Netpress 第2407号 受け入れる?断る? 得意先からの支払条件の変更要請にどう対応すべきか
1.支払条件の変更要請に対しては、正当な要請なのか危険兆候なのか、その見極めは難しいものがあります。
2.そこで、得意先から支払条件の変更を求められたときに確認しておきたい事項、対策などを紹介します。
中小企業診断士事務所
StrateCutions代表
中小企業診断士・MBA
落藤 伸夫
得意先から急に支払条件の変更を求められると、思わず身構えてしまう担当者は多いのではないでしょうか。一方で、正当な理由からの条件変更の申込みを断ってしまうと、大事な得意先を失う可能性もあります。
過大なリスクを負うことなく、適切に支払条件の変更要請に対応する方法、留意点を確認してみましょう。
1.支払条件の変更要請で確認すべきこと
(1)ヒアリング等による確認
まず、支払条件の変更を求めてきた相手方(以下「変更依頼社」とします)に、直接、その理由等を確認します。
①変更内容の確認
支払日程(締日、支払日等)なのか、支払手段(銀行振込み、小切手等)なのかなど、何をどう変更しようとしているのかを漏れなく確認します。加えて、その変更が継続的なのか一時的なのかといったことも確認しましょう。
②変更理由
変更依頼社の主要な取引先からの支払条件変更が波及してきた場合もあれば、変更依頼社自身の都合による場合もあります。売上・利益の減少や資金調達難、取引先の倒産等が理由ではないかもしっかりと確認しましょう。
③他社との現況
変更依頼が自社に対してだけなのか、全取引先を対象とするのか、ある企業群を対象とするのかについて確認します。また、他社が変更要請にどのように対応したのか、その受入れ状況も把握しましょう。
(2)独自の調査・確認
変更依頼社が不利な事実を隠すことや嘘をつくことも大いに考えられます。独自情報による調査・確認が大切です。
①外部情報の利用
企業概要、売上動向、資産状況、決算状況、金融機関との取引状況など、可能な限り情報を集めます。会社や不動産に係る登記簿謄本で、経営実態(経営者の変更等)や、債務状況(抵当・根抵当等)を察知できます。
信用調査会社と契約していれば、調査を依頼しましょう。契約していなくても、インターネット等を通して一部情報が利用できる場合があります。加えて、SNSなどで悪評が立っていないかもチェックしましょう。
②内部情報の利用
営業部門が持つ内部情報も利用しましょう。具体的には、変更依頼社の仕入先や販売先とのトラブル、金融機関との取引状況などについて、営業部門が把握している情報です。タイムリーな情報収集を心掛けてください。
2.支払条件変更への対応方法・注意点
ヒアリングや独自の調査で得た変更依頼社の信用状態によって、対応方法は変わってきます。
(1)変更依頼社の信用状態が悪化している場合
業績不振や取引先の倒産等で、変更依頼社の信用状態が悪化している懸念が高い場合、自社の損害を最小限に抑える方向で取引を制限します。すでに商品を引渡し済みの取引は約定どおりとしつつ、支払条件の変更は、取引を限定したうえで条件を付けることによって折り合えるかもしれません。
今後の取引は、与信額に上限を設ける、リスクを上乗せした価格とするなどの方法で制限しましょう。また、売掛金が残っている間は、営業部門に対して状況観察を念入りに行うよう依頼しておきます。
(2)変更依頼社の信用状態に問題がない場合
変更依頼社の「システムの都合で支払方法や支払日を一律にしたい」といった事務上の理由や、一過性の資金繰り改善等が理由で、信用状態に問題がない場合には、原則として条件の変更を受け入れることになるでしょう。
ただし、その場合でも無条件に受け入れるのではなく、ときには譲歩や配慮を引き出す交渉を心掛けましょう。
(3)変更依頼社の信用状態を懸念すべき場合
現金あるいは比較的短期間の掛取引から、手形への変更が申し込まれた場合は、その理由を確認します。
手形サイトが延長される場合、それも業界で一般的なサイトよりも長期間であれば、避けるよう交渉しましょう。状況によっては倒産予備軍として取引制限、債権回収に移る必要があるかもしれません。
手形ジャンプは、変更依頼社の信用状態に問題が生じた可能性が高いと考えられ、リスクが高いことから、なるべく避ける必要があります。
3.交渉のスタンス
交渉は、イエスかノーかだけで進めるものではありません。多彩な交渉のスタンスを考慮しておくことで、有利な条件を引き出せる可能性があります。
(1)無条件で受け入れる(自社が不利を容認すると意識付けて受け入れる)
信用状態に問題がない事務的な理由等であれば、基本的に変更を受け入れることになります。ただし、変更によって資金調達が必要になるなど、自社に何らかの不利益が生じる場合には、自社に不利な条件ながらも容認する状況を変更依頼社に意識付け、相手に対する「貸し」にしておきましょう。
(2)調整して受け入れる
支払期日延長の場合、細かい調整で悪影響が軽減される場合があります。たとえば15日払いを月末払いとするよう依頼された場合、25日払いとすることで自社の負担が軽減されるかもしれません。
(3)交換条件を付けて受け入れる
たとえば、取引量の拡大、サービスの有料化(無料で行っていた配送の有料化など)、価格の上乗せなど、何らかの交換条件を付けて変更を受け入れることも考えられます。
(4)拒絶(再度の交渉が前提)
最終的には合意に至らなければならない場合でも、有利な条件を引き出すために一旦は拒絶する方法があります。
(5)拒絶(まったく受け入れない)
変更依頼社の信用状態が悪化している場合等には、拒絶して債権の早期回収を目指します。自社の不利が著しく、見返りも見込めないため、取引解消もやむを得ないと判断する場合も同様です。
この場合も、ビジネスライクな節度ある交渉を心掛けましょう。そうしないと、万が一、相手方の状況が改善した場合に取引を失う可能性があるほか、不適切な言動があったなどと相手方から当局に訴えられる、インターネット上で悪評を拡散されてしまう、といったおそれがあるためです。
◎協力/日本実業出版社
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