「越境」と「アンラーニング」が成長につながる 新しいリーダーに必要なのは、 「対話」と「越境」 そして「学び直し」


外の世界への「越境」を自分に課す


梅本 本質をついたご意見ですが、救いはあります。トレーニングが足りないということは、トレーニングすればできるということです。慣れ親しんだやり方に安住したいが、視座を上げないといけない。企業の置かれている状況がどんどん変わってしまう現代においては、変化し成長することが求められる。問題はどうやって自らを奮い立たせ、試練の舞台に立つかです。


長岡 若い世代の間ではパラレルキャリアや副業が当たり前になっていて、彼らは足場を移すことにあまり抵抗をもっていません。会社以外のネットワークをもっていること、外の世界とのつながりをもっていることが、ハードルを低くしているのではないでしょうか。


梅本 自分の置かれた場所にじっとして、一つのことを縦に深掘りするだけでは不十分で、他の環境へ片足を踏み入れ、知らないことを学んでいくことが必要な時代です。「越境」と言ってもいいかもしれません。未知の世界に水平に越境してみることが、自らを鍛えることになるし、新しい発想をもつことにつながります。


しかしこれまで全力で仕事に邁進してきた人にとっては、横道へ越境し、今の仕事と無関係なことに時間やエネルギーを割くのは、かなりチャレンジングかもしれません。


長岡 本業に割くリソースが7割でもフルに働いていると思える人と、9割以上にならないとそう思えない人とでは、他の場所へ意識を向けられる度合いが違います。昔のビジネスパーソンは後者でよかったかもしれませんが、今の若い世代は、終身雇用もなくなり、5年先のこともわからない時代を生きています。目の前のタスクへの注力は7割に抑え、残りの3割で他の世界に目を向けるのは、労働者として当然の権利だと思います。


その対象をゴールシーキング(目標を探し求めること)的に絞るのではなく、今は興味のない分野にも構わず飛び込んで楽しんでみることが重要です。これからの時代、そういうチャレンジをしない人は将来つまずいてしまうでしょう。


越境する先は副業でなくてもいいんです。週に一度、地域のボランティアに参加するのでもいいし、子どものスポーツチームのコーチをやるのでもいい。自分のネットワークや視野を広げることに意味があるのですから。職場での価値観を見直す機会にもなります。


梅本 基本的なことですが、もっと成長したい、もっと成長できるんだというマインドをもつことも大事ですね。


長岡 スタンフォード大学のキャロル・ドウェック教授が提唱する、成長的能力観(growth mindset)と固定的能力観(fixed mindset)という考え方があります。成長的能力観すなわち自分は成長できると思っている人は成長できるし、固定的能力観すなわち才能や能力には限界があると思っている人は実際に成長しないということなのですが、多くの人は自分が成長できると思っています。


しかし、ハウツーやノウハウをどこかから入手してうまく対処しようとするのは、固定的能力観のほうです。成長的能力観とは、失敗や遠回りをしても自分の頭や体を一生懸命使って達成しようとする感覚を指します。


梅本 慣れ親しんだ環境で旧知の仲間とやり慣れた仕事をするほうが、新しいことに挑戦するよりラクですから、自分に縛りをかけて成長を妨げてしまうことが往々にしてあります。特にミドル層くらいになると、大方の仕事はルーティンで回せるし、新しいことに手を出して失敗でもしたら責任を取らされますから、冒険に消極的になっても不思議ではありません。


しかし越境を楽しむことは、自分にパーミッション(許可)を与えることだと、とらえることもできます。縛りを取れば私たちはいくらでも成長できるはずです。今いる場所にとどまらずに越境することで、自分にもまだまだやれることがある、自分の能力はこんなものじゃないという気づきが生まれ、元の場所に戻ったときにそれまでとは違うパフォーマンスを発揮できるでしょう。自分の可能性に蓋をしているのは自分自身であることにいかに早く気づけるか、そしてはじめの一歩を踏み出し、いかに越境を楽しむことができるかが、自分を成長させる鍵と言えます。




長岡 現状ではまだまだ企業の側にも越境を良しとしない風土があり、そこを変えていく必要があります。若い世代が実践できるパラレルキャリアや社会活動は、スケール的には小さい場合が多く、社会に大きなインパクトを与えようと思えば、やはり大企業に身を置くことが望ましいです。


梅本 そういう意味では、大企業の経営陣は積極的に示していく必要がありますね。ここは魅力的な場所なんだ、自分を成長させられる場所なんだと。


それにはこれからの経営幹部に求められるものは何なのか。自ら自己変容する力をもつことであり、ひいては古い常識を捨てて新しく学び直すアンラーニング(学習棄却)につながりますが、学び直しの実践は非常に難しいと思われているようです。



アンラーニングし続けることが成長につながる


長岡 難しいと感じる人は、アンラーニングを達成すべき目的のようなものだと思っているのでしょう。アンラーニングは結果に過ぎません。自分が集団凝縮性の中に陥っていないか常に危機意識をもち、自分の中のアタリマエを揺さぶり続けることが大事です。


結果的には何も変わらなくてもいいんです。オープンな世界に身を置き、新しい考え方やモノの見方に触れ続けようとする越境的マインドが、結果的にアンラーニングにつながっていきます。ワークショップやコンサルティングが外科手術だとしたら、越境は漢方薬。未病の状態から服用し、即効性はないけれど、じわじわと効果が現れるのです。


梅本 漢方薬とはいい例えです。学び直しができる人とできない人では、どのような違いがありますか。


長岡 株式会社パーソル総合研究所の田中聡さんと法政大学石山恒貴研究室との共同研究による、ミドル・シニア(40代、50代)の調査によれば、外部との交流や広いネットワークをもっているか否かが、パフォーマンスに大きく関わっているそうです。面白いですよね。会社は会社のことに専念しろと言うのに、越境せずに会社から言われたことだけを忠実にやってきた人は、次第にパフォーマンスが落ちていく。一方、外部と接点をもち、学び直しを続けている人は、パフォーマンスが落ちないというのですから。




梅本 ということは、越境して学び直しを続けることが成長につながるという証左でもあります。ところで今日の私のアンラーニングは、和服です。自分には無理だと思っていましたが、長岡さんの和服姿を拝見して、そういう思い込みがいけないと気づきました。


長岡 確かに和服はアンラーニング的です。ゆるっと着るのが正しくて、着崩れたらその都度直せばいい。ですから、常に状況を見ておく必要があるんですね。合理的思考の一つの問題点は、決められたメソッドをきっちり遂行すれば自ずと結果が出るため、微調整をあまりやろうとしないこと。アンラーニングはその対極にあって、状況を見ながら微調整を繰り返していくことに意味があるのです。


梅本 コツコツと切磋琢磨し道を極める学習能力と、かっちり枠にはめずにゆるっとした状態で常に微調整を続ける繊細な感覚、その両方が備わって初めて成長していけるのでしょうね。好奇心にパーミッションを与えたら軸足を移して越境できるし、越境してみたら結果的に学び直しができ、一歩高みに立つことができる。これからの経営者や経営幹部に必要な条件であり、自己変容できる人は周りも成長させられる、それが企業全体の成長にもつながるのだと思います。



◎構成/石橋真理 撮影/西﨑進也

2022年春開講の新セミナー
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本対談記事の梅本氏が講師を務める、次世代経営者を育成するための新セミナーが今春開講いたします。
「両利きの経営」を軸に、経営人材として必要な知識・スキルを、仲間と共に学んでいただきます。詳細につきましては以下のページをご覧ください。


◆本セミナーのサマリー
  • 現役員・役員候補・部長クラスを対象とした、次世代経営人材を育成する新セミナー
  • 5月~翌1月にわたる全11回のプログラムを通し、経営人材として必要な幅広い知識を学ぶプログラム
  • 異業種交流を含む様々な「対話」やアウトプットを行う、越境教育によって磨かれる実践力

※募集は終了しました。

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