Netpress 第2032号 2020年10月から開始! 年末調整の電子化への対応は進んでいますか?

Point
1.ことし10月以降、年末調整手続の電子化(申告書作成等の電子データ処理)が始まりました。
2.電子化のメリットとデメリット、ソフトの互換性の確認など会社に求められる準備・対応を確認します。


税理士 伊藤 千鶴


これまでの年末調整の手続は書面で行われることが多く、たとえば、従業員が生命保険料などの控除証明書のハガキや保険料控除申告書等を会社に提出した後、会社はその書類を確認し、年税額の計算をするなどしていました。年末調整手続の電子化とは、これらの年末調整手続をデータ処理することです。

電子化の手順は、具体的には次のようになります。


① 従業員が、保険会社等から生命保険料などの控除証明書等を電子データで取得する

↓

② 従業員が、年末調整申告書作成用のソフトウェアに住所・氏名等の基礎項目を入力し、①で受領した電子データをインポート(自動入力、控除額の自動計算)して、年末調整申告書の電子データを作成する

↓

③ 従業員が、②の年末調整申告書データと、①の控除証明書等データを会社に提供する

↓

④ 会社が、③で提供された電子データを給与システム等にインポートして年税額を計算する


なお、②の年末調整申告書作成用のソフトウェア(以下、「年調ソフト」といいます)とは、扶養控除等申告書、保険料控除申告書等の年末調整関係書類について、従業員が控除証明書等データを活用して簡便に作成し、会社に提出する電子データまたは書面を作成する機能を持つソフトウェアです。

年調ソフトは、国税庁ホームページにおいて無償で提供されているほか、民間のソフトウェア会社が提供するものを利用することもできます。

1.年末調整手続の電子化のメリット

年末調整手続を電子化することで、従業員と会社には、それぞれ次のようなメリットがあります。

(1) 従業員側の主なメリット

年調ソフトにより、保険料控除申告書等について、手書きによる記入や計算などを省略することができます。

また、書面で提供を受けた控除証明書等を紛失した場合は、保険会社等に再発行を依頼しなければなりませんでしたが、電子データであればその手間が不要になります。

(2) 会社側の主なメリット

従業員の作成した年末調整申告書データを利用することで控除額の検算が不要となり、控除証明書等データを利用した場合には、添付書類等を確認する事務が削減されます。

また、年調ソフトを利用することで記載誤り等が減少し、従業員への問い合わせ事務が減るほか、書類保管のコストも削減することができます。

2.会社に求められる準備・対応

年末調整手続の電子化は、次の①と②を行うことにより、事務の効率化を図るものです。


① 従業員が、控除証明書等を電子データで取得し、それを利用して年末調整申告書データを作成すること

② 会社が、従業員から①の年末調整申告書データと控除証明書等データの提供を受け、これらを利用して年税額等の計算を行うこと


電子化にあたっては、部分的な対応で、一定の効率化を図ることも可能です。たとえば、保険料控除証明書等をハガキで取得するものの、保険料控除申告書は年調ソフトで作成するというケースです。

そのため、年末調整手続のどこまでを電子化して、電子化後の事務手順をどのようにするのかを検討する必要があります。そのうえで、会社に求められる具体的な対応は次のとおりです。

(1) ソフトウェアの選定・給与システム等の改修

前述のとおり、従業員が使用する年調ソフトについては、国税庁から無償で提供されていますが、民間のソフトウェア会社が提供するものを利用することもできます。したがって、どのソフトウェアを利用するかの選定が必要になります。

また、給与システム等を利用している会社は、従業員から提供を受ける年末調整申告書データや控除証明書等データを給与システム等にインポートし、年税額等の計算を行うためのシステムの改修等を行います。

給与システム等は、すでに各会社においてさまざまな機能を持つものが導入されていることから、国税庁からは提供されません。したがって、現在、利用している給与システム等の会社への確認が必要です。

(2) 税務署への承認申請書の提出

年末調整申告書に記載すべき事項について、従業員から電子データにより提供を受ける場合には、所轄税務署に対し、事前に「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、その承認を受ける必要があります。

3.会社から従業員への周知等

年末調整手続の電子化にあたり、従業員に対しては、自社で導入する年調ソフトの使い方や、電子化後の年末調整手続の事務手順の周知を行います。

また、従業員の側でも、保険会社等から控除証明書等データを取得するための事前準備が必要になります。そのため、控除証明書等データの取得方法を周知します。

控除証明書等データの取得については、マイナポータル連携を利用する方法があります。マイナポータルとは、政府が運営するオンラインサービスです。マイナポータル連携を利用しない場合には、保険会社等のホームページ等から取得します。

なお、従業員から年末調整申告書データの提供を受けるにあたって、法令上は、会社として事前に従業員から同意を得る必要はありません。



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