Netpress 第2534号 10月より対策が義務化 中小企業に特有のハラスメントリスクと処方箋
1.経営リソースが限られた中小企業では、なかなかハラスメントへの対応までは手が回らない状況があります。
2.ここでは、中小企業に特有のハラスメントの問題に焦点を当てて、そのリスクと処方箋をみていきます。
ことし10月1日より、改正労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法に基づき、カスタマーハラスメント対策(カスハラ対策)と就職活動中のセクシュアルハラスメント対策(就活セクハラ対策)が、すべての企業に義務付けられました。
カスハラは、行為者が「自社の指揮命令下にない顧客や取引先」である点が、従来の社内ハラスメントと決定的に異なります。就活セクハラは、被害者が「自社に雇用されていない求職者やインターン生」である点が特徴とされます。
企業経営において、ハラスメント対策は単なる法令遵守の枠を超え、企業の継続を左右する重要な戦略的課題です。
しかしながら、人手不足に直面し、経営リソースの限られた中小企業にとっては、「わかってはいるけれど手が回らない」という状況もあるのではないでしょうか。
そうした状況も踏まえて、中小企業に特有のハラスメントのリスクとその処方箋について解説します。
1.中小企業に特有の弱点―カスハラの場合
(1) 複数での対応が難しい
従業員が1人の店舗等では、被害者を行為者から物理的に引き離すことが現実的に不可能です。パート・アルバイト1人体制の店舗もあり、カスハラが起きた場合、管理監督者や正社員等に相談することができず、1人で現場対応をせざるを得ないことがあります。
このような環境では、従業員は1人で不当な要求や暴言に立ち向かわざるを得ず、精神的なダメージが深刻化しやすくなります。
また、周囲に目撃者がいないために事実確認が難しく、「言った・言わない」の泥沼化を招きやすいことも問題です。
(2) 取引関係から拒絶しにくい構造
1社や少数の企業との取引に依存するような構造下では、顧客からの過剰な要求を拒めない心理的圧迫が生じます。特にBtoBの企業で、行為者が取引先の担当者や役員である場合には、組織間の関係性が対応に強く影響します。
過度な顧客優先の慣行は、従業員にストレスを強いるだけでなく、ハラスメントを是認する土壌となります。
2.中小企業に特有の弱点―就活セクハラの場合
(1) 人手不足からくる「密室」
中小企業では、人事担当者1人や少数のリクルーターが担当するなど、採用活動が属人化しやすい傾向があります。そのため、面接や面談が1対1の密室で行われることも少なくありません。
また、SNSを利用した私的なやり取りや、個室、酒席での面談など、企業の管理が及ばない場所で採用担当者が求職者と接点を持つことも、就活セクハラの発生のリスクを高めます。
(2) 採用活動への焦り
人手不足に悩む中小企業では、応募してくれた求職者等を何とか繋ぎとめようと必死になってしまいがちです。
過度に気を引こうとしたり、個人的な事情に配慮しようとした結果プライベートな質問をしてしまったりと、採用を焦るがゆえにルールに沿った行動を逸脱してしまう場合があります。
(3) 拠点責任者の知識不足
拠点責任者が採用活動を行う際、知識や研修が不足していると就活セクハラを引き起こす重大なリスクとなります。
「親しくすれば本音が聞ける」と拠点責任者が勘違いし、公私の区別を欠くケースや、研修不足により性別役割分担意識に基づく不適切な質問を無意識に行ってしまうケースもあります。
3.予防の徹底が最良の対応策
ハラスメントが発生してしまうと、その後の対応は事実確認と判定の困難さ、精神的な負担による人材の流出、費やす時間、法的リスク等、中小企業には大きな負担です。予防の徹底こそが最良の対応策となります。
(1) ハラスメント防止規程の整備
厚生労働省の指針等をもとに、自社に合ったハラスメント防止規程を整備しましょう。
そのうえで、単にハラスメントの禁止を定めるだけではなく、自社のルールを社内外に周知することが重要になります。
すべての従業員に周知するとともに、ホームページや店頭等にも自社の方針を掲示して、顧客等の関係者に対して周知することが被害防止のために効果的です。
(2) 相談窓口の設置・運用の工夫
ハラスメント相談窓口を設置しても、利用されなければ意味がありません。特に中小企業では、「相談が筒抜けになるのでは」という不信感を拭うための工夫が求められます。
社内に相談窓口を設定した場合には、「判断は経営者が行う」「情報の取扱い範囲を事前に決める」ことを徹底しましょう。相談窓口の担当者も守るべき従業員です。社内に十分なリソースがない場合には、従業員に負担を掛けないためにも、外部に相談窓口を設置する方法が有効です。
(3) ハラスメント対策研修の実施・受講
実例を基にRPG形式で進める研修もよく実施されますが、それだけではハラスメント対策としては不完全です。研修は全従業員を対象とし、ハラスメントの発生原因や背景への理解も深められるようなものにしましょう。
社内で研修を行う際、「誰が講師を務め」「誰を受講者とするか」の組み合わせは、研修の実効性を左右します。社内の人間関係が研修の効果に影響を与えてしまう場合があることにも留意しましょう。
4.ハラスメントを生まない体制を整えるために
各種のハラスメントは密室や1対1の状況で発生しやすく、客観的証拠が不足しがちになるため、事実認定が困難なケースが少なくありません。その結果、相談者・行為者双方の言い分が平行線をたどり、解決できないままになってしまう可能性が大いにあります。
ハラスメントが認定されない結末を考えると、初動対応でいかに相談者に寄り添えるかが重要です。対応ができない状況での放置は、組織に対する重大な不信感を招きます。事後対応の限界を前提とした予防の徹底が不可欠です。
面談ルールの厳格化や録音・録画、毅然とした対応方針の明文化等、ハラスメントを生まない体制を整えることが、職場での心理的安全性を高め、従業員の安全と組織の信頼を守るための実効性ある処方箋となります。
そのためには、経営者自らが先頭に立ち、全社一丸となってハラスメントに対する姿勢を明確に打ち出し、周知・啓発していくことが何よりも重要です
◎協力/日本実業出版社
日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/
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