Netpress 第2090号 「益税」を狙い撃ち!「インボイス制度」導入の影響と企業の対応

Point
1.2023年10月1日より、消費税の「インボイス制度」が導入(実施)されることになっています。
2.ことし10月から始まる発行事業者の登録申請を前に、その影響と企業の対応を確認します。


公認会計士・税理士 甲田 拓也
公認会計士 成田 悠


消費税法上、消費税の算出において、仕入税額を控除するには取引先が発行した請求書等の客観的な証拠書類の保存が要件とされています。この経理方法を「請求書等保存方式」といいます。


現行は「区分記載請求書等保存方式」ですが、2023年10月から導入されるのが「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」です。インボイス制度では、区分記載請求書等保存方式の記載事項に加えて、「適格請求書発行事業者」としての登録を行ったうえで、請求書等にその登録番号を記載することなどが求められます。

1.インボイス制度で「益税」にメスが入る!

現行、基準期間(2期前)における課税売上高が1,000万円以下の小規模事業者について消費税は免税となっていますが、今回のインボイス制度の導入目的は、消費税における益税の解消にあるともいわれています。


たとえば、課税事業者A社が、免税事業者から商品を880円(消費税相当額80円)で仕入れ、1,100円(消費税相当額100円)で販売するとしましょう。

この場合、インボイス制度の下では免税事業者に支払った消費税相当額80円は、インボイスの交付が受けられない以上、仕入税額控除として差し引くことはできず、算出される消費税額は100円のままです(下図参照)。




このように、売り手側(サービスを提供する側)が免税事業者のままの場合、買い手側(サービス提供を受ける側)では仕入税額控除ができなくなるため、その分、従来に比べて納税の負担が増えてしまいます。


買い手側の納税負担が増えることから、売り手側には大きく分けて次の3パターンの対応が考えられます。


①免税事業者の立場を貫くパターン

この場合、売り手側が代替のきかない技術を持ち合わせているなどの強い競争力を持つ場合でない限り、課税事業者である同業他社に顧客を奪われてしまう可能性が生じます。


②仕入税額控除相当分の値下げに応じるパターン

買い手側から、仕入税額控除ができない分に見合った値下げを要求され、それに応じるというパターンです。


③課税事業者に転じるパターン

基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出すれば、課税事業者になれます。今後は、小規模な事業者でも課税事業者を選択するケースが増えると考えられます。

2.課税事業者を選択した場合に税額を軽減する方策

まず、課売税上高が5,000万円以下の事業者限定になりますが、簡易課税制度の選択の検討をお勧めします。


簡易課税制度では、「預かった消費税額」から差し引く「仕入れ等に係る消費税額」について、簡易的に預かった消費税額に「みなし仕入率」(卸売業90%、小売業80%など)を掛けて計算します。


卸売業や小売業のように、みなし仕入率が高い場合は簡易課税のほうが有利になることがあります。また、経費の多くが人件費であるような場合も、人件費に消費税は含まれないことから、原則課税ではこの分の仕入税額控除はゼロとなりますが、簡易課税であればみなし仕入率を掛けた金額を控除することができます。


ただし、多額の設備投資が予定されている場合や、輸出が多い場合などには、原則課税のほうが有利となるケースも多々あることや、簡易課税制度の適用前に税務署への届出が必要であること、一度適用すれば原則として2年間は簡易課税の継続適用が必要となる点にも留意が必要です。

3.免税事業者への経過措置を活用する

免税事業者が発行する請求書等であっても、2023年10月からそのすべてが仕入税額控除の対象から除外されるわけではありません。経過措置として、当面の間は現行の「区分記載請求書等」であっても、一定割合の仕入税額控除が認められます。


したがって、この経過措置を活用し、当面の間は免税事業者のままという選択をすることも考えられます。ただし、仕入税額控除が認められない部分について、取引先から追加負担を求められる可能性なども考えられます。可能であれば、インボイス制度の導入前に、取引先と負担条件などの擦り合わせをしておきましょう。

4.経理部門で対応すべきこと

インボイス制度の導入に際して、経理部門が対応すべきことは、大きく次の2点です。


(1)「適格請求書発行事業者」としての登録

課税事業者は、制度導入に先立ち「適格請求書発行事業者」としての登録が必要です。消費税法上、課税事業者を選択するか、基準期間の売上が1,000万円を超えると、必然的に課税事業者となりますが、それをもって自動的に適格請求書発行事業者として登録されるわけではありません。別途、登録手続きが必要となります。


登録申請は、納税地を所轄する税務署に対して行います。2023年10月のインボイス制度の導入と同時に対応するのであれば、原則として2023年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。


登録をすると、登録番号と登録年月日が国税庁のホームページで公表されます。これにより、自社の情報が公開されるとともに、取引先が登録済みであるか否かを調べることが可能になります。


(2)請求書のフォーマット変更と業務の複雑化への備え

制度導入に伴い、請求書に記載する項目が増えるため、フォーマットの変更や、請求書発行をシステムに依存している場合には設定の変更・バージョンアップが必要になることもあります。


これまで免税事業者だった事業者が課税事業者になると、消費税の申告が必要となり、業務負担が増えます。一方で、免税事業者からの仕入については仕入税額を控除できなくなることから、取引相手が課税事業者(適格請求書発行事業者)なのか、免税事業者なのか、という点にも気を配る必要が出てきます。


この記事はPDF形式でダウンロードできます

SMBCコンサルティングでは、法律・税務会計・労務人事制度など、経営に関するお役立ち情報「Netpress」を毎週発信しています。A4サイズ2ページ程にまとめているので、ちょっとした空き時間にお読みいただけます。

PDFはこちら


プロフィール

SMBCコンサルティング株式会社 ソリューション開発部 経営相談グループ

SMBC経営懇話会の会員企業様向けに、「無料経営相談」をご提供しています。

法務・税務・経営などの様々な問題に、弁護士・公認会計士・税理士・社会保険労務士・コンサルタントや当社相談員がアドバイス。来社相談、電話相談のほか、オンラインによる相談にも対応致します。会員企業の社員の方であれば“どなたでも、何回でも”無料でご利用頂けます。

https://infolounge.smbcc-businessclub.jp/soudan


受付中のセミナー・資料ダウンロード・アンケート

受付中

【15分動画】印紙税の基礎