人事制度について再考する②:自社に最適な「型」と「等級制度」の設計
はじめに:政府が推進する「ジョブ型人事」の光と影
政府は「新しい資本主義」の改革として、「ジョブ型人事の導入」「労働移動の円滑化」「リ・スキリング」を推進しています 。職務スキルを明確化することで、労働者が自発的に学び直し、社内外を自由に移動できる環境を整備する狙いがあります。
一方で、ジョブ型人事制度の導入は、社員にとってはポストを外されるリスクを、企業にとっては優秀な人材の流出リスクを伴います。また、職務で給与が決まる仕組みでは職種変更時の減給が避けられず、「(能力習熟を考慮するための)昇給」という概念も制度として整合しません。
このようにどのような制度にも一長一短があるため、流行に惑わされず、自社の「人材活用方針」や「制度設計の方針」の実現に最適な制度を選択することが重要です 。
◯自社に適した方法の選択:流行よりも「適合性」
以上の様にジョブ型人事の導入には慎重な検討が必要ですが、例えば医療機関のように、各職種が高い専門性によって構成されているような組織では、ジョブ型が適しています。こうした組織では以前からジョブ型に近い運用がなされており、新たに制度を導入する場合でも非常に親和性が高いといえます。
一方で、「勤続年数をベースとした賃金制度」を導入する企業もあります。この制度は、社員が将来の収入を予測しやすく、人生設計を立てやすいことから、離職防止(リテンション)につながります。長年の経験に基づく技能の熟練が生産性に直結する製造業などでは、「年功的」なアプローチが現在でも有効に機能する場合があります。
結局のところ、政府の方針や世間のトレンド以上に、「自社の事業特性や組織文化に適しているか」という視点が、制度設計の成否を分けるのです。
そこで、今回は、前回の「方針」を踏まえ、人事制度の概要設計について具体的に掘り下げていきましょう。
◯何を基準として人事制度を設計するのか
制度の本質を整理するために、「人」「成果」「仕事」の3つの基準で、それぞれの特徴を確認してみましょう(図表1参照)。
図表1.主な人事制度の対象と長所・短所

1.「人」基準の制度
対象者の能力、行動、年齢、経験などを評価・給与の決定軸とする考え方で、「年齢給」や「職能給」がこれにあたります。
この制度は、職務と給与が直接連動していないため人事異動が容易であり、給与額が安定するため社員は将来の生活設計が立てやすくなります。一方で、一度上がった給与を下げることが難しい(下方硬直性)ため、企業にとっては総額人件費の管理が困難になるという課題があります。また、仕事の内容と賃金が乖離し、「払い過ぎ」が発生するリスクもあります。
2.「成果」基準の制度
売上や生産量といった「結果」を基準とする考え方で、「歩合給」や「インセンティブ」が代表例です。
この制度は、営業職など成果を数値化しやすい職種に向いており、ハイパフォーマーの意欲を高めることができます。会社としても利益に応じた支払いとなるため人件費管理が容易です。しかし、成果が出ない時期は給与が激減するため、社員の生活が不安定になります。また、目先の数字を追うあまり、長期的な活動の軽視や不正の温床になるリスクもあります 。
3.「仕事」基準の制度
職務、役割、責任(ポスト)に対して報酬を設定する考え方で、「ジョブ型給与」や「役割給」がこれにあたります。
この制度は、「仕事の重さ」と「給与」の整合性が取りやすく、社外の市場価値(マーケットレート)に合わせた報酬設定が可能です。しかし、異動によって仕事が変わると給与が下がる可能性があるため、会社主導の柔軟な配置転換や多様な経験を積ませる育成が難しくなります。
これらの基準を曖昧にしたまま設計を進めると、後に「同一労働同一賃金」などの法的課題や労使トラブルに直面した際、自社の制度を論理的に説明できなくなる可能性が高くなります。
◯等級制度の概要設計
設計の基準を定めたら、次に「等級制度(または社員区分制度)」「賃金制度」「評価制度」の概要設計に入ります。概要設計とは、3つの制度の骨格を決めるための工程です。
人事制度の根幹をなすのが「等級制度」です 。これは社員を能力や役割、職務といった基準でランク分けする仕組みです。
概要設計の段階では、「何を基準とするのか」「何段階(何等級)にするのか」「各等級の要件(概要)」の3点を決定します。
図表2.人事制度の全体像

具体的には、以下の3つの考え方から選択することになります。
①職能資格制度(「人」基準)
「保有している能力」に応じてランク付けする制度です。新卒からベテランまで、習得すべき知識や技能の習得度合いで区分します。
要件は「〇〇できる能力」といった人を主語にした表現で定義します。等級と役職が必ずしも一致しない「ゆとり」があるため、能力の向上を段階的に認めていく日本型の育成に適しています。
②役割等級制度(「役割」基準)
「役職(ポスト)に期待される役割」でランク付けする制度です。権限の範囲、組織への影響度、課題解決の難易度などをもとに定義します。
職能資格制度と違い、単なる「能力(知識がある)」だけでなく、「その能力を活かして、どのような行動・結果を生んでいるか(役割)」までを求めます 。具体的には、職能資格制度が「高度な知識を有している」とするのに対し、役割等級制度では「専門性を活かして新規開拓をリードしている」と定義します。
③職務等級制度(「仕事」基準・ジョブ型)
「職務(仕事内容)」そのものの価値でランク付けする制度です。実際に整備するにあたっては、職務毎に「職務記述書(ジョブディスクリプション)」を作成し、職務分析を通じて仕事の大きさ(ジョブサイズ)を数値化し、これらをもとにグルーピングします。
特徴として、「何をするか」「どんな成果(KPI)を出すか」に焦点が当たり、役割等級制度よりもさらに厳格に仕事の内容に紐付きます。
結びに代えて 今回は、人事制度設計の土台となる「基準」と「等級制度」について解説しました。自社が「人の成長」を軸にするのか、あるいは「仕事の結果」を軸にするのか、その選択によって人事制度は大きく変わります。
次回は、この等級制度をいかにして「賃金制度」と「評価制度」に繋げていくべきか、その具体的な検討事項についてお話ししたいと思います 。
最後に、多田国際コンサルティング株式会社では、労務に関する知見をベースに、各社の状況に即した人事制度の設計・運用をご支援しています。ご関心がございましたら、お気軽にご相談ください。
※本稿は、多田国際コンサルティング株式会社の同名コラムの要約版です。本編は、以下のサイトでご覧いただけます。
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