Netpress 第2329号 日常のマネジメントで実践を! 「内発的動機付け理論」によるモチベーション低下の防止策
1.経営者や管理職にとって重要な仕事の一つとなるのが、いかに部下のモチベーションの低下を防ぎ、向上させるかということです。
2.ここでは、エドワード・L・デシの「内発的動機付け理論」を活用して、社員のモチベーションを維持・向上させる方法を紹介します。
株式会社グローディア
代表取締役 各務 晶久
近年、組織内の社員のモチベーション管理が経営の重要なテーマとなっています。
当然のことながら、社員一人ひとりのモチベーションが高い状態であれば、生産性が向上し、企業全体のパフォーマンスも向上します。
経営学では、社員のモチベーションはコントロール可能なマネジメントの対象範囲とみなしており、さまざまな研究蓄積が進んでいます。
今回は、モチベーション論の代表的な研究者であるエドワード・L・デシの「内発的動機付け理論」に基づき、社員のモチベーションを維持・向上させるにはどのようにすればよいかについて考察します。
あわせて、モチベーションを低下させるマネジメント(=避けるべきマネジメント)についても理解を深めていきたいと思います。
1.エンハンシング効果を高める3つ方法
デシの理論によれば、人は次により内発的に動機付けられるとされます。
・自分自身の行動に対して「自律性」と「有能性」を感じること
・自分にとって大切だと思う人から認められること
これらの要因が動機付けを高めることを「エンハンシング効果」といいます。
エンハンシング効果を高める方法としては、「(1) 自律性の尊重」「(2) 有能性の実感」「(3) 関係性の構築」という3つのものがあります。
以下、それぞれの方法について詳しくみていきましょう。
(1)自律性の尊重
社員が自分自身の行動を自分で決定できていると感じられることが重要です。
必要以上に行動を細かく管理するマイクロマネジメントは社員の自由度を制限し、自律性を奪います。社員に仕事の進め方の裁量を与えれば、モチベーションは自ずと高揚します。
また、目標設定やプロジェクト計画の際に社員の意見を聞き、彼らの意思が反映されている実感や参画意識を持たせることが重要です。
(2)有能性の実感
不得意分野の克服に時間を割くよりも、社員が得意分野でスキルや能力を十分に発揮できる機会を与えるほうがモチベーションは高まり、生産性も向上します。
また、適切なタイミングでのフィードバック(特に良い点をほめること)を通じて、社員が自己効力感を感じられることが欠かせません。
(3)関係性の構築
社員同士、または上司と部下の間で信頼関係を築くためのコミュニケーションを奨励します。
オープンなコミュニケーションが活発に行われる環境は、困難な状況でも支え合い、協力する基盤を作ります。
以上の(1)〜(3)の3つの取り組みを実践することは、社員のモチベーションを高める組織風土を醸成する足掛かりになると思われます。
2.アンダーマイニング効果を誘発するマネジメント
デシは、他方で、せっかく内発的に高まったモチベーションを低下させてしまう「アンダーマイニング効果」についても触れています。
この効果を理解し、社員のモチベーションを低下させるマネジメントを避けるようにしなければなりません。
アンダーマイニング効果とは、「外部からの報酬」「評価や罰の予告」「あと出しの締め切り設定」などが内発的動機付けを低下させる現象を指します。
これらは日常のマネジメントで何気なくやってしまいがちなことばかりですので、注意が必要です。
具体的には、以下のようなマネジメント手法がとられると、アンダーマイニング効果を引き起こす可能性が指摘されています。
(1)報酬に依存する評価
報酬が過度に強調されると、社員は自己実現や成長よりも報酬の獲得に重点を置くようになり、内発的動機付けが低下する可能性があります。
報酬は適切なレベルで設定し、社員の努力と成果に対して公平に評価される仕組みの導入が欠かせません。
また、非物質的な報酬を組み合わせることも重要といえます。
(2)評価や罰によるコントロール
管理職がタスク遂行状況を見ながら「これができたらA評価だが、できなかったらC評価だ」といった賞罰によるマネジメントは、社員の自主性を奪い、仕事に対するモチベーションを低下させる可能性が大きいでしょう。
また、仕事のプロセスについても、社員自らの意思を尊重し、一定の自由度、選択肢を提供することが望ましいといえます。
(3)不適切なフィードバック
ネガティブなフィードバックが過度になると、社員の自信が失われ、有能性の実感が薄れる可能性があります。
社員の成果や努力に対して積極的にポジティブなフィードバックを行い、自信とモチベーションの維持を支援しなければなりません。
しかし、大方の管理職が部下をほめることに不慣れなので、ほめる練習から始める必要があるでしょう。
経営者や管理職は、部下のモチベーションを維持・向上させることが一つの大きな仕事ですが、一筋縄ではいかないものです。しかし、モチベーションを低下させてしまうアンダーマイニング効果を意識し、そのようなマネジメントを避けるように注意することは、比較的取り組みやすいでしょう。
ぜひ、日常のマネジメントのなかで実践してみてはいかがでしょうか。
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