Netpress 第2385号 被災リスクに備えよう サプライヤーのBCP取組を支援する際のポイント

Point
1.サプライチェーン強靭化対策のひとつとして、各サプライヤーのBCMレベルの向上支援も重要です。
2.この支援にあたっては、まずは取組レベルを「0から1」にする「BCP策定支援」の実施を推奨します。
3.そのうえで、これからは、あわせて取組レベルを「1から10」にする「BCP育成支援」の実施も推奨します。この支援は、「短期的かつ均一的」な対応が難しい特性がありますが、支援範囲を絞り込んだり、システムを活用したりする方策が有効です。


МS&ADインターリスク総研
主席コンサルタント
政策研究大学院大学特別講師
山口 修

1.はじめに

大地震、水害、新型コロナウイルス等の発生でサプライチェーンが途絶した経験を受け、企業にもサプライチェーン強靭化対策の重要性は十分に浸透していると思われます。


企業における災害等を想定したサプライチェーン強靭化対策としては、完成品在庫等の積み増し、調達先の複数化、サプライチェーンの「見える化」等、さまざまな対策があります。


本稿では、その中でも、サプライチェーンを構成する各サプライヤーのBCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)レベルの向上支援にスポットを当てて、その推進ポイント等を整理します。

2.BCP策定支援

各サプライヤーのBCMレベルの向上支援にあたっては、まずは、サプライヤーのBCM取組を「0から1」にすることを目的として、たとえば、「連絡先リスト」の作成や、緊急時の「社長の代行者」の整理等、簡単なプランをできる範囲で策定してもらう「BCP策定支援」からスタートすることを推奨します。


BCMゼロの状態から脱却することの有効性は、過去の災害でも確認されており、最優先で推進すべき支援と位置づけられます。


この支援は、サプライヤー全体に自治体等が公表しているプランの「雛形」を提供し各自ブランクを埋めてもらう等、「短期的かつ均一的」な対応で一定の効果を出すことが可能である点を特徴としています。


もっとも、サプライヤーの「数が多い」という特性を踏まえると、すべてのサプライヤーに均一の支援を実施するのは現実的ではありません。支援にかかる負荷に差をつける対応等の工夫が必要です。


この点、たとえば、「サプライヤーとの付き合いの優位性(強さ)」と、「調達部材等の代替性」等の観点からサプライヤーに優先度をつけて、支援のあり方や負荷に差を設ける対応が参考になります。

3.BCP育成支援

次に、各サプライヤーのBCM取組を「1から10」にすることを目的として、前記プランの策定に留まらず、プランの実効性を担保するための「BCP育成支援」まで実施することを推奨します。


ここでは、たとえば、プランの策定や見直しの「前工程」として実施する「自社の強み・弱みや資源の脆弱性、費用対効果分析等を踏まえた戦略オプションや事前対策の整理」、また、プラン策定や見直しの「後工程」として実施する「事前対策の着実な実装や、プランを組織へ周知・定着させるための教育・訓練の実施」までを支援します。


東日本大震災の際、実際に「戦略オプションの充実」、「事前対策の実装」、「訓練の実施」等の取組が役に立った事例が多数確認できていることから、このようなBCP育成取組への支援は、先の「BCP策定支援」に加えて優先的に推進すべき支援と位置づけられます(下図参照)。




ただ、この支援は、「BCP策定支援」とは異なり、「雛形」を提供し各自ブランクを埋めてもらう等、「短期的かつ均一的」な対応で効果を出すことはできません。


たとえば、育成取組のひとつとして「事前対策の実装」がありますが、「耐震補強」、「非常用電源確保」、「完成品在庫の積み増し」、「他社との連携推進」等、実装すべき事前対策は、サプライヤーの業態、立地、保有する経営資源等を考慮した個別の取組となります。


また、その取組は、各サプライヤーが、事前調査、各種調整、資金確保等を経て、限られた経営資源の中で、優先順位をつけて時間をかけて実施するものです。さらに、支援にあたっては、サプライヤーの「数が多い」という特性も考慮しなければなりません。


それでは、どう支援すればよいのかというと、大きく「支援対象や内容を絞り込む」方策か、「システムを使って自走化を促す」方策が考えられます。


前者については、たとえば、日頃から深い関係があり調達部材の代替が難しいサプライヤーに限定して、特定の調達部材に関連する設備の事前対策の実装状況のみを管理・支援する等の対応が想定されます。


一方、後者については、たとえば、戦略構築や事前対策、教育訓練の実施等、その内容理解や継続実施にかかる膨大な手間を解消できるシステムを各サプライヤーに導入してもらい、あわせてサプライヤーの自走化の進捗状況も管理する対応が想定されます。


なお、MS&ADインターリスク総研では、後者に関連するシステム「レジリード」をリリースしましたので、参考にしていただければ幸いです(https://www.irric.co.jp/lp/Resilead/index.php)。

4.おわりに

本稿のテーマである「サプライヤーにおけるBCM取組に対する支援」は、これまでは「BCP策定支援」に集中していたと認識しています。


もちろん、その支援の重要性に疑義はありませんが、本稿では、あえて「BCP育成支援」の重要性にもスポットを当てて、支援のポイントを整理してきました。


今後、これまでの「BCP策定支援」に加えて、「BCP育成支援」を検討される際には、本稿を参考にしてください。



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