Netpress 第2533号 その情報、本当に必要ですか? 採用・雇用管理における 従業員・応募者情報の実務対応

Point
1.採用選考や採用後の雇用管理のために情報を収集する際、職業安定法や個人情報保護法などによる制約に注意する必要があります。
2.情報収集に当たっては、3つの視点で当該情報の取得が本当に必要か確認しましょう。
3.取得した情報を、社内でどこまで共有するか、どの段階で廃棄するか、「情報の入口から出口まで」管理する体制を整えましょう。


日本橋総合法律事務所
弁護士 日野 修一


 企業が採用選考や採用後の雇用管理を行うためには、応募者・従業員に関するさまざまな情報が必要になります。履歴書や職務経歴書だけでなく、SNS上の情報、前職での勤務状況、健康状態、副業の状況など、企業が取得できる情報も増えています。


 しかし、「知りたい情報」「取得できる情報」と「取得してよい情報」は同じではありません。情報収集に当たっては、職業安定法や個人情報保護法などによる制約に注意する必要があります。

1.情報を集める前に確認すべき3つの視点

 ある情報を取得しようとするときは、次の3点を確認することが重要です。これは、採用選考時だけでなく、採用後の従業員情報の収集・管理にも共通する視点です。


① 何のために必要なのか(目的)
② その目的との関係で、本当に必要な情報か(必要性・関連性)
③ 取得方法は適切か(本人への説明や同意の取得を含め、方法の相当性)

2.採用選考では何でも調べてよいわけではない

 職業安定法第5条の5は、求人者等が応募者等の個人情報を取り扱う場合、原則として、その業務の目的の達成に必要な範囲内で収集し、その範囲内で保管・使用することを求めています。


 個人情報保護法上も、情報を取得する際には利用目的をできる限り特定し、本人に通知または公表することが原則として求められます。


 また、職業安定法に基づく指針では、人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地、思想・信条、労働組合への加入状況などについて、特別な職業上の必要性がない限り収集してはならないとされています。


 厚生労働省の「公正な採用選考」の考え方でも、家族や生活環境、思想・宗教など、応募者本人の適性・能力と関係のない事項を把握しないことが求められています。


 昔ながらの面接では何気なく尋ねられていた事項でも、現在は注意が必要です。


 SNSの確認や外部業者によるバックグラウンドチェックについても同様です。


 インターネット上で本人が公開している情報を採用選考の参考にすること自体が直ちに禁止されるわけではありませんが、「公開されている情報だから」というだけで無制限に収集・利用できるものではなく、募集する職務との関連性や採用判断のための必要性を踏まえて、調査する情報の範囲を検討する必要があります。

3.健康情報などは特に慎重な取扱いを

 病歴、健康診断結果、犯罪の経歴などは、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当し、その取得には原則として本人の同意が必要です。


 採用時に本人に具体的に知らせないままB型肝炎ウイルス感染検査を実施した事案では、無断で検査を実施したことがプライバシー侵害に当たるとして、企業の損害賠償責任が認められています(B金融公庫事件・東京地判平成15年6月20日)。


 採用後の健康情報についても慎重な取扱いが必要です。労働安全衛生法第104条は、労働者の心身の状態に関する情報について、健康確保措置の実施に必要な範囲内で収集・保管・使用することを求めています。厚生労働省の指針も、事業場の実情に応じて、健康情報の取扱者や取扱範囲等を定めることを求めています。

4.在職中の情報収集にも「必要性」の視点を

 副業や兼業が許容されている場合であっても、労働時間管理、競業避止、安全配慮義務等の観点から一定の情報を把握する必要が生じることがあります。たとえば、副業先の事業内容や本人が従事する業務内容については競業や秘密保持上の問題がないかを確認するために、勤務日・勤務時間等については労働時間の管理や健康確保のために、それぞれ把握する必要が生じます。


 一方、こうした目的と関係のない情報まで一律に申告させる必要性は乏しく、何を把握するかはその目的との関係で検討することが大切です。企業としては、副業・兼業の届出項目をあらかじめ定め、「何のために、何を申告してもらうのか」を整理しておくことが有効です。


 人事部門や上司が従業員本人から直接聴取する場合であっても、「自社内で集める情報だから問題ない」と考えるのではなく、目的・必要性・取得方法という3つの視点から検討することが大切です。

5.「取得できること」と「社内で共有できること」は別

 適法に取得した情報であっても、社内で自由に共有してよいわけではありません。たとえば、従業員の健康情報について、人事担当者や上司等に共有する必要があるのは、具体的な病名や検査数値そのものではなく、「時間外労働を制限する」「出張を控える」といった就業上必要な情報だけで足りる場合があります。


 取得した情報について、「誰が」「どの範囲で」「何のために」参照できるのかを明確にし、必要に応じて取扱規程やアクセス権限に反映させておくことが重要です。

6.情報の「入口」から「出口」まで管理する

 個人情報管理というと、「取得した情報をどう守るか」に目が向きがちです。しかし、その前に、「そもそもその情報を取得する必要があるのか」を検討することが重要です。


 まずは、自社の応募書類や面接で何を尋ねているか、健康情報や副業情報を誰が閲覧できるようになっているかを確認してみてください。目的を明確にして必要な情報だけを取得し、必要な者だけが利用し、必要がなくなれば適切に廃棄するようにしましょう。


 「情報の入口から出口まで」という視点での点検は、大掛かりな規程整備がなくても、現状の書式や運用を洗い出すことから始められます。企業規模や業種を問わず取り組めるものですので、この機会に自社の運用を一度点検してみることをお勧めします。



◎協力/日本実業出版社

日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/



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