反怖謙一の「ABC」通信 楽観主義と悲観主義をあわせもつ

ABC通信は、日々の気づきや学びを基に、物事の根本や本質について忘備録的に書き綴ったものです。ABCは、A(あたりまえのことを)、B(ぼんやりせずに)、C(ちゃんとやる)の略で、私自身の座右としているものです。
※三井住友銀行 人事部研修所 顧問、反怖謙一氏の連載コラムです。



「密林の聖者」と謳われたシュバイツァー博士(ドイツの医師、神学者、アフリカで半世紀にわたり住民の医療と伝道に従事)は、「私が悲観主義者か楽観主義者かの問いにはこう答える。私の知識は悲観的なものだが、私の意志と希望は楽観的だ」と言っていたそうです。


また、フランスの哲学者アランは「悲観主義は感情からくるもの、楽観主義は意志からくるもの。ただ気分のおもむくままに生きている人はみんな悲しい。いや、悲しいということばでは弱すぎる。なぜならそういう人はやがて怒り、激怒するからである。結局のところ、よい感情というものはない。感情は、正確に言うと、きまって悪いものである。だから幸せはすべて、意志と克己心とから生まれるのである」※1との考えを示しました。


このように楽観主義とは、困難な現実の中でも最後まで達成する意志を捨てない人の生きる道を示すものと言えます。しかしながら、楽観主義はいささか現状認識が甘く、状況把握の詰めが足りないという欠点があるのも事実です。


一方、悲観主義は、物事の悲観的な面に着目し、望ましくない結果になる可能性が高いと見ます。未来への目は暗く、具体的に挑戦する意志に乏しいものです。


しかしながら悲観主義は、未来の出来事について最悪のシナリオまでをも含めた悪い結果を予想し、それにつながるさまざまな要素を詳細に考えます。まさに困難な現実、厳しい未来を正しく透視する冷徹な目をもち、失敗した場合の備えを周到に考え、そうならないよう最善かつ悔いのない努力をします。


リーダーたる皆さんには、楽観主義と悲観主義の良い面をあわせもっていただき、シュバイツァーのような確固たる意志とこれに可能性を担保する周到な備えの下、コロナ禍を機に、社会構造そのものが急速に大変革を遂げようとする今を、着実に乗り越えていっていただきたいと思います。


現在、地球上の誰もが、未知の未来に対して大きな不安を抱えています。国レベルではもちろん、皆さんの会社の従業員の方々も、自分が属する国や組織のリーダーが未来への不安を何とか解消してくれることを期待しています。


「今日のことは自分たちで何とかします。だから未来のことは、あなたに頼みましたよ」。今まさに経営者たるリーダーとしての器量が問われています。


ちなみに「外寛内明(がいかんないめい)」という言葉があります。他人には寛大に接し、自分に対しては明晰に厳しく省みるという姿勢です。


楽観主義者は寛大なリーダーになりますが、部下に対しては放縦(勝手気まま)な結果を生みやすいものです。悲観主義者は明晰なリーダーとして現状を的確に把握する能力を発揮できる一方、部下の動静を厳しく管理しすぎると息苦しさを与え、組織の活力を奪ってしまいます。


故に、リーダーの心得としては、「明なれども察に及ばず、寛なれども縦(しょう)に至らず」※2(『宋名臣言行録』)がポイントとなります。皆さんの参考となれば幸甚です。



※1 参考:アラン著、齋藤慎子訳『アランの幸福論』ディスカヴァー・トゥエンティワン  

※2 物事がわかっていても、細かい事をとやかく言わない。寛大であっても、放任になってはならない。




◎イラスト/遠藤宏之

◎「SMBCマネジメント+」2021年10月号掲載記事

プロフィール

三井住友銀行 人事部研修所 顧問(元・陸上自衛隊 陸将 第1師団長) 反怖 謙一

(たんぷ・けんいち)1979年、陸上自衛隊幹部候補生として入校。東部方面総監部防衛部長、陸上自衛隊研究本部総合研究部長、北部方面総監部幕僚長 兼 札幌駐屯地司令、陸将 第1師団長等を歴任。2014年に陸上自衛隊退官後、現職。

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