Netpress 第2291号 超高齢社会の課題を解決! 「ジェロントロジー」によるシニア人材の活用

Point
1.ジェロントロジー(Gerontology)とは、加齢学、老年学と訳され、人間の「老化」について研究する学問です。
2.ここでは、ジェロントロジーをビジネスに活かすという観点から、シニア人材の活用について解説します。


株式会社自分楽代表取締役
一般社団法人日本産業ジェロントロジー協会代表理事
﨑山 みゆき


1.ジェロントロジーと高齢者の特徴

ジェロントロジーの特徴は、医療・福祉・経済・法律など、さまざまな分野から学際的に取り組むということです。日本においては、高齢社会における金融サービスに取り組む「金融ジェロントロジー」、企業のシニア人材マネジメントを解決する「産業ジェロントロジー」などがあります。


高齢者の特徴としては、以下の3つが挙げられます。


(1)加齢に伴い生涯発達する能力がある

「生涯発達理論」という心理学的捉え方であり、高齢者の「知恵」がこれに当たります。


(2)個人差が大きい

身体的機能・心理状態ともに、同年齢の平均値が通用しにくくなります。長年生きているので、蓄積されてきたライフスタイル、食生活、投薬などに差があるためです。


(3)体調・心理状態の変化が激しい

「朝、出勤したときには元気だったのに…」という経験をお持ちの方も多いかもしれません。その理由の一つとして、環境適応能力の低下があります。

2.高齢期になっても伸びる「結晶性知能」を活かす

私たちの能力は、「流動性知能」と「結晶性知能」の2つに分類することができます。




(1)流動性知能(fluid intelligence)

新しい環境に適応するために、新しい情報を獲得して、それを処理し、操作していく知能です。10代後半から20代前半にピークを迎えた後は、低下の一途を辿ります。


例として、処理スピード、直感力、法則を発見する能力などが挙げられます。


(2)結晶性知能(crystallized intelligence)

個人が長年にわたる経験、教育や学習などから獲得していく知能です。20歳以降も上昇し、高齢になっても安定しています。昨今の研究では、個人差があるものの、80歳以上になっても伸びる人がいることも判明しています。


例として、言語能力、理解力、洞察力などが挙げられます。


加齢により、知能のすべてが低下するわけではありません。「結晶性知能」に注目し、これを活かすことができる仕事を担当してもらうようにしましょう。


事例を一つ紹介します。


都内のある生命保険会社では、がん保険の営業担当を、20代の若手から60代の再雇用者に替えた結果、成約率が上がりました。1か月の訪問件数は、体力的に減少しましたが、シニア世代の持つ言語能力と、顧客の心情や経済状態の洞察力が功を奏しました。「私の周りにがんの人がいて…」という事例も高齢期になるほど増えるので、リスク管理の重要性が現実味を帯びることはいうまでもありません。


このように、シニア人材の能力を考える際には、量ではなく、質に着目することが大切です。ただし、今までに経験したことのない仕事や、スピードを求められる仕事は不得手なので、ゲームのソフトウエア開発や、5年後に着手するための新ビジョン構築を任せるといったことは、あまりお勧めできません。年齢による能力差を考えて仕事を割り当てましょう。

3.「やる気がない」のは、体力低下にも起因する

「従業員が定年後の再雇用になったとたんにモチベーションが下がったのですが、マインドリセットのために、よい対策はありますか?」。経営者や人事部門の方から、こんな相談を受けることがよくあります。


たいていの方は、給与と処遇の改善策を模索して回答を求めてきますが、見落としていることがあります。それは「加齢による体力の低下」です。体力には、以下の2種類があります。


① 「行動するための身体的な体力」

② 「病気やストレスから体を守る防衛力」


高齢者の特徴は、疲れやすく、回復に時間がかかることです。これに気が付かずに、今までと同じ時間、同じストレスを与え続けていれば、過労となり仕事のパフォーマンスが下がるのは当然のことです。


私が定年後再雇用の男性10人と雑談をしていた時、「残業なしの1日6時間稼働」になった彼らから、異口同音に出た言葉があります。それは「こんなに体が楽になるとは思わなかった」です。翌日に疲れが残らないので、仕事運びもスムーズで、ミスも減ったというのです。以下は、企業側ですぐに着手できる3つの対策です。


① こまめに休息をとらせる(10時・15時休憩の設定)

② 1日の勤務時間を短くする(8時間労働の見直し)

③ 高ストレス業務(ノルマ過多・やり慣れない)の翌日は、低ストレス業務(ノルマなし、やり慣れている)をさせる


「個人差が大きい」ことが高齢者の特徴です。可能であれば、ジェロントロジーの視点を活かした「シニア向け就業規則」の作成をお勧めします。


最後に、「シニア人材活用が創る循環型社会モデル」を紹介します。超高齢社会の課題解決に取り組んでいただければ幸いです。





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