Netpress 第2432号 「オヤカク」を攻略する 保護者向けパンフレットの 作成方法と留意点
1.新卒採用で企業が学生に内定を出すにあたり、保護者の確認を取る「オヤカク」の重要性が高まっています。
2.そこで、保護者向けのパンフレット(会社案内)の作成方法と留意点について解説します。
1.なぜ、オヤカクが必要なのか
学生の保護者(親)は、学生本人のキャリア選択に大きな影響を与える存在です。採用側においても、近年の候補者フォローの基本戦略として、「本人の意思決定に大きな影響を与えている人を探り、その人が気にしているネック(不安)を解消しないと、学生は内定承諾をしてくれない」といわれています。
つまり、入社の意思決定は多くの場合、本人だけの問題ではないということです。特に新卒採用では、「親を制するものは子を制す」ともいわれており、いまや親へのアプローチは必須ともいえます。
昨今では、ブラック企業に対する警戒や職場のハラスメント問題への意識などが高まり、「リベラル」「フェア」「ダイバーシティ」といった価値観が定着しています。
そのなかで、わが子にできるだけ公正かつ安心・安全な職場で働いてもらいたいと願うのが親心でしょう。
また、時代を問わず共通することですが、基本的に親は子に対して、本人よりも保守的です。これはもちろん、自分にとって子が大切な存在だからです。
となると、学生本人が「自らの成長が期待できるかどうか」を決め手に就職先を選んだとしても、親が「休みはきちんと取得できるか」「残業は多くないか」「給与は安定しているのか」といった点を重視している場合、親は子の選択に反対する恐れがあります。
こういった場合、学生本人に刺さるフォロートーク(当社では、どれだけ、どのように成長できるか等)に加えて、親に有効な情報提供をすることも必要となります(年間休日数、平均残業時間、報酬制度の実態等)。
また、中小企業は一般的に知名度が低いため、保護者が安心して子を送り出せるように、企業の信頼性や働き方の魅力をわかりやすく伝えることが求められます。
こうした観点からも、オヤカク(親への確認)の重要性が高まっているといえるのです。
2. 保護者向けパンフレットの効果
オヤカクの具体的な方法には、電話確認、個別面談、親向けオリエンテーション等、さまざまなものがあります。
採用担当者からすると、本気で採用したい学生であれば、すぐにその親を直接説得したいと考えるのが本音でしょう。
しかし親の立場から考えると、子がいったいどのような会社に応募したのかもわからない状態で、採用担当者と連絡を取り合おうとは思わないはずです。
逆にいえば、安心材料として自社の情報を事前に提供することで、具体的なオヤカクを実施しやすくなります。
そこで、オヤカクの前段階として、最初に実施しておくべき非常に効果的なアプローチがあります。それが、説明資料としての保護者向けパンフレットを作成し、学生から親に渡してもらう(もしくは郵送する)というものです。
3. パンフレット作成の留意点
まず、パンフレットの分量は、確認に負担が掛からず、それでいて簡潔すぎないように、だいたい10ページ前後を目安にするとよいでしょう。提供方法は、基本的には印刷して手渡しできるかたちにします。その際も、きちんと製本する、光沢紙を使うなどすれば、資料としての重要性も演出できます。内容面では、会社概要(事業内容、従業員数、資本金、設立年、代表者の経歴など)といった基本的な情報は必ず記載するようにします。
そのうえで、重点的に紙面を割くべき項目は、大きく次の4つに分かれます。
(1) 事業や仕事の魅力
大前提として、1日の仕事の流れやビジネスモデルを説明するだけで終わってはいけません。
具体的な仕事やお金の流れをイラストなどでわかりやすく伝えつつ、その仕事が果たす社会的使命・意義についても言及しましょう。社会全体に対する貢献度、SDGsなどの環境や持続的な社会発展に対する貢献度を示して訴求するのもよいかもしれません。我が子がその仕事を担うことが、親の誇りや喜びにもつながるからです。
(2) 組織文化の魅力
組織文化の魅力は、「風通しがよい社風」「新しいことに挑戦できる文化」「フラットにコミュニケーションを取れる職場」といった曖昧な表現はNGです。できるだけ社内の象徴的な事例を通じて伝えてください。
これにより、社内の雰囲気の解像度が上がり、親は我が子が働く姿をイメージしやすくなります。
(3)働き方・キャリアパス・人事制度の詳細
定量的な実績と具体的な事例で伝えるのがポイントです。たとえば、「育休復帰率は98.5%」「新卒5年目従業員の年収は550万円」「課長職の平均年齢は38.5歳」といったように、実績と数字で語ることが重要です。
(4) 親が抱きやすい不安とカウンタートーク
親の立場を考えたとき、どのような不安を抱くのかを想像することが大切です。従業員のなかには、就活生の親と同世代の人もいるでしょうから、社内でアンケートを取ってもよいかもしれません。
パンフレット上では、見やすいようにFAQ形式で示すとよいでしょう。実際の会話を想定したFAQなので、平易な言葉で表現しても問題ありません。
4.パンフレットを親の手元に届けるタイミング
パンフレットを親の手元に届けるタイミングは、内定後ではなく、最終面接の手前あたりからがよいでしょう。
そもそも、内定を出してから学生本人やその親を口説き始めるのでは遅いのです。内定を出した後に、「実は、親が反対していまして…」と言われては、どんな返しをしても“時すでに遅し”です。
それを踏まえると、オヤカクを始める(パンフレットを親元に届ける)ベストなタイミングは、選考プロセス中に学生と一定の信頼関係を築くことができ、学生の志望度が高まっている段階です。
最終面接にまで選考が進んでいる企業であれば、学生本人も志望度が相対的に高まっているはずなので、親に自然と会社の話をしたり、パンフレットを渡したりもしやすくなります。
そこで、学生に「就活についてご両親には相談していますか?」「ご両親には弊社のことを話しましたか?」などと尋ねてみてください。ここで「御社のことは何も話していません」と言われたら、志望度がまだ低い状態ともいえますので、「では一度、お話ししてみてください」と、パンフレットを渡しながらお願いしてみましょう。
企業側の丁寧なオヤカクは、内定辞退率を低下させるとともに、学生の入社の決断にあたって、親による大きな後押しにもつながる可能性があります。本稿を参考に、オヤカクに取り組んでみてください。
日本実業出版社のウェブサイトはこちら https://www.njg.co.jp/
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