Netpress 第2111号 会社側の義務は? 改定テレワークガイドラインで求められること

Point
1.テレワーク(在宅勤務、モバイル勤務、サテライトオフィス勤務)でも、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等の労働基準関係法令は適用され、オフィス勤務と同様の措置が必要です。
2.会社側に対応する義務がある事項以外でも、テレワーク特有の事象(中抜け時間等)に対する取り扱いを決めておく必要があります。


社会保険労務士法人トムズコンサルタント
特定社会保険労務士 小宮 弘子


1.テレワークガイドラインの改定

2021年3月25日付で「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(以下、「新ガイドライン」といいます)が公表されました。


旧ガイドラインは、テレワークによる長時間労働の防止を中心に策定されていましたが、新ガイドラインでは、テレワークの導入と運用(労務管理や環境整備)に関する具体的な内容が記載されています。

2.新ガイドラインの主な内容

新ガイドラインは、良質なテレワークを推進するため、労務管理を中心に労使双方にとって留意すべき点、望ましい取り組み等を明らかにしており、次の内容で構成されています。


1 趣旨
7 テレワークにおける労働時間管理の工夫
2 テレワークの形態
8 テレワークにおける安全衛生の確保
3 テレワークの導入に際しての留意点
9 テレワークにおける労働災害の補償
4 労務管理上の留意点
10 テレワークの際のハラスメントへの対応
5 テレワークのルールの策定と周知
11 テレワークの際のセキュリティへの対応
6 様々な労働時間制度の活用
(チェックリスト・・・別紙1、別紙2)

     

3.導入に際しての留意点

(1)テレワークを推進するために定めておくべき事項

テレワークの適切な導入・実施にあたっては、導入目的、対象業務、対象労働者の範囲、実施場所、テレワーク可能日(労働者の希望、当番制、頻度等)、申請等の手続、費用負担、労働時間管理の方法や中抜け時間の取り扱い、通常または緊急時の連絡方法等について、あらかじめルールを定めておくことが重要としています。


(2)対象業務

仕事内容の本質的な見直しを行うなどして対象業務を選定することや、オフィス勤務者に業務が偏らないよう留意することが必要としています。


(3)対象者の選定

パートタイム・有期雇用労働法に言及し、対象者の選定にあたり、雇用形態を理由に対象から除外することのないよう留意する必要があるとしています。

4.テレワークと会社の法的義務

テレワークにおいて会社に課せられる法的義務をまとめると、以下のとおりです。


【労働基準法】

①就業規則の整備

②労働条件の明示(就業の場所)

労働契約を締結する際に、就労開始日からテレワークを行わせる場合は、「テレワークを行う場所」を明示する必要がある。


③労働時間制度の適用

法定労働時間や残業の上限規制は、オフィス勤務と同様に適用される。すべての労働時間制度でテレワークが実施可能だが、各制度の要件の範囲内での利用となる。


④労働時間の適正な把握

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を踏まえ、適正に労働時間を把握する責務がある。特に自己申告の場合は、申告時間の上限を設定するなど、適正な申告を阻害する措置を講じないようにする必要がある。


⑤36協定の締結・届出と割増賃金の支払義務

テレワークでも法定労働時間を超えて時間外労働・休日労働をさせる場合は、36協定の締結や届出、割増賃金の支払いが必要となる。


⑥休憩時間の取り扱い

オフィス勤務では休憩時間を一斉付与しているが、テレワーク対象者に一斉付与しない場合は、労使協定の締結が必要となる。


⑦費用負担

労働者に情報通信機器、作業用品等を負担させる場合は、就業規則に規定しなければならない(労働者に過度な負担が生じることは望ましくないとされている)。

【最低賃金法】
テレワーク対象者が属する事業場がある都道府県の最低賃金を下回ってはならない。たとえば、会社で所属する事業所の所在地が東京なら、千葉県で在宅勤務をしても東京都の最低賃金が適用される。
【労働安全衛生法】
適切な作業環境の確保、健康診断、ストレスチェック等のメンタルヘルス対策、長時間労働者に対する医師の面接指導等の対応が必要となる。テレワーク環境について、事業者用(安全衛生を確保するために実施すべき事項)、労働者用(作業環境の確認)のチェックリストが新ガイドライン上で公開されている。
【ハラスメント対応】
オフィス勤務と同様に、ハラスメントの防止対策を十分に講じる必要がある。



5.テレワーク特有の事象への対応(実務上対応を決めておくべき事項)

労働者が業務から一定程度離れる時間とされる中抜け時間について、会社が把握しない場合は労働時間として取り扱う、会社が把握する場合には休憩時間扱いとして終業時刻を繰り下げる、時間単位年休として取り扱うなど、その対応を決めておくことも必要です。そのほか、勤務時間の一部でテレワークを行う際の移動時間や長時間労働対策についても、あらかじめ対応を定めておくようにしましょう。



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