Netpress 第2123号 新たな価値を生み出す 「リスキリング(能力再開発)」は課題解決の手段!

Point
1.リスキリングは、スキルを学ばせるのではなく、目の前の課題を解決する取り組みと理解することが重要です。
2.すでに導入しているシステム浸透から始めて、デジタルへの拒否反応を減らすようにしましょう。
3.経営者は、解決すべき優先課題をはっきりさせて、リスキリングを促すようにすることが大切です。


セレクションアンドバリエーション株式会社
代表取締役 平康 慶浩


1.リスキリング(能力再開発)とはなにか

リスキリングというキーワードが、メディアで頻繁に取り上げられるようになっています。「学びなおし」や「能力再開発」と訳されますが、単なる人材育成の考え方と捉えると、対応を誤ってしまいます。


似たようなキーワードにリカレントがありますが、これは働く一人ひとりの側からの取り組みを指しています。たとえば、同じデジタルスキルを身につけるとしても、リスキリングは会社側がそのための仕組みを用意して、働きながら学習させます。それに対して、リカレントは働く側が自主的にどこで学ぶのかを選び、時には離職してでも学びなおす取り組みを指すことが多いのです。


とはいえ、厚生労働省による各種支援では、「主体が会社側か労働者側か」という区分はあいまいです。同省のページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18817.html)には、リカレントというキーワードについて、労働者側への給付、会社側への助成、双方が記載されています。


いずれにせよ、これまでと求められるスキルが変わっていて、新しいスキルを学ぶことの重要度が飛躍的に高まっていることは誰しも同意するところでしょう。

2.即効性のあるDX対応がリスキリングの目的

リスキリングは、DX(デジタルトランスフォーメーション)と同じ文脈で語られることが大半です。リカレントからリスキリングへと流れが変わった事情と密接に絡んできますが、「いま求められるスキルが、デジタル対応スキルである」と明言されるようになったのと時を同じくしています。


リカレントが流行したのは、2017年頃のことです。イギリスのリンダ・グラットンによる『ライフシフト』出版の翌年です。人生100年時代に対応するための生涯学習の必要性について、内閣府を中心にさまざまな取り組みが進み、創造性やクリティカルシンキングなどの本質的な能力の醸成が重要であるといわれていました。


しかし、本質的な能力の醸成には時間がかかり、即効性が担保されません。学びなおしのニーズはあると理解されたものの、会社・個人の双方とも、学び直しに時間とお金をかけたとして、果たしてそれに見合う効果、メリットがあるのかどうか、自信がもつことができませんでした。


そうして、リカレントブームが一段落した段階で、DXへの対応にはリカレントよりもリスキリング、という文脈が広まるようになったのです。

3.大上段に構えすぎると、そもそも取り組めないDXとリスキリング

DXのためにリスキリングとなると、たとえばプログラミングの学習だろう、あるいはAI活用についての学習だろう、などと思われがちです。


しかし、より正統な手順を踏むのであれば、まず会社全体としてのDX戦略を定め、次にあるべき人材像に基づいた求められるスキルマップを定めて、現在の一人ひとりのスキル過不足を判断して適切な学びを与えていく、ということになるでしょう。


ただ、そのように大上段に構えた改革は、いまのような変化の激しい時代に合致しているのでしょうか。成功しているDXのためのリスキリングは、もっと目の前の改善から始まっています。


たとえば、OBDX(大阪DX推進プロジェクト:https://obdx.jp/)で紹介されている企業事例では、具体的な課題を解決するために始まっています。


      

(例)株式会社サンコー技研(製造業)

●きっかけ

 交通系ICカード作成に関する作業日報の電子化

●関係するリスキリング

 「誰が電子化したか確認できるように」「誰でも作業記録を電子化できるように」
 「電子化したデータを活用できるように」、2018年~2019年にかけて推進

4.いま導入しているツールの浸透から始めて「拒否反応」を減らす

多くの会社で、リモートワークを前提としたテレコミュニケーションツールだけでなく、クラウドを活用した営業ツールや、人事制度運用を支援するHRテックツールなどが導入されつつあります。


それらのツールは、いずれも本来であれば、生産性を高めるとともに、売上や利益を伸ばすことを目的として導入されているはずです。しかしながら、せっかくHRテックツールなどのさまざまなツールが導入されていても、実際の活用状況は2割~5割程度、という調査結果もあります。


そこで、リスキリング対応として、いま導入しているツールの浸透度を高めていくことから始めることをお勧めします。そうすることによって、これまでの「業務プロセスを変える」ことが自分たちのメリットにもなる、ということをしっかり理解してもらうようにするのです。

5.デジタルスキルの獲得ではなく、課題解決のためのデジタル化を進める

リスキリングというキーワードは、新しい能力の獲得、という印象をもたせます。しかし、リカレントからリスキリングにキーワードが変化したとき、その目的も変化しています。


リカレントは、人生100年時代において、「どこにいても一人ひとりが活躍し続ける」ことができることを目的として広まった言葉です。


一方、リスキリングは、ビジネスや業務そのものにおいてデジタル化が当然になってきた状況に対応して、「一人ひとりがデジタル化に対応して、いまの会社のなかで活躍し続けてもらう」ことを「手段」とするものです。そして、目的はもちろん「会社の優先課題を解決する」ことです。


求められているのは、単にデジタルスキルを獲得することではなく、目の前の課題を解決するためにデジタル化を進めることです。いま優先すべき課題を明確にし、そこで求められるスキルが学びなおされることによってこそ、リスキリングは結果を生むのですから。



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