Netpress 第2374号 高齢化のリスクに備える 中小企業の「社長の終活」の進め方
1.株式の大半を持っていたり、個人資産を担保に金融機関から融資を受けている中小企業の社長が、突然亡くなることがあれば、会社は深刻な影響を被ります。
2.ここでは、「社長の終活」として、中小企業が社長の健康リスクにどのように備えればよいかを解説します。
鳥飼総合法律事務所
パートナー弁護士 奈良正哉/山田重則
弁護士 橋本充人/横地未央
1.社長に必要な3つの終活
社長の高齢化による死亡・認知症等のリスクを回避するために行う活動が「社長の終活」です。
このとき、社長は、(1)個人生活者、(2)経営者、(3)株主として、終活を考える必要があります。
(1)個人生活者としての終活
個人生活者としての終活は、一般の高齢者と変わるところはありません。多数の終活本、終活記事等があるので、それらを参考に相続などの準備をすればよいことになります。
(2)経営者としての終活
社長が亡くなった場合、会社には極めて深刻な問題が残されます。
代表者が社長1人の場合、社長亡き後は、途端に業務に支障が生じます。ただちに新たな代表者を決めなければなりません。しかし、社長以外の取締役がただのお飾り(たとえば、社長の配偶者、後継の意思のない子供など)の場合、社長亡き後にリーダーシップをとる人は不在になります。
後継社長が決まっていなければ、残された取締役で代表を決めなければなりません。長期間後継者が決まらない、あるいは結局決まらないとすれば、会社は廃業に向かうほかないでしょう。
社長が自分一代限りの会社であると考えていたのだとすると、それも本望かもしれません。しかし、自分の手で廃業せず、後任の人にそれを丸投げするのは、残された者の目には、無責任な態度と映るかもしれません。
また、社長が認知症になれば、まともな意思決定ができない、あるいはまったく意思決定ができない事態となります。現任社長が生存しているだけに、かえって後継社長が決まるまで長期間を要することも危惧されます。
家族や後見人は、個人生活者としての社長の面倒は見られても、会社の意思決定の代理はできません。特に、後継者を選ぶことは、今後の会社の将来を託す高度な意思決定であり、後見人ができる仕事ではありません。
(3)株主としての終活
中小企業の社長が亡くなった場合、社長は創業オーナーであり、単独株主、支配株主であることが多いでしょう。その場合、相続により新株主が決定するまで、株主総会を開けない事態も起こり得ます。
社長が認知症になれば、株主としてまともな意思決定ができなくなります。あるいは、まったく意思決定ができません。そうなると、株主総会で新たな取締役を選任できない、という事態も発生します。
2.終活の始めどき・引退のタイミング
(1)社長は自ら進退を決める
社長は、自ら後継社長を指名し、自らの進退を決めるべきです。しっかりしているうちに、冷静な計算に基づいて、後継者の資質はもちろん、権限移譲のやり方、税負担、後継者が途中で気が変わる可能性等も含め、多面的に考慮して決定すべきです。そのためには、進退を宣言する前に、いろいろな準備(終活)が必要でしょう。
後継者候補に、「貸借対照表」や「損益計算書」を見せられるでしょうか。簿外に潜む負債やリスクはないでしょうか。「闇鍋」のような状態では、実の子といえども、後継者候補として手を挙げることはできません。
(2)家族こそが引導を渡す
一般の従業員では、社長に引退を言い出すことはできないでしょう。
そこで、一緒に生活している家族こそが、たとえ社長の機嫌を損ねることになるとしても、引退を強く申し出るべきです。身近で観察していれば、社長の能力の衰えはわかるはずです。
3.社長の終活の進め方
社長も人である以上、病気や死から逃れることはできません。社長が亡くなったり、認知症などで判断能力を失ったりする事態が生じたとしても、会社の事業の継続、承継に大きな影響が及ばないようにしなければなりません。
具体的には、「事業承継により社長から後継者に事業を承継させる」「廃業により事業を終了させる」という2つの対策が考えられます(下図参照)。
■事業承継と廃業のフローチャート
(1)事業承継
事業承継を行う際には、主として3つの承継が問題になります。
1つ目は、代表取締役の地位を後継者に承継させることです。2つ目は、株式を後継者に承継させることです。3つ目は、経営者保証を後継者に承継させるのかどうかです。
事業承継を行う際は、①代表権、②株式、③保証の3つに着目して検討を行うのがポイントです。
(2)廃業
後継者を見つけることができない場合には、廃業も視野に入れる必要があります。
事業を終了させるという点では、廃業と破産は共通です。しかし、資金余力のあるうちに「廃業」を行った場合と、債務超過により「破産」に至った場合では、取引先や従業員、そして社長自身に与える影響がまったく異なります。資金余力のあるうちに会社をたたむのも社長にしかできない決断です。
社長としては、会社は自らの一部であり、経営から離れることに心理的な抵抗があるかもしれません。しかし、事業を上手に後継者に引き継ぐ、取引先等に迷惑をかけずに廃業する、というのも経営者として重要な仕事ではないでしょうか。決断が遅れるほど、社長が亡くなった場合や認知症になった場合の事業や関係者への影響が大きくなります。60歳を過ぎたら、自身の死・認知症等のリスクと向き合い、心身ともに健康なうちに「終活」を考える必要があるでしょう。
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