Netpress 第2361号 「保有能力重視」から「職務重視」へ 賃金上昇に伴う人事評価制度の見直し

Point
1.日本企業においても、職務と賃金をバランスさせる「ジョブ型雇用」への切り替えが進んでいます。
2.賃金上昇を踏まえ、従業員と企業双方にとって有益な人事評価制度への転換について解説します。


株式会社グローディア
代表取締役 各務 晶久


近年、日本政府の政策により最低賃金が年々上昇しており、中小企業にとって人件費の管理は一層重要な課題となっています。


この賃金上昇は、従業員の生活水準の向上に寄与する一方で、企業の人事管理に対しては見直しを迫るものといえます。


本稿では、賃金上昇の現状とそれに伴う人事評価制度の見直しについて考察します。

1.賃金上昇の現状

(1)最低賃金の上昇

政府は賃金水準の引き上げ、物価高を上回る所得の増加を政策課題に掲げており、今後も最低賃金の引き上げが継続されると思われます。


これに連動して、企業では毎年既存社員のベースアップを迫られることが想定されます。


(2)ベースアップと定期昇給

①ベースアップとは

ベースアップは、企業が従業員の賃金を一律に、または全体的に増加させることを指します。


ベースアップは、賃金カーブをそのまま上にスライドさせるイメージです。経済状況等によるものであり、従業員のパフォーマンスとは無関係です。


②定期昇給とは

一方、定期昇給は、勤続年数や人事評価結果に基づいて給与が増加するシステムです。


定期昇給は、従業員のスキルアップ、貢献度などを評価し、個々の従業員の成長とともに給与を増やしていくという考え方です。今ある賃金カーブをなぞって賃金が上がっていくイメージです。


③ベースアップか定期昇給か

これまで企業は、人事評価を定期昇給に反映させることで、従業員の努力に報いてきました。


しかし、高いベースアップ率の下では、人事評価によって多少定期昇給額に差をつけても、そのインパクトは薄まってしまい、従業員の努力が適切に反映されにくくなっています。


かといって、生産性や収益率が劇的に変化しない限り、評価反映部分をむやみに引き上げるわけにもいかないのが悩ましいところです。

2.ジョブ型雇用の導入と評価基準

現在、日本企業でもジョブ型雇用への切り替えが進んでいます。


ジョブ型雇用は、どのような業務に従事するのかを明確に示したうえで雇用契約が結ばれる仕組みです。


ジョブ型雇用では、勤続年数や保有能力(潜在能力)といった属人的な要素が排除され、従事する職務内容を中心に賃金が決定されます。


一方、日本型のメンバーシップ型雇用は、従業員は企業に雇用されること(メンバーになること)のみを約束して雇用契約が結ばれます。どのような業務に従事するのかは、企業の都合で自由に変更されます。


「何も刻まれていない石板(白紙)にサインする制度」ともたとえられるこの制度は、長期的な雇用保障を前提に、キャリアアップの機会を企業が提供します。


企業が自由に配属を決めるため、職務内容ではなく、本人の保有能力(潜在能力)といった属人的要素をベースに賃金が決定されます。


生産性や収益率の向上が見込まれないなか、ベースアップに加え、保有能力や勤続年数を基準としたメンバーシップ型雇用における賃金制度の維持が困難になるのは自明です。


職務と賃金をバランスさせるジョブ型雇用が進展していることには、そのような背景があるのです。

3.ジョブ型雇用における人事評価

(1)キャリアパスの明確化と育成プログラム

ジョブ型雇用の下では、より難易度の高い職務に従事するためには、どのようなスキルを身につければよいのか、今不足している能力は何なのか、といった点を従業員に示すことが求められます。


そのためには、キャリアパスを明確にし、自己成長に取り組めるよう研修や育成プログラムをワンセットで示す必要があります。これにより、従業員のスキルアップを促すとともに、企業全体の生産性向上に繋がります。


(2)パフォーマンスを重視した評価基準の導入

従業員の能力と実績を公正に評価し、適切な報酬を提供するためには、パフォーマンスを重視した評価基準の導入が必要です。


具体的な成果や目標達成度を評価の軸として、従業員が自身の成長を実感できるようにしなければなりません。


(3)多面的な評価システムの構築

職務の難易度だけでなく、チームへの貢献度や協働性、リーダーシップ能力など、多面的な観点から評価するシステムを構築します。これにより、従業員一人ひとりの多様な価値を認識し、公平な評価を実現します。


(4)フィードバックとコミュニケーションの強化

定期的なフィードバックや1on1のミーティングを通じて、従業員とのコミュニケーションを強化します。


従業員の意見や感じている課題を把握し、それに基づいたサポートを行うことで、モチベーションの維持・向上を図ることも重要です。

4.最後に

賃金上昇に伴い、中小企業における賃金決定基準が「保有能力重視型」から「職務重視型」へ移行していくことが想定されます。


これを機に、従業員一人ひとりがどのような職務に従事し、上位職務に従事できるスキルを獲得しているのかを公正に評価し、適切な配置を進めることが必要です。


パフォーマンス重視の評価基準の導入、多面的な評価システムの構築、キャリアパスの明確化と育成プログラムの提供、フィードバックとコミュニケーションの強化を通じて、従業員と企業双方にとって有益な人事評価制度への転換が求められているのです。



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