Netpress 第2451号 広告宣伝費との違いは? 販売促進費にまつわる取り扱いを確認する

1.「販売促進費」は、対象とする取引の範囲によって広義にも狭義にも捉えられる費目です。
2.「広告宣伝費」との違いを踏まえて、販売促進費に該当するケースやその処理方法について解説します。
1.「販売促進費」とは
「販売促進費(販促費)」は、セールスプロモーション(SP)とも呼ばれる、将来の売上獲得や売上のアップを期待して行う諸活動全般に要する費用を指す用語です。
販売促進費をほかの費用と区別して正確に理解することは、コストベネフィットの分析や効率的な費用管理に役立ちます。それにより、戦略的な意思決定に資する情報を提供できるほか、透明性の高い財務報告を行うためにも欠かせません。ところが、販売促進費自体には法令上の定義はないため、実務上、「なんとなく」で経理・税務処理せざるを得ない実務者泣かせの費用の1つといえます。特に、販売促進費とよく混同されるものに「広告宣伝費」があり、その違いを説明するのは難しいところです。
そこで、販売促進費と混同される広告宣伝費との違いを整理しながら、販売促進費について解説していきます。
なお、販売促進費は、税務処理上の論点の1つである交際費課税の判定において、交際費等に含まれるもの、含まれないものを判別する際にたびたび登場します。本稿は、税務処理上の交際費等の論点を主に解説することを目的にしていないので、販売促進費の説明に必要な範囲でのみ触れます。
2.販売促進費と広告宣伝費の違い・関係性

販売促進費は、右表のように、一般的に広義の販売促進費と狭義の販売促進費に区別されます。そのため、いずれを対象にするかによって販売促進費の捉える範囲が異なります。
広義の販売促進費には、人的販売活動に要する費用や広告宣伝費が含まれます。広義の販売促進費は、販売促進活動全般に生じる費用であり、需要を拡大させる活動全般を指します。
対して、狭義の販売促進費は、広義の販売促進費から人的販売活動に要する費用と広告宣伝費を除いた、表の(例示)にあるような個々の具体的な活動に要する費用を指します。実務上、通常は狭義の販売促進費が用いられますので、本稿では特に断りのないかぎり、狭義の販売促進費の取り扱いを確認することとし、広告宣伝費とは区別します。
ちなみに広告宣伝費は、国税庁によると「不特定多数の者に対する宣伝的効果を意図した費用」とあり、この点で狭義の販売促進費と区別されます。私見ですが、裏を返せば、販売促進費は「特定の者に対する販促効果を意図した費用」と理解すれば、両者の相違点のイメージがつかみやすいでしょう。
3.経理・税務処理のポイント
(1) 販売促進費の計上区分
販売促進費は、損益計算書の「販売費及び一般管理費(販管費)」として経理処理されます。経理処理において、販売促進費、広告宣伝費、(接待)交際費の勘定科目の名称の違いにかかわらず、これらは通常、販管費として処理されますので、費目の相違があっても基本的に損益に与える影響は変わりません。
しかし、費目が異なると、過年度からの推移を比較する際の比較可能性に影響します。そのため、まったく現象が変わらないのに、気まぐれでこれまで販売促進費として処理したものを、ある時から広告宣伝費として処理しないように、企業のポリシーを定めて勘定科目や経理処理の体系化、統一化を図るとよいでしょう(「4.実務上の留意点」を参照)。
(2) 販売促進費のケーススタディ
【見本品の購入】 卸売業のA社は、取引先に新商品を紹介するために、見本品として1個当たり2,500円(税抜)で300個、合計82万5,000円(消費税7万5,000円を含む)を購入した。 |
本ケースは、前頁の表に示したような狭義の販売促進費の代表的な取引の1つです。
本ケースに示すような「販売促進等のために得意先等に配布される試供品、試作品等」は消費税法上の課税仕入れに該当しますので、仕入税額控除の対象となります(消費税法基本通達11―2―14)。
また、交際費課税の要否を判断するうえで、「得意先等に対する見本品、試用品の供与に通常要する費用」は交際費等に含まれないと解されています(租税特別措置法関係通達61の4⑴―9)。
そのうえで、実務上、販売促進費か広告宣伝費かについては、対象者や取引の態様に応じ、各社のポリシーに従って経理処理をすることになります。
4.実務上の留意点
(1) 取引と勘定科目の紐づけ
販売促進費は、対象とする取引の範囲によって広義にも狭義にも捉えられる費目です。柔軟性が高い費目ゆえに、範囲が曖昧になりやすい側面があります。特に広告宣伝費と混同されやすく、所得計算や税額に影響する税務処理上は交際費等との違いを明らかにする必要性が高いといえます。
販売促進費を含めた損益計算書上の販管費の特性に応じて、取引と勘定科目の紐づけを的確に行うために、たとえば、「経理規程」などの規程類や、「勘定科目一覧表」「勘定科目マニュアル」「勘定科目取扱要領」といった規程の下位に位置づけられるルールを策定し、勘定科目を統一化、体系化することが考えられます。
そうすれば、各社の実情に応じた勘定科目の定義づけが可能になり、属人的なミスを防ぎ、経理業務の効率化にもつながります。会計ソフトが備えるノウハウを最大限に活用するのもよいでしょう。
(2) コストベネフィット
販売促進費に関する活動を行うと、通常、社外に金銭が流出します。コストを上回るベネフィットを得なければ、損益計算書にマイナスのインパクトを与えるので、常にコストベネフィットの感覚に基づく販売促進活動が求められます。
販売促進費は特定の取引先等を相手に支出される費目ですので、広告宣伝費と比べれば相対的に効果測定がしやすいはずです。そして、販売促進費は通常、変動費としてカウントされるので、売上獲得に応じた安定した利益率の確保、売上高から変動費を差し引いた貢献利益(または限界利益)水準、CVP分析による損益分岐点売上高といったように、管理会計をフル活用してコストコントロールを行いながら利益成長を目指すことも期待されます。
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