Netpress 第2309号 経営戦略シリーズ③ 経営戦略の策定手順 仮説検討フレームワークの活用

Point
1.これからの企業経営者には、「外部のノウハウ」を取り入れる柔軟性と多様な情報を結合させる広い視野をもったマネジメントが求められます。
2.この連載では、計6回のシリーズで、経営戦略実行のための戦術等について説明していきます。


ABDアソシエ株式会社
代表取締役 栗原 浩夫


経営戦略シリーズ第3回目は、第2回目で解説した経営環境の把握と成長の方向性を探るために収集した自社や競合分析、外部事業環境に関する基礎情報を複合的に整理・活用して、どのような切り口で経営戦略の仮説を立てていくのか(戦略の仮説検討フレームワークの活用)について解説します。

1.アンゾフの成長マトリックス

経営学者のアンゾフが提唱した成長マトリックスは、成長戦略を「製品」と「市場」の2軸に置いて、それらを「既存」と「新規」に分類したものです。




【市場浸透戦略】……従来の市場に既存製品やサービスを浸透させてシェア拡大を目指す戦略で、製品・サービスの認知度向上が課題。


【新製品開発戦略】……既存市場に新たな製品やサービスを投入し、売上拡大を目指す戦略で、既存市場に対応した製品・サービス開発や他社との差別化が課題。


【新市場開拓戦略】……既存の製品・サービスを新市場に投入していく戦略で、新市場における他社との競合や営業力等が課題。


【多角化戦略】……新市場に新製品・サービスを投入する戦略で、多角化戦略と言われる。製品・サービスの開発や市場開拓に関するコストと時間がかかり、最もリスクを伴う戦略。


市場環境が大きく変化するなか、企業としてはなんらかの多角化戦略を検討する必要があります。自社分析により自社の優位性や弱点を把握したうえで、競合や市場規模、規制等を総合的に捉え、製品・市場の切り口から展開可能な製品開発や市場を想定していきます。

2.BCG-PPM(Product Portfolio Management)

将来の事業展開を検討する際に、既存事業や新規事業の複数事業間で経営資源をどのように配分するのか(事業ポートフォリオの検討)が課題となります。


PPMのフレームワークは、「市場成長率」と「市場占有率」の2軸で事業を評価するものです。日本の経営者は「儲かるか」という損益志向になりがちですが、ここでの注意点は「キャッシュフロー」の考え方となっていることが重要です。


損益的には十分に儲かっている事業でも、在庫等の運転資金や人材、設備投資の負担が大きく、事業を拡大するほど資金負担が重くなるような事業であれば、他の資金効率の高い事業に経営資源を投下する選択を検討する可能性があるという考え方です。ただし、自社のコアコンピタンスや事業間シナジーの考慮はないため、本フレームワークを活用しながら総合的なポートフォリオの検討を行うことが重要となります。




【花形】……市場の占有率も成長率も高く、一般的には成長期にある収益性が高い維持・拡大すべき事業だが、相応の投資も要するため多額のキャッシュの稼得にはつながらないケースもある。将来的には、事業そのものが成熟期に移行していくことが考えられ、次の花形事業の創出が課題。


【金のなる木】……相対的なシェア・自社の競争力が高く、市場成長率が低い状態で追加的な設備投資の必要がないことから、多額のキャッシュを稼得しやすいビジネスであり、将来の経営資源を確保する役割がある。製品が成熟期にあり、他社参入可能性も低い一方で、他製品への転換リスクや収益性が低下する可能性がある状態のため、追加的な投資には慎重にならざるを得ないのが課題。


【負け犬】……市場成長率も市場占有率も低いため、自社の競争力も発揮しにくい事業。追加的な投資は現実的ではなく、一般的には撤退検討の対象となる。しかしながら、企業の歴史や認知度、他事業への影響等を考慮する必要性から、負け犬となった事業をフックに他事業への展開の検討もあり得る。


【問題児】……市場成長率は高いものの市場占有率が低く、競合との関係から自社の収益性は低くなる。市場競争の関係から追加的な投資も要し、市場シェアを確保するまで(花形に育つまで)には一定期間の忍耐が必要。花形に育てる過程で失敗するリスクもあり、投資判断には慎重を要することが課題。

3.SWOT分析

SWOT分析は、自社の内部環境と外部環境をプラス要因とマイナス要因に分類して分析する手法です(自社分析、外部環境調査については、シリーズ②を参照)。分類される要素は、「強み:S(Strength)」「弱み:W(Weakness)」「機会:O(Opportunity)」「脅威:T(Threat)」と呼ばれ、戦略策定のフレームワークとして広く活用されています。




【強み(S)】……自社や自社の製品・サービスの長所や優位な点。


【弱み(W)】……自社や自社の製品・サービスの短所や改善すべき点。


【機会(O)】……社会や市場が、自社や自社の製品・サービスにプラスとなる外部環境。


【脅威(T)】……社会や市場が、自社や自社の製品・サービスにマイナスとなる外部環境。


自社分析や調査した事項をSWOTに分類することで、認識がなかった事項、経営改善事項、将来戦略のヒントが整理されます。また、自社の競争環境の把握や社内での意識統一が可能となり、経営戦略を検討していくうえで有効な可視化ツールとなります。


こういったフレームワークを活用した戦略検討を進めるうえでは、感覚や経験だけで議論を進めるのではなく、事前の自社分析と情報収集による客観性に基づいた議論が重要です。また、社内的にはさまざまな部門からの意見集約が必要ですが、関係者により一つの客観的データに対する受け止め方が異なることや、専門領域での意見の偏りがあることから、全体を俯瞰するプロジェクトマネジャーの役割がより重要となります。



次回(シリーズ第4回)は、整理された情報から事業戦略の選択肢や打ち手の検討を進めるためのフレームワークや手順についてご説明します。



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