Netpress 第2298号 元中小企業庁執行担当官が語る 中小企業オーナーのための事業承継税制の活用法

Point
1.事業承継税制の特例措置の活用にあたっての重要なポイントは、「制度に対する理解を深め、誤解を払しょくする」「上手に付き合いを続けることができる」という2点です。
2.ここでは、中小企業オーナーに向けて、事業承継税制の特例措置の活用法や留意点を解説します。


税理士法人山田&パートナーズ
公認会計士・税理士 金沢 伸晃


事業承継税制の特例措置(以下「特例措置」といいます)をご存じでしょうか? この特例措置は、事業を長期的に継続するにあたって、依然として中小企業オーナーの税負担が事業承継時の大きな課題となっていることから、2018年に創設されたものです。


特例措置は、創設から10年間限定の時限措置として誕生し、上手に活用すれば、非上場会社の株式等の承継に係る贈与税・相続税の大幅な負担軽減につながります。ただし、制度の難しさや「猶予」制度という印象が影響して、改良された現在でも、残念ながらあまり活用されていないのが実情です。


他方で、2024年3月末に第一段階の手続の期限が到来するため、目安として2023年の年末くらいまでには、一定の検討を行っておく必要があります。


本稿では、1年9か月ほど中小企業庁に勤務し、事業承継ガイドラインの改訂にも関与した筆者の視点から、改めて特例措置の解説と活用にあたってのアドバイスをさせていただきます。

1.特例措置の具体的な内容

事業承継税制は、①後継者である受贈者・相続人等が、認定を受けた非上場会社の株式等を贈与または相続等により取得した場合において、②その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、③将来的に後継者が死亡した場合や一定期間経過後にさらに次の後継者に対して事業承継税制を活用して株式等を承継した場合(以下「免除要件」といいます)において、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。


平成30年(2018年)度税制改正では、この事業承継税制について、これまでの一般措置に加え、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総株式数の最大3分の2まで)の撤廃や、納税猶予割合の引き上げ(80%から100%)等がなされた特例措置が、10年間の措置として創設されました。


特例措置は、一般措置と比較して、適用範囲や要件等が緩和されています(次頁表参照)。


事業承継税制については、贈与税・相続税の「猶予」制度という語感から、「いずれ必ず納税しなければならない」と誤解している方が少なくありません。


しかし、特例措置を上手に活用した場合、非上場株式等の承継時において贈与税・相続税が100%猶予され、将来的に前述した免除要件を充足すれば猶予されていた税額が免除されることになります。

2.特例措置の活用にあたってのアドバイス

特例措置は時限措置であり、最初の手続の期限である特例承継計画の提出期限が2024年3月末に迫っています。この提出期限は、令和4年(2022年)度税制改正において1年延長されましたが、再度延長されるかどうかは不透明な状況にあります。上手に活用することにより、大幅な税額軽減となる可能性がありますので、ぜひ今一度改めて検討していただきたい制度といえます。


特例措置の活用にあたっては、「制度に対する理解を深め、誤解を払しょくする」「上手に付き合いを続けることができる」という2点が重要なポイントとなります。特例措置を活用し、贈与税・相続税の猶予を継続するためには、制度適用のタイミングのみならず、免除要件を満たすまでの期間、長期的に充足すべき一定の要件があります。


そのため、特例措置の活用にあたっては、以下の点を検討することが肝要です。


① 特例措置の適用時の要件、猶予が継続されるための要件、免除要件を理解する
② 特例措置の要件を、適用時のみならず、継続して満たし続けられるか検討する
③ 特例措置に詳しい税理士に、継続的に相談する
④ 実際に適用するかどうかを結論付けられなかったとしても、特例承継計画の提出は早急に検討する


特例措置の活用状況は、2018年に創設されて以来、事業承継ガイドライン改訂検討会(第1回)の事務局資料より、月平均200件から300件程度といわれています。活用が適しているにもかかわらず、依然として活用の検討すら行っていない会社もあると思われますので、改めて検討することをお勧めします。


検討にあたっては、税の軽減効果と合わせて、「上手に付き合いを続けることができる」かどうかを慎重に見極めることが肝要です。状況によっては、複数の税理士に相談するほうが複眼的に検討できることもあるかもしれませんので、この点もぜひご検討ください。


なお、本稿のうち、意見等に係る部分は著者の個人的な見解であり、税理士法人山田&パートナーズの公式見解ではないことをお断り申し上げます。


【特例措置と一般措置の適用範囲・要件等】

特例措置
(参考)一般措置
事前の計画策定等
6年以内の特例承継計画の提出
(2018年4月1日から2024年3月31日まで)

不要
適用期限
(最初の取得)

10年以内の贈与・相続等
(2018年1月1日から2027年12月31日まで)

なし
対象株式
発行済完全議決権株式等のすべて
発行済完全議決権株式等の最大3分の2まで
納税猶予割合
100%
相続:80%、贈与:100%
承継パターン
複数の株主から
最大3人の後継者

複数の株主から
1人の後継者

雇用確保要件
弾力的
承継後5年間
平均8割の雇用維持が必要

事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除
譲渡対価の額等に基づいて再計算した猶予税額を納付し、従前の猶予税額との差額を免除
なし
(猶予税額を納付)



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