Netpress 第2089号 若手社員が辞めない!リモートワーク下のコミュニケーションと評価のしかけ

Point
1.リモートワーク下で若手社員が辞めてしまうのは、成長実感が損なわれることが理由と考えられます。
2.上司による「認める」コミュニケーションを徹底することで、一人一人の成長実感を確保しましょう。
3.職務等級型の人事制度により、期待する職務・行動・成果を評価基準として示すとさらに効果的です。


セレクションアンドバリエーション株式会社
代表取締役 人事コンサルタント 平康 慶浩


1.なぜ若者はリモートワークで会社を辞めるのか

新卒社員をはじめとする若手社員の離職率が高まっています。その理由は、「リモートワークが増加したためだ」といわれています。


そもそも若手社員の離職はいつの時代にもあることですが、企業が安定していたり成長性が高かったりすれば、自然と離職率は下がっていくものでした。


しかし、リモートワークで辞める社員の声を聞いてみると、これまでの離職理由とは少し異なっていることがわかってきました。会社になじめない状況が続いてしまうことで、自分が以前よりも成長し、周囲に貢献できている、という成長実感が持ちづらくなっていることが本質的な原因です。

2.自宅だけで働いていては社会人という実感がわかない

新卒時点のモチベーションは、どんな調査データを見てもたいてい高いものです。


しかし、いざ入社してみると、リモートワークの状況だと働く場所は住み慣れた自宅ですから、学生時代と代わり映えしません。WEB越しの研修を経て正式配属されてみたものの、上司や先輩たちとのコミュニケーションもやはりWEB越しです。お互いに戸惑い気味に仕事を進めていきますが、何かわからないことがあったときにタイムリーに尋ねることはできません。


そんななかで、思うような成果を出せなかったりすると、メンタル不調になって休職し、やがては離職してしまう人も出てきます。


自分は本当に社会人になったのだろうか。銀行口座には振り込まれる給与に見合った仕事ができているだろうか。そんな不安がよぎってくることは決して珍しくないのです。


あるいは学生時代と変わらない環境のなかで、つい転職情報サイトを調べて登録し、そこで今の状況よりもよさそうな会社を探して応募してしまったりします。転職の面接も今やリモートです。とんとん拍子に他社での採用が決まってしまったら、あっさり離職されてしまうこともあるでしょう。

3.リモートワークに求められるのは「認める」コミュニケーション

このような状況に対して、まず対策すべきは、コミュニケーションスタイルの改善です。


経営層や人事部は、新人の上司となる管理職や先輩社員に対して、部下の行動や成果を「認める」ように指示を徹底しましょう。たとえば先輩が新人に資料作成を指示した場合を想定します。途中報告で確認した資料の出来が今一つだったとしても、先輩はその資料を否定してはいけない、ということを伝えるのです。


十分でない資料を否定せずにどう改善するのか。それは「事実のすり合わせ」と「行動の承認」です。


事実のすり合わせとは、否定ではなく、今できている状況を確認し、完成までにあと何をすべきかを議論し合意することです。仮に文章が不出来なら「論旨をはっきりさせよう」「結論を具体的に示そう」ということについて合意するべきです。情報収集や分析が不十分なら「インプットを増やして精度をあげよう」などの合意です。


そしてその上で、ここまでやってきた作業について「丁寧な仕事をしたね」「期間内にしっかりとまとめてくれた」というように、事実をベースにして仕事ぶりを話題にすることです。否定的な言葉を使わずに、何をしてきたかを反復してあげるだけで、それは「認める」効果を持つのです。


リモートワークのほうが働きやすいベテランに比べ、若手にはまず会社になじんでもらう必要があります。そのために、対面よりも丁寧なコミュニケーションを心掛けてもらうようにするのです。


ただ、すべての管理職や先輩社員にそうした指示を徹底することができない場合もあります。そのため、本質的な対策としては、そもそもどんな職務・行動・成果を期待しているのかを仕組みとして示せるようにする方が望ましいのです。それが、「職務等級型の人事制度」です。

4.職務等級型の人事制度で評価についての意識を変革する

対面でのビジネスが当たり前だったころは、同じ場所で、同じ時間に働くことが大前提でした。成長度合いを見ながら上司が適切な難易度の仕事を与えたり、やる気を失いそうなタイミングで声掛けしたりするようなことが普通にできていたわけです。けれどもリモートワークになると、違う場所で、違う時間に働くことが増えてきます。対面時代にできていた、タイムリーで一体感のある指導・育成が難しくなります。


そこで必要なことは、そもそもどのように成長してほしいのか、どんな役割を担ってほしいのか、どんな行動をとってほしいのか、どんな成果を出してほしいのか、上司があえて示さなくても一人ひとりに理解してもらえる仕組みです。その仕組みこそが、まさに評価制度です。




特に変革すべき点は、何を期待しているかをはっきりさせることです。多くの会社では、これまで「能力」の期待を示してきました。経験とともに能力を高めて、組織の一員として成果を生み出してほしいという考え方です。そのための仕組みとして、職能等級制度というものが活用されていました。


しかし、タイムリーなコミュニケーションが難しい状況では、能力よりも仕事と成果そのものを期待として示したほうがわかりやすくなります。それが個人に期待する内容を「職務」等級として定義する仕組みです。


能力を示す職能等級制度だと、仕事については都度指示しなければいけません。けれども職務等級制度だと、具体的な仕事の内容をあらかじめ定義しているので、リモートワークでも機能しやすいという特徴があります。


会社としても、成果を出した人に高い処遇を与えやすくなるため、若手に限らず成果を出した優秀な人材が会社を辞めなくなることが期待されます。ぜひ皆さんの会社でも、リモートワークに対応しやすい、職務等級型の人事制度で、評価の仕組みを改善してみてください。


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