Netpress 第2430号 決算書に親しむ/シリーズ③ 決算書の活用①~事業活動のPDCA~

Point
1.事業の実施による利益の獲得は、事業会社の究極の存在意義です。
2.利益の根源といえる売上総利益獲得のための事業活動の管理を、「営業循環」の考え方に沿ってみていきます。


SMBCコンサルティング株式会社
ソリューション開発部
経営相談グループ
中村 哲也


 売上総利益(粗利益)は、事業活動がもたらす第一義的な利益です。

 事業の実施に必要な諸資源(事業設備やシステム、人材、水光熱や通信などのサービス)の調達に要する費用や、事業資金の調達費用(代表的には支払利息)などの事業費用をカバーしたうえで、最終的な計画利益を稼ぎ出すべき、根源的な利益なのです。

 今回は、そんな売上総利益を生み出す事業活動の管理(PDCA)について、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)の勘定科目を使用した、「営業循環」の考え方に沿ってみていきます。


1. 営業循環とは

 営業循環とは、事業の元手である資金を投下して事業活動や財務活動を展開した後、利益(売上総利益)を伴って回収するまでの過程(循環)を、資産の形態の変遷と負債の発生/解消で捉えていく考え方です。回収された資金は次期の投下資金の原資となって、さらに「循環」していきます。


 下図は商業(卸売・小売)の営業循環図です。売上総利益は「売上高-仕入れ」※です。

 ※正確には「当期仕入高+期首商品残高-期末商品残高」で算定される、当期売上に見合う仕入額である「売上原価」を、売上高から差し引いて算定します。


  • 商品を仕入れてから販売するまでの在庫期間では、資金は商品に形態を変えて固定される=使えなくなるので、その間の仕入れのための資金が必要になります。
    必要資金額=商品残高(A)は、月間仕入高×在庫期間(月数)です。
  • 商品が売れたとしても掛売りの場合は、売掛金を回収するまで資金は商品から売掛債権に形態を変えて固定され続けます。
    売掛債権残高は月間売上額×売掛期間(月数)ですが、これには売上総利益が含まれるため、固定化資金額(必要資金額)(B)は月間売上高×(1-売上総利益率)×売掛期間(月数)になります。
    なお、「月間売上高×(1-売上総利益率)」は月間仕入高です。
  • 逆に掛けで仕入れた場合、買掛期間の間は買掛債務の形で投下資金の支払いが猶予されますので、買掛債務残高(C)=月間仕入高×買掛期間(月数)の資金余裕が得られると考えます。
  • 上記(A)+(B)-(C)=月間仕入高×(在庫月数+売掛月数-買掛月数)が事業活動に必要な資金(運転資金)で、在庫期間と売掛期間が長いと、あるいは買掛期間が短いと、運転資金は増加します。


2. 事業活動計画のPDCA

(1) PLAN

 当期の事業戦略や利益計画、費用計画などから当期の売上高や売上総利益額の予想値(目標値)が策定され、仕入先や販売先の動向なども踏まえて在庫期間、売掛期間、買掛期間の期中予想値を想定します。これにより、営業循環上の各勘定科目※の予想値が出揃います。

※売上高、売上総利益…P/L項目

 商品(在庫)、売掛債権、買掛債務、運転資金…B/S項目


(2) DO

 予想値を目標に事業を実施します。


(3) CHECK

 実施の結果としてB/S、P/Lの実績値が判明したら、予想値と比較して差異の発生原因を分析・評価し(予実差異分析)、浮かび上がった問題点に対する対応策を検討/策定します。

 たとえば、売上高が予想比未達の場合を考えてみます。

 同時に商品(在庫)が予想比過大なら、仕入れた商品が売れず滞貨している状態が考えられ、対応策は、顧客の購買動機や競合の動向の調査と対策の策定、マーケティングの4P(商品の品揃え、価格、販売方法、広告宣伝)の見直し、新規顧客開拓などでしょう。

 売上高未達で買掛債務が過少なら、仕入れの不調による品不足が考えられ、仕入れ先との交渉強化や新たな仕入れルート開拓などが対応策の候補になります。


 次に、売掛債権過大の場合はどうでしょう。

 売上高も同様に伸びていれば、予想以上の業績伸長との「うれしい誤算」もあり得ますが、そうでない場合は、諸々の事情による売掛期間の高止まりや長期化が考えられます。

 原因を調査して対応策を講じないと、運転資金が高止まりすることで借入れ利息が嵩み、収益が圧迫されることもあります。


 それから、不良債権も要チェックです。高額の回収遅延売掛債権があれば早急に回収方法を交渉し状況をフォロー、必要に応じて担保・保証人交渉も行い、貸倒れ回避に努めます。また、再発防止のための与信管理強化策も検討するべきでしょう。


 このように、異常値の原因分析には他の計数も睨んだ複合的な視点が必要なことと、異常値はB/S、P/Lのさまざまな箇所に影響を及ぼす可能性があることに留意しましょう。


(4) ACTION

 予実差異分析に基づく対応策を踏まえて、次期計画を策定し、実施していきます。


◎協力/日本実業出版社
日本実業出版社のウェブサイトはこちら 
https://www.njg.co.jp/



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