Netpress 第2413号 改めて確認しておきたい 労働条件明示ルールの変更と必要な対策

Point
1.2024年4月1日から、労働契約締結時の明示事項が追加されました。
2.有期契約労働者については、無期転換申込機会の明示が必要となり、無期雇用転換権の行使が大幅に増加することが想定されます。
3.定年再雇用で有期雇用契約となった者についても、原則として無期雇用転換権は発生することとなるため、無期雇用転換権の行使に対する対策・対応が必要となります。


社会保険労務士法人
NACマネジメント研究所
特定社会保険労務士
中小企業診断士・行政書士
小林 弘和



労働基準法施行規則等の改正により、2024年4月から労働条件明示のルールが変更され、労働契約の締結・更新の際に労働条件として明示すべき事項が追加されています。

以下では、今回の法改正において新たに追加された明示事項について解説します。

1.すべての労働者(無期・有期契約労働者とも)に対する明示事項

労働契約の締結に際して、これまでは「雇入れの直後」の就業場所・業務の内容を明示すれば問題ないものとされていました。

今回の改正により、すべての労働契約の締結時と有期労働契約の更新のタイミングごとに、「就業場所・業務の変更の範囲」を明示することが必要となり、将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の変更の範囲を明示しなければならないことになりました。


就業場所・業務の変更の範囲を明示することによって、職種転換や異動命令に伴うトラブルを防ぐことができるようになるものと思われます。

一方で、変更の範囲に含まれていない職種転換や異動命令を出せなくなると考えられることから、記載内容を限定的にしてしまうと、将来問題が発生するリスクがあります。そのため、「会社の定める事業所」や「会社の定める業務」などと幅広く明示することが望ましいでしょう。


なお、無期契約の正社員等については、労働条件の明示は通常雇用契約締結時(入社時)のみとなりますが、契約社員、パート社員、嘱託社員等で有期労働契約を締結している労働者(有期契約労働者)については、契約更新ごとの明示が必要となることにも留意しなければなりません。


【労働条件通知書の記載例】

就業の場所
(雇入れ直後) ○○営業所          (変更の範囲) 会社の定める営業所
従事すべき業務の内容
(雇入れ直後) 営業所の経理業務    (変更の範囲) 会社の定める業務



2.有期契約労働者に対する明示事項

有期契約労働者については、すべての労働者に対する明示事項に加えて、以下の事項を明示しなければならないことになりました。


(1) 契約更新の上限

有期労働契約の締結と更新のタイミングごとに、更新上限(有期労働契約の通算期間または更新回数の上限)の有無とその内容の明示が必要になりました。

また、最初の契約締結より後に、更新上限を新たに設ける場合や最初の契約締結の際に設けていた更新上限を短縮する場合には、その理由をあらかじめ説明することが必要となります。

これにより、有期労働契約で更新上限を設けていない場合には、労働者の契約更新期待権が認められやすくなるでしょう。その結果、契約を更新せず雇い止めした場合に「実質的には解雇に該当するもの」とされるリスクが大きくなり、雇い止めを行うハードルが一層高くなるものと考えられます。

したがって、有期契約労働者については、次のような対応が必要になるでしょう。


① 雇入れ時に、たとえば1年から3年程度の原則の上限を定めておく

② その間にしっかりと人物判断を行う

③ 問題がなければ無期雇用化を図る


(2)無期転換申込機会の明示

有期労働契約が通算5年を超え、無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨を明示することが必要となりました。

留意点としては、初めて無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結時だけでなく、その後も有期労働契約を更新する場合は、更新のたびに明示が必要となることです。

これまで、無期転換申込権については、労働者が申し込みをした場合に対応すれば足りましたが、会社側から無期転換を申し込むことができる旨を明示しなければならなくなったことで、無期雇用への転換を希望する有期契約労働者が大幅に増加するものと考えられます。

なお、労働者が無期雇用への転換を申し込んだ場合、会社側はその申し込みを拒むことはできません。


(3) 無期転換後の労働条件の明示

上記の無期転換申込機会の明示と同様に、無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件の明示が必要となります。


(4) 第二種計画認定の確認等の必要な対策

原則として、定年後に引き続き雇用される有期契約労働者についても、無期転換ルールが適用されます。

ただし、定年後に引き続き雇用される有期契約労働者の無期転換ルールの特例として、適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定(第二種計画認定)を受けた場合には、その事業主の下で定年後に引き続き雇用される期間は、無期転換申込権が発生しないこととすることができます。

65歳以降も継続勤務する定年再雇用の有期契約労働者が無期転換申込権を行使することを避けるのであれば、改めて、第二種計画の認定を受けているか否かの確認が必要となります。

なお、第二種計画認定の効力は、無期労働契約で定年を迎えた労働者を定年後に継続雇用する場合にだけ及ぶため、有期労働契約で定年年齢を迎えた労働者や他社で定年を迎えた労働者は対象となりません。

そのため、就業規則に60歳を超えてから無期転換した者の第二定年年齢の規定を設けることや、無期雇用転換後は休職制度の対象とすることなど、就業規則の改定等の対応が必要となります。




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