Netpress 第2531号 「KSK2」が稼働開始 データ分析・AI活用で 「税務調査」はどう変わる?

Point
1.国税庁が開発を進めてきた次世代システム「KSK2」の稼働により、税務調査におけるデータ分析・AI活用が加速することが予想されます。
2.今後、調査先の選定方法や調査方法がどのように変わるのか、企業への影響も踏まえて解説します。


租税調査研究会
税理士
清水 太一

1.「KSK2」とデータ活用の効率化・高度化

 税務調査においては、国税庁が長年にわたり、全国規模で納税者情報を管理・共有する仕組みを整備してきました。その中核となってきたのが、2001年から全国で運用されている「KSK(国税総合管理)システム」です。


 KSKは、全国の国税局や税務署をネットワークで結び、納税者情報を一元管理するシステムです。申告内容や納付状況などの情報を蓄積・管理できるため、税務調査の対象の選定や分析を効率化する役割を担ってきました。


 もっとも、従来のKSKには課題もありました。所得税・法人税・相続税・消費税など、税目ごとに分かれた縦割り型の仕組みを前提として構築されていたため、複数税目を横断した分析には限界がありました。


 また、導入からすでに25年が経過し、システムの老朽化も進んでいました。さらに、これからの職員不足にどう対応するのかという問題もあります。


 こうした課題を踏まえ、国税庁が開発を進めてきたのが次世代基幹システムの「KSK2」です。KSK2は、2026年9月24日から稼働を開始しました。


 KSKからKSK2への移行は、従来のシステムの課題を解決し、限られた職員でも安定した税務行政を行うための大きな転換点といえます。


 KSK2では、主に次の3点が変わるとされています。


① 書面中心だった事務処理をデータ中心へ転換すること
② 税目別・事務系統別に分かれていたデータベースやアプリケーションを統合し、縦割りを解消すること
③ 従来のメインフレーム依存から脱却し、汎用的なオープンシステムへ刷新すること


 KSK2では、これまで税目や部署ごとに管理されていた情報が、「統合データベース」により横断的に把握・分析されやすくなります。


 たとえば、所得税、法人税、消費税、源泉所得税、相続税、贈与税といった各税目の情報に加え、各種法定調書や金融関連(海外資産・暗号資産)の資料情報なども、個人・法人との関連付けを含めて分析されることになるでしょう。


 また、税務署において書面中心だった事務処理についても、データ中心へと大きく転換されます。


 従来、税務署では、手書きの届出書や申告書が提出された場合、一部を職員が手入力によりデータ化していましたが、今後はAI−OCR(AIによる文字認識技術)を活用し、税務署内で自動的にデータ化する方向とされています。


 さらに、これまで紙ベースで管理されていた情報(たとえば、税務調査の記録、紙の場合保存年限終了後は廃棄されていました)についても、可能なかぎりデータ化し、後続事務の効率化・高度化が進められていく予定です。


 KSK2では、税目別・事務系統別に分かれていたデータベースが統合されることにより、たとえばオーナー企業の場合、次のように法人税・所得税・贈与税などを横断して確認される場面が増える可能性があります。


・役員報酬や配当が個人側の申告に適切に反映されているか
・株式譲渡時に、譲渡所得や贈与税の申告が適正に行われているか
・個人や法人間の貸付けについて、適正な利息計上がされているか

2.調査対象の選定はどう変わるか

 経理・財務担当者がもっとも気になるのは、これから調査対象の選定がどのように変わるのかということでしょう。


 従来のKSKにおいても、納税者の申告内容や財務諸表、法定調書などが分析され、同業他社と比較して突出した費用科目などがあれば、調査対象の選定の参考情報とされてきました。


 KSK2では、これまで紙で管理されていた情報についてもデータ化を進め、統合システムへ取り込むことで、蓄積された情報を統計分析や機械学習により分析し、申告漏れの可能性の判定を行う方針が明らかになっています。


 また、近年金融機関向けオンライン照合システムの導入により、調査対象者や関係者の口座情報を確認できるよう環境整備(従前の紙でのやり取りを、㈱NTTデータのpipitLINQなどを介したデータのやり取りに)が進められています。


 さらに、被相続人の死亡などの情報についても、従来は市区町村から税務署へ書面で通知されていましたが、2024年4月以降は、法務省と国税庁がオンラインで直接情報連携を行う仕組みへと移行しています。


 加えて、法務省の登記情報なども資料情報として蓄積されており、これらのデータを活用したAI分析や機械学習による予測モデルの構築に取り組んでいます。


 具体的には、申告内容、調査事績、滞納者情報、蓄積された資料情報などを組み合わせ、異常値や不整合を抽出し、「調査必要度」の高い先を効率的に選定する仕組みの構築が進められています。

3.調査の入口はどう変わったのか

 KSK2への移行やAI分析の本格化、デジタル庁主導のGSSツールにより、税務調査の入口は変化しつつあります。


 従来の調査選定では、KSKを用いて業種ごとに大まかな抽出を行ったうえで、最終的には責任者の経験や勘に依存する部分も少なくありませんでした。


 しかし現在は、「SAT」(個人課税)、「RIN」(資産課税)、「結」(法人課税)といった、AI分析を前提とした「選定支援ツール」を積極的に活用し、調査対象選定の効率化、高度化を図っています。


 国税庁としても、限られた人員で効率的に調査を進めるため、「実地調査を行うべき調査先」と「行政指導や簡易な接触で対応可能な調査先」をより高精度に選別するためにAIを活用しているといえます。


 実際のところ、いわゆる「膝を突き合わせた」対面型の実地調査は、所得税・法人税ともにコロナ禍以降大きく減少しした一方で、書面や電話を中心とした「簡易な接触」は増加しています。



 税務調査は、いまや「来てから対応するもの」ではなく、企業側でも新しい動きに対応していく必要があります。


 詳細な資料情報を元に進められる「実地調査」(調査官はGSSツールであるノートPCを持参し従前税務署に持ち帰っていたものを手元で確認します)、そしてポイントを絞って接触件数を広げる「簡易な接触」というアプローチに対して、企業側に求められることは、単に申告書類を作成するだけではなく、「なぜその数字になったのか」をきちんと説明できる体制を整えておくことでしょう。



◎協力/日本実業出版社

日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/



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