Netpress 第2369号 大企業に勝てる「戦略」! 中小企業のための「データサイエンス」入門
1.データサイエンスとは、数学やプログラミングなどの理論を活用してデータ分析を行い、有益な洞察を導き出すもので、コスト削減や業務効率化などに幅広く活用することができます。
2.ここでは、中小企業がデータサイエンスの視点を採り入れるためのポイントを解説します。
データサイエンティスト
松本 健太郎
1.「デジタルはわからない」はもったいない!
DXや生成系AIが世間を賑わせている昨今、どのようなビジネス業態であっても、デジタル化は避けては通れません。
筆者は、8年ほど前にモンゴル旅行でゲル(移動式住居)に宿泊したことがあります。およそ近代化されていない建屋でしたが、住民はほぼ全員がスマホをもっていました。また、70歳を超える老父が「便利だから」とスマホを使いこなす姿を見て、デジタルの威力を痛感した記憶があります。
一方、日本企業では「よくわからないから」「お金がかかるから」といった理由で、デジタル化を採り入れないケースも少なくありません。
「データ分析」もそうです。「優秀なデータサイエンティスト(専門家)が必要だから」「ビッグデータが必要だから」「莫大なお金が必要だから」と、敬遠する組織がいまだに多いようです。
データ分析は、大量のリソース(ヒト・モノ・カネ)が必要で、巨大資本をもつ大企業にしか向いていない、と思われがちですが、これは大きな誤解です。
データ分析は、「この通りに進めば、大きな失敗をせずに意思決定を下せる」と言える一連のプロセス(工程)に過ぎません。
筆者は、何百回とデータ分析を試行した結果、「問題を探す」「問いを立てる」「仮説を見つける」「プログラムを処理する」「結論を出す」「意思決定をくだす」という6つのプロセスに辿り着きました(下図参照)。
リソース(ヒト・モノ・カネ)は、あくまで意思決定までの時間を短縮する(前頁の6つのプロセスを早く済ませる)ための材料に過ぎません。したがって、「データ分析は大企業向け」というのは誤った認識です。
むしろ、データ分析を使いこなし、自社の「強み」に育て上げれば、大企業に打ち勝てる戦略になります。
本稿を読んで、データ分析にまつわる誤解を解き、「それじゃあ、やってみようかな」と、気持ちを切り替えていただければ幸いです。
2.「データ」への誤解
データ分析は「プロセス(工程)である」と話すと、決まって「でも、数学は苦手です」「プログラミングもできません」と返されます。データ分析には「優秀なデータサイエンティスト(専門家)が必要」と誤解するのも、プロセスの1つである「処理」にのみ目を向けているからです。
誤解の根底にあるのは、「データ=数字」という認識です。
日本産業規格(JIS)では、データを「情報の表現であって、伝達、解釈または処理に適するように形式化され、再度情報として解釈できるもの」と定義しています。
「データ」と聞くと、どうしても「数字」が浮かびますが、それは誤解です。認識の齟齬をきたさず、伝達、解釈、処理に適した表現の1つが「数字」であるに過ぎません。「言葉」も「映像」も「音楽」も、「データ」なのです。
ただし、日常に溢れているそれらすべてがデータとは言えません。データの定義にも書かれた「情報の表現」であることが必要です。
日本産業規格(JIS)では、情報を「事実、事象、事物、過程、着想などの対象物に関して知り得たことであって、概念を含み、一定の文脈中で特定の意味をもつもの」と定義しています。
たとえば、「400億」だけなら数字ですが、「400億の男」と少し言葉を追加するだけで、特定の意味をもつようになります(詳しくはGoogleを使って検索してみてください)。一定の文脈で特定の意味をもつ対象物の表現が「データ」であり、もっとも利用されている手段の1つが「数字」に過ぎないのです。
3.「問題」に気付くべし
データ分析のプロセス(工程)は「問題」から始まります。何が問題なのか、何を問題とするかで、意思決定の内容も行動も変わります。
たとえば、工場作業向け衣服・関連用品を販売する株式会社ワークマンは、顧客層とは異なる人たちが商品を買ってくれる出来事を「問題」だと捉えて、「なぜ買ってくれるのか?」を繰り返し調べ、「商品を変えずに売る相手を変える」ことで売上を大きく伸ばしました。
また、粘着テープの製造・販売を行うカモ井加工紙株式会社は、実用品である工業用マスキングテープについて、生活を彩り作品を飾るマスキングテープとして利用する消費者を「問題」として捉えました。「なぜ買ってくれるのか?」を繰り返し調べ、「商品をより洗練させて売る相手を変える」という意志決定により、売上を大きく伸ばしました。
起きた出来事に対して、なぜそうなっているのか、何が引き起こしているのかを考えるのが「問題」プロセスです。
たとえば、「売上が2年間横ばいである」という事実に対して、「自社の商品はある特定の消費者にしか選ばれていない」ことを問題だと考える経営者もいれば、「売上が横ばいなのに対策をせずに手をこまねいている」ことを問題だと考える株主もいるでしょう。
「何を問題とするか」は、人間の観察力であり、長年の経験と勘であり、マニュアル化が難しい領域です。
データは「売上が2年間横ばいである」という事実は教えてくれても、「〇〇が問題である」とは教えてくれません。問題を定義するのは人間です。
大企業がどれだけの資本をもとうが、「問題の定義」だけはヒトに依存します。1人の「見方」が、1万人企業を打ち負かすこともできるのです。このことを忘れないようにしてください。
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