Netpress 第1706号 人事担当者も、海外赴任予定者も必見 海外赴任が決まったら準備すべきTODOポイント
1.日本の出国手続きを満たしていても、赴任先の滞在要件を満たせないと赴任できないため、現地のビザ、就労許可の要件を、まず確認します。
2.人選から実際の現地着任まで、概ね半年から1年程度を見込んでおく必要があります。
3.主に会社側で実行すべき手続きとして、社会保険および医療・ワクチン等への対応が挙げられます。
社会保険労務士 安達 翼
1.代表的な赴任前フローの確認
(1)日本国内での各種手続きの前に確認すべき事項
海外赴任というと、まずは日本国内における行政手続きから最初に検討し始めることが多いですが、実際は、現地のビザ、就労許可の要件の確認が最初の検討事項となります。なぜなら、日本側の出国手続きを満たしたとしても実際の現地での滞在要件を満たせないと、赴任が頓挫し、本人および会社ともに大きな損害となってしまうことがあるためです。一般的には、次のようなポイントをまずは確認しておくことが重要です。
主なチェック項目 | ポイント |
---|---|
健康状態・既往症 | 中国、ロシア、一部の東南アジア諸国においては、イニシャル・ヘルス・コンディション・チェックアップ(初期健康状態確認)といわれる基礎疾患、性感染症を含む感染症等がないことの確認が、ビザ付与の要件となっていることがあります。 |
学歴・職務経歴 | アジア、欧米諸国の別を問わず、学歴要件と現地で従事する業務に関する職務経験をビザ取得に際して求められることが一般的です。 |
(2)赴任前の準備とスケジュール一覧
ここでは、アジア諸国への赴任を前提に、設立準備から実際の赴任実行までの一般的なスケジュールについて解説していきたいと思います。
まずは、右の一般的な赴任スケジュール例をご覧ください。
現地法人を設立する場合、人選から実際の現地着任まで、一般的には約1年を見ておくべきでしょう。既に現地法人がある場合の交代赴任あるいは着任であっても、概ね6か月を見ておく必要があります。なお、米国等の進出要件が厳しい先進国の場合、日本本社からの一定額の投資実行が必要なこともあります。その場合は、設立からスタートする場合と同様に、約1年を見ておく必要があります。
(3)会社が赴任前に行うべき手続き、教育、説明のポイント
スケジュールが確定した後、主に会社側で実行すべき手続きとして、社会保険および医療・ワクチン等への対応が挙げられます。
① 社会保険の対応のポイント
赴任先の国にも社会保険制度があり、保険料の負担義務がある場合は、二重負担を回避するための社会保障協定の利用が可能か確認する必要があります。適用できる場合は、利用することにより現地法人および本人のコスト負担を低減することができます。
ただし、大きく分けて医療と年金の双方が免除されるタイプと、いずれかのみが免除となるタイプの2タイプが存在します。いずれの場合であっても日本の年金・医療制度との給付・保障範囲の差(インデムニフィケーション・ギャップといいます)の確認は、ぜひ、本人に説明しておくべきでしょう。将来的な保障の喪失・低下による労務紛争を防止する観点から、重要な対応ポイントといえます。
② 医療・ワクチン等の対応のポイント
ワクチン接種に関しても、手続き上の配慮が重要となります。日本の医療機関で接種した認可ワクチンによる副反応(副作用のこと)については、日本の被害救済制度の対象となり得ます。しかし、赴任スケジュールの余裕がなく、狂犬病ワクチンのように複数回の接種が必要なもので、残余分を現地で接種して被害が生じた場合、日本の被害救済制度の対象外となってしまう恐れがあります。本人へのリスクを含めた十分な説明が必要な部分といえます。
(4)赴任者が赴任前に日本で行う代表的手続と見落としがちな落とし穴ポイント
会社側の社会保険手続が済んだら、いよいよ本人に出国関連の手続きを行ってもらいます。主な注意点は、印鑑証明が必要となる各種手続きと住民票の除票タイミングです。
自動車・バイクの所有者名義変更、保険手続き、不動産関連手続きに際しては、印鑑証明書の添付を要求されることが常です。この際、住民票を除票してしまうと以後の印鑑証明書の発行が不能となり、これらの手続きを行うことができません。全ての手続が済んでから除票をするようにすべきです。
また、もう一点見落としがちな落とし穴として、国内証券口座の処理があります。投信、株式等の資産を有する赴任者の場合、常任代理人の選任・届け出、売却閉鎖処理等を行う必要があります。
2.出国年末調整とその他の税務ポイント
一般的に、海外赴任者は税務上の日本非居住者となります。この場合、出国時に年末調整を実行し、出国前に納税処理を確定しておく必要があります。また、住宅ローン控除を利用している場合は、「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」の提出も忘れずに行ってください。
その他、不動産所得等があるため赴任中も確定申告が必要な人の場合、納税管理人を選任して届け出る必要があります。
3.現地入国後の主な手続きとそのポイント
アジア諸国の場合、現地入国後に日本の住民票に相当する居所・居留関係の登録・届け出が必要となります。また、インドネシアのように現地警察への届け出が法定されている国も存在するため、居所・居留関係の届け出以外の行政手続についても、忘れずに実行してください。
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