Netpress 第2316号 すぐに取り組めて効果的! 中小企業の人材流出を防ぐ5つの具体策
1.人材不足が深刻な昨今、人材流出は採用・育成コストが無駄になるばかりか、周囲へも悪影響を与えかねないため、できるだけ早く対策を打つことが望まれます。
2.貴重な人材の流出を防ぐために中小企業でも取り組みやすく、効果の高い5つの具体策を紹介します。
アーティエンス株式会社
代表取締役
迫間 智彦
1.採用時の人材要件を決めてミスマッチを防ぐ
1つ目の対策は、「採用時の人材要件を決めておく」ことです。
人材要件を明確に決めないで採用を行うと、ミスマッチによる早期の人材流出を引き起こす可能性が高まります。そのため、採用時の人材要件をしっかり決めておくことがとても重要です。
具体的には、「募集する職務において活躍できる能力要件」と「自組織とカルチャーマッチする人柄」の2つを、具体的に言語化しておきましょう。
たとえば、コンサルティング営業職を募集している場合には、能力要件として「論理的思考力」が必要とされます。ルート営業職であれば、「関係性構築力」が重要視されるでしょう。自組織とのカルチャーマッチは、目標達成に厳しいカルチャーであれば、「負けず嫌いな性格」が必要とされます。
このように、人材要件を具体的に言語化することで、ミスマッチによる人材流出を予防することができます。人材要件を決める際には、社内で活躍している人材のよいところを探すことも有効です。対象は1人に絞らず、複数の社員から探すようにするとよいでしょう。
2.オンボーディングでエンゲージメントを向上させる
2つ目の対策は、「入社時のオンボーディング」です。オンボーディングとは、船や飛行機に乗っている「オンボード」から派生した言葉で、入社した社員が会社に馴染めるように継続的に実施する施策をいいます。オンボーディングを丁寧に行うことで、新入社員のエンゲージメントを早期に向上させることが可能となります。
オンボーディングは、次の3つの要素を基にして行うのがポイントです。
①職業的社会化 | 仕事に必要なスキル・知識を習得するためのトレーニング。OJTや自己学習、外部研修などにより新入社員は早期に仕事を覚え、組織の一員として自分の価値を発揮できるようになる。 |
②文化的社会化 | 組織の社風や考え方、ルールを受け入れるためのすり合わせ。入社前の説明会だけでなく、フォローアップ面談なども充実させることが重要で、メンター制度などを採り入れるのも有効。 |
③役割的社会化 | 自身の役割を理解し、受け止めるための支援。会社が新入社員にどのような役割を期待しているかをしっかり伝えることで、新入社員は自分の存在価値を認識することができる。 |
3.ポジティブフィードバックで成長を促進する
3つ目の対策は、「ポジティブフィードバック」です。社員の言動のよい部分を見つけて、ポジティブな言葉で評価を伝えることで、社員は「承認されている」「成長している」といった実感を抱くことができます。
何か改善してほしいところがある場合にも、「○○はできているので、さらに成長を目指して△△についてもやってもらいたい」というようにポジティブに伝えましょう。
フィードバックを高頻度で行い、短いスパンで改善行動を繰り返すことは、本人の前進感や成長実感につながります。日常業務のなかで意識的にフィードバックの機会を増やしましょう。ただし、あまりにやり過ぎてしまうと、「マイクロマネジメントをされている」と受け取られることもあるため、注意が必要です。
4.定期的な1on1による業務・内省・精神支援
4つ目の対策は、「定期的な1on1による業務・内省・精神支援」です。これらの支援は、オンボーディング終了後も必ず時間をつくり、継続して行いましょう。
①業務支援 | 仕事のやり方を教えて、必要に応じてアドバイスをすること。 |
②内省支援 | 振り返りを促すこと。また、客観的な意見を伝えて、本人の気づきを促すこと。 |
③精神支援 | 励まし、褒めること。また、本人の感情のケアをすること。 |
業務・内省・精神の3つの支援により、社員が成長実感を持つことはもちろん、上司やトレーナーとの信頼関係も高まります。このうち、業務支援については意識的に行っていても、内省支援と精神支援のアプローチの仕方がわからず、後回しになっていることが少なくありません。そこで、内省支援と精神支援のアプローチのコツを紹介します。
(1)内省支援で使える3つの問い
・「○○さんが、この経験から得た学びは何だろう?」
・「何か1つ変化させるとしたらどんなこと?」
・「いまの仕事上で、○○さんが誇れる点は? 一方で、残念に思う点はどこだろう?」
これらの問いを1on1で行うことで、客観的に自身の経験を振り返り、気づきを促すきっかけになります。
(2)精神支援で大切にしたい3つのアプローチ
・社員の話をきちんと聴く(決めつけない)
・社員に対する期待や想いを言葉でしっかりと伝える
・他の社員にも、フォローしてもらう
5.自社の衛生要因や組織構造に目を向ける
5つ目の対策は、「自社の衛生要因や組織構造に目を向ける」ことです。ここがしっかりしていなければ、どんなに前述した4つの対策に力を入れたとしても人材流出は防ぎきれません。
(1)「衛生要因」を満たす
衛生要因とは、「給与」「労働条件」「福利厚生」「経営方針」「人事労務体制」「職場の人間関係」などが挙げられます。
これらに大きな欠如・欠陥がある場合には、その他の打ち手をいくら実施しても、人材流出が続くことになります。
(2)組織構造を改革する
自社の組織構造に問題がないかについても、チェックする必要があります。
会社を成長させたい、存続させたい、といった意識が強すぎると、目の前の数字や目標との差を埋めることばかりに気を取られて、肝心の社員への対応が後回しになりがちです。「社員が会社に対して何を求めているのか」「何が不足しているのか」をしっかりと考え、自社の組織構造に問題があれば速やかに改革する必要があります。
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