Netpress 第2398号 どうすればいい? 不正・横領が判明したときの会社の対応と税務処理

Point
1.従業員の不正や横領が判明すると、会社は直接の損害に加えて追徴課税まで負うことになりかねません。
2.ここでは、従業員による典型的な横領の事例を踏まえて、会社の対応と税務処理の方法を確認します。


植木税務会計事務所
税理士 植木 達也


多くの会社にとって、特に会社で法人税務に携わる担当者にとっては、従業員による不正・横領は決して対岸の火事ではありません。そのような事例が自社に起こった場合に、どうしたらよいのかを整理しておくことは有用です。


「ある会社の従業員が、架空外注費を計上して会社の資金を着服していた」という典型的な横領の事例をもとに、税務調査によって発覚した場合とそうではない場合に分けて、法人税務の担当者が知っておくべき事項を解説します。




◆総合建設会社X社(3月決算)の従業員であるAは、下請業者Y(代表者は自己の親族名義)に外注工事を発注したように装い、工事請負代金としてY名義の請求書を作成してX社に交付し、Y名義の口座に請求金額を振り込ませていた。
◆X社がY名義の口座に振り込んだ金額は、2020年3月期が500万円、2021年3月期が500万円、2022年3月期が500万円で、X社はすべて外注費として処理していた。
◆Aは、Y名義の口座に振り込まれた金員をすべて引き出し、個人の遊興費に充てていた。
◆2023年7月にX社に対する税務調査が行われた結果、Yに対する外注費は実態のない架空のものであることが発覚した。

1.税務調査によって従業員の横領が発覚した場合

税務調査では、少しでも不自然な外注費の支払いがあれば、その支払いは「架空外注費」であるとの前提で、調査官は確認を行うことになります。支払先への徹底的な反面調査や振込先の口座の動きまで調べて、その支払いが架空のものか正当なものかを判断するのです。


まず、X社が外注費として処理していた2020年3月期から2022年3月期までのYへの支払い1,500万円は、実態のない架空のものなので、各期で外注費500万円が否認されます。そして従業員Aに、Yに外注費として処理した金員を横領されているので、横領損失が各期で同額発生します。この時点では、費用のマイナスとプラスが同額発生するので、所得金額に変わりはありません。


しかしながら、X社はAに横領された金員総額1,500万円を返済してもらう権利(損害賠償請求権)を有することになるので、その権利を収入として計上する必要が出てきます。


以上から各期で500万円の増差所得が発生し、消費税や地方税なども合わせると、かなりの追徴税額が生じる結果となります。X社は従業員Aの不正によって損害を被ったうえに、さらに多額の追徴課税を負うことになるのです。


従業員の横領が税務調査で発覚した場合には、もうひとつ重要な問題があります。調査官は、従業員による架空外注費の計上を会社自身が行った不正経理であり「重加算税」の対象になる、と主張してくるのです。重加算税は、仮装隠ぺい行為を伴った悪質な過少申告に対するペナルティで、追徴税額の35~40%とかなりの負担となります。重加算税の対象になると言われても、会社側としてはなかなか納得できないところでしょう。会社ぐるみで不正行為をしていたわけではなく、会社はむしろ横領によって損害を受けた被害者と考えるからです。


しかし、調査官はそのようなことにはおかまいなく、「従業員のした不正行為は当然に会社の責任」と主張してきます。調査官が指摘するとおり、従業員の行為がすべて会社の行為と認定されてしまうのかというと、実際にはそのようなことはありません。地位・役職などの会社と従業員との関係性や、不正経理の内容などを総合的に勘案したうえで、その従業員の行為が会社の行為と同視できるかが決め手となります。


従業員の不正行為が法人の行為と同視されるかについての判断ポイントと具体例は次のとおりです。


判断ポイント
具体例
① 従業員に業務執行のための強い地位や権限が与えられているか
・経理を1人で任されている
・部長として強い決裁権限を持っている
② 従業員が行った不正行為の態様はどのようなものであったか
・不正行為が長期に及んでいた
・金額が大きい
③ その従業員に対する管理・監督をきちんと行っていたか
・現金出納帳などを確認すれば容易に把握できた
・1人の担当者にすべてを任せていた


税務調査で従業員の不正行為が発覚した場合、調査官はまず①の「従業員の地位・権限」に注目します。①に該当しない場合には、必ずといってよいほど③の「会社の監督不行届き」を持ち出してきます。


しかしながら、調査を受ける会社の担当者の立場からすれば、単に監督不行届きというだけではなく、その従業員の「地位・権限」「行為態様」なども考慮して欲しいところです。会社としては、判断ポイントの①~③を総合的に判断すべき、という点に重きをおいて反論していきましょう。

2.従業員の横領が税務調査の前に発覚した場合

横領等の不正は、税務調査によって発覚するものばかりではありません。上司や同僚による確認、社内監査など会社のチェック機能が正常に働いたことによって、従業員の不正が税務調査の前に発覚した場合はどうなるのでしょうか。


基本的に、修正処理自体については、税務調査によって発覚した場合と何ら異なる点はありません。内部調査によって被害金額を確定したら、税務調査による場合と同様の内容で自主的に修正申告を行うことになります。


しかし、この自主的な修正申告には、税務調査で問題を指摘されてから行う修正申告とは大きく異なる点があります。それは、税務調査に基づく修正申告には加算税が課せられるのに対して、自主的な修正申告の場合には加算税が課せられないという点です。修正申告の要因となった事実が仮装隠ぺいに基づくものであったとしても、自主的な修正申告である限り加算税は課せられません。従業員の不正が発覚した場合には、直ちに関与税理士に相談するなどして、会社に税務調査が入る前に速やかに修正申告を行いましょう。


従業員による横領等の不正事案が発覚した際、多くの事例に共通しているのは、長期間、1人の従業員に経理業務等を任せきりにしていたという点です。たとえば、経理業務等を複数人でチェックするだけでも内部牽制が働き、不正は起こりにくくなります。人手が足りない中小企業においては、社長と担当者の2人でもよいのです。そもそも横領等を起こさせないような社内環境づくりが最も重要です。自社は大丈夫か、この機会に業務のあり方を見直してみましょう。



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