同士”と言えます。

かつて松下幸之助氏は、「職場は人生の道場である。給料をもらうだけのところではない。(中略)最も大事なのは、一人の人間として、職場の中で、自分の個性、持ち味を十分に発揮できるようにしていくことだ。自分自身のかけがえのない人生を、会社で仕事をすることを通じて、自分の力で充実したものにしていくことだ」※と喝破されました。

そうなのです。道場(鍛錬の場)なのです。辛く苦しく悩ましい日々の鍛錬で己を鍛え、隠れた才能や能力を磨き出し、光り輝かせてくれるのが職場です。

上司も部下も、職場という道場で汗を流し、鍛錬の日々を送る“道場仲間”です。互いに「今日はいい汗をかいた、お蔭で成長できた」と、敬意と感謝の気持ちで礼儀正しく向き合う、相手と和合し、共に成長する気持ちで向き合う“大切な仲間同士”、共有すべき土台なのです。

※松下幸之助『人生談義』(PHP研究所、1990年)


◎イラスト/遠藤宏之

◎「SMBCマネジメント+」2021年12月号掲載記事

プロフィール

三井住友銀行 人事部研修所 顧問(元・陸上自衛隊 陸将 第1師団長) 反怖 謙一

(たんぷ・けんいち)1979年、陸上自衛隊幹部候補生として入校。東部方面総監部防衛部長、陸上自衛隊研究本部総合研究部長、北部方面総監部幕僚長 兼 札幌駐屯地司令、陸将 第1師団長等を歴任。2014年に陸上自衛隊退官後、現職。

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