ＡＢＤアソシエ株式会社
代表取締役　栗原 浩夫

経営戦略シリーズ第５回目は、第１回～４回で解説した事業戦略を具体化するにあたっての事業成長の目標を設定しました。

最終回となる第６回目は、第１回～５回で解説した事業戦略を具体化するにあたっての社内体制作りや戦略実行手法としてのМ＆Ａのポイントについて解説します。

１．事業戦略実現のための体制作り

全社の経営戦略を策定する過程のなかで、事業戦略を実行していくうえでの機能別戦略への落とし込みと、既存の組織やインフラ機能との整合を取ることが重要となります。

機能別戦略としては、「営業戦略」「広告戦略」「IT戦略」「物流戦略」「購買戦略」「組織戦略」「人事戦略」などがあります。

事業戦略を実行していくうえでは、会社の組織、IT、物流、ルール等が戦略を後押しするサポート体制を作らなければなりません。

既存事業の派生領域の戦略を実行する場合は、会社の既存の制度やインフラの活用が比較的容易と考えられます。しかし、新規領域の戦略の場合については、対象事業領域の特性に合った体制整備を進める必要があり、既存の会社制度やインフラでは対応が難しいことが一般的です。

特に、新たな制度やルールを導入するにあたって人員の思考や行動パターンを変えることは容易ではなく、経営側の強いコミットメントとリーダーシップが求められます。

実際、新規事業を推進しようとしても、次のような理由から、新規事業自体が社内で孤立していくケースが多くみられます。

・既存事業の業績評価や給与体系が合わない

・経営管理や経理システムが相違する

・製品設計や営業、仕入れ、広告活動等の手続・手順が合わない

対策として、新規領域の事業戦略については子会社化する等の検討が必要となりますが、経営資源を親会社に依存する前提だと、結局は同様の問題を抱える結果となりかねません。

新規事業を子会社とする場合でも、子会社の独立性担保と子会社経営者の事業意欲が求められます。

２．M&A活用の注意点

事業戦略を実行していくうえでは、オーガニックグロースといわれる社内の経営資源を活用したパターンと、既存の企業や事業を譲り受けてМ＆Ａという形で取り込んでいくケースが考えられます。

この点については、「新規事業や戦略が既存事業の経営資源や体制で賄えるのか？」「成長実現のための時間軸や投資コストをどの程度考慮するのか？」によって、取るべき戦術の選択肢が変わってきます。

М＆Ａの場合は、情報の守秘性が高いためМ＆Ａ情報自体の収集が難しく、実行に至るまでの手順や実現時期の見通しは容易ではありません。

そういった意味では、М＆Ａ専門会社や銀行、証券会社、コンサルティング会社等との情報連携は重要です。また、相互の業界事情を知る業界コミュニティの中で情報交換を行うケースもあり、経営者には社内外でのコミュニケーションや情報収集力が求められます。

さらに、М＆Ａは取引金額や条件等に関する交渉やデューディリジェンスといった財務、法律等の精査、契約手続等の専門性が伴うため、第三者専門家を入れた実行体制が必要になります。社内にも第三者専門家とのコミュニケーションを調整する人材育成が求められます。最近では、経営企画部や事業推進部の機能としてМ＆Ａを捉えている企業も増加しています。

３．最後に

本解説シリーズでは、６回にわたり事業戦略立案や戦略実行について解説してきました。

事業戦略策定自体がそもそも将来予測といった難しいテーマであり、社内やステークホルダーの理解を醸成していくためにより多くの客観的な情報収集や分析が求められるだけでなく、戦略実行は組織を動かすという意味で大変な労力を要します。

そういった意味でも、企業経営者には情報感度や社内外のコミュニケーションに対してより高いリーダーシップが求められ、社会の複雑化、多様化への対応力や判断力が必要となります。

各回とも簡略な内容ではありましたが、経営戦略テーマの本解説シリーズが経営者の皆様にとって少しでもお役に立てれば幸いです。

【SMBC経営懇話会会員限定】

SMBCコンサルティングの顧問コンサルタントによる無料経営相談のご案内

SMBC経営懇話会のサービスはこちらをご覧ください

SMBC経営懇話会のご案内

「Netpress」はPDF形式でもダウンロードできます

SMBCコンサルティング経営相談グループでは、税金や法律など経営に関するタイムリーで身近なトピックスを「Netpress」として毎週発信しています。過去の記事も含めて、A4サイズ1枚から2枚程度にまとめたPDF形式でもダウンロード可能です。

PDF一覧ページへ