Netpress 第2339号 価格戦略の見直しが急務! 物価高を克服する「価格設定」の勘どころ

Point
1.最近の歴史的な物価高や人件費の高騰を受けて、値上げを実施する企業が増えています。
2.価格戦略の視点や基本的なアプローチ法から特殊な値上げまで、価格設定のポイントを解説します。


中小企業診断士
竹内 幸次


1.価格戦略の5つの視点

人件費の高騰と物価高という2大要因が苦境をもたらすなかで企業を存続させるためには、「価格戦略」を経営戦略の中心に据えることが得策です。


経営戦略には、技術開発や新規事業開発、人材や組織の運営等、さまざまな戦略分野がありますが、まずは短期的な視点に立つ価格戦略の見直しが課題となるでしょう。


実際に価格戦略を見直すにあたっては、次の「5つの視点」からの考察が重要となります。


(1)価格水準

一般に価格戦略というと、この「価格水準」のことを指します。商品やサービスの質や効用とも関連しますが、標準的な価格水準、高価格・低価格等、価格自体の高低を戦略的に考える視点です。


【戦略例】……高い価格でも購買数量が減らないよう、世帯収入600万〜800万円の顧客層から、800万〜1,000万円の顧客層にターゲットを上方シフトする。物価高の心理的影響が少なく、購買力がある顧客層を狙う戦略。


(2)価格帯の幅

価格水準とともに考察したいのが、価格帯の幅の視点です。たとえば、商品のグレード展開をするといった戦略です。高機能商品から低機能商品までを、どの程度の幅広さ、価格帯で展開するのかを考察します。


【戦略例】……競合商品が多い業界において、従来よりも低機能の低価格商品を増やす戦略。一方で、ブランドイメージを低下させないために、高機能商品の価格は従来よりも上げる。


(3)価格の時間的変化

時間の経過による価格の変化を考える視点です。たとえば、新商品の発売価格を高めでスタートしてから、徐々に下げることや、競合する他社の商品の動向を見ながら、値上げ、値下げをするといった、価格変化を考えた視点です。


【戦略例】……発売時には従来の価格よりも1.5倍ほど高値で販売し、富裕層市場に食い込む戦略。6か月から1年をかけて徐々に価格を下げるが、経験曲線効果(同じ事業を継続することで得られる一種の習熟による効率性)によって総コストが下がり、利益は保つことができる。


(4)価格の季節的変化

季節によって需要が変化する商品やサービスの場合に、その需要の変化に合わせて価格を考える視点です。需要期に価格を上げるのか、逆に需要期だから価格を下げるのか等を考察します。


【戦略例】……盛夏が過ぎれば、エアコン設置需要は減少に転じるため、競合企業は価格を下げ始める。価格競争に陥らないためにも、6月等の盛夏前に、低価格で受注契約を完了させる。


(5)決済手段

支払い時期が商品引き渡しの前なのか、同時なのか、後なのか、または一定期間定額で代金を回収するのか等に着目した戦略です。


【戦略例】……価格を上げたが、顧客の心理的な抵抗を和らげるために、サブスクリプション(定額支払い)によりサービスを提供する。

2.価格改定の基本的なアプローチ法

価格改定を行うという前提で、価格を決める際の基本的なアプローチ法を以下に示しました。


(1) コストプラス法


(2) 競合対応法


(3) 顧客認知法



価格改定にあたっては、コスト(Cost)、競合(Competitor)、顧客(Customer)の「3C」をバランスよく考慮することが重要です。


価格を決める際には、ほかにも考慮すべき重要事項があります。主なものは次のとおりです。


・価格は自社の顧客層の選択にもつながる。「この商品に、この金額を支出する価値観を持っている人」という発想でメイン顧客を設定する


・価格に加えて、商品自体の品質や機能性、デザイン性、ブランド力、配送や取り付け等のサービスが価格に見合っているかも重要


・価格を改定する際には、競合企業の価格の動向、顧客の受け止め方を十分に予想する


・価格改定は、自社の商品やサービスを見直す好機にもなる


価格は、むやみに上げたり下げたりすべきものではありません。自社の戦略に基づき、さまざまな角度から検討したうえで、最適解を追求するようにしましょう。

3.特殊な価格改定のポイント

「ステルス値上げ」と呼ばれる手法も増えてきました。ステルス(Stealth)とは、「隠密」「こっそり行う」といった意味です。具体的には、商品の価格は変えずに、商品の内容量を減らすことや、サービスの提供時間の短縮により、実質的に値上げをすることです。自動車のマイナーチェンジの際に、価格は据え置かれているものの、前モデルのときには標準装備されていた機能が削られていたりすることがありますが、これもステルス値上げの一種です。


ステルス値上げで注意するべきことは、消費者やユーザーの信頼を損なう可能性です。いつもの内容量や機能を前提に購入したものの、期待した内容量や機能が伴っていないと、ブランドイメージが損なわれることがあります。ステルス値上げで信用を失うよりは、理由を説明したうえで値上げをしたほうが、納得が得られやすい場合もあるでしょう。


ただし、消費者の環境や廃棄物の削減に対する意識の高まり等、市場ニーズの変化に合わせて商品規格を変更したものであれば、ステルス値上げとはいえません。



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